04
---------------------------



その女の子の第一印象は、よく覚えていない。
『わからない』というのが本音だろう。
俺とウヴォーは逃げて逃げて、捕まって。
2人して情けない叫び声をあげれば、近くにいたんだろう。シャルナークが現れた。
危ないから逃げろと叫びたい口は機能をはたしてはくれなくて、ただ震えた音を途切れ途切れに紡ぐだけだった。
ウヴォーは捕まったとき暴れたが、ナイフを首もとに突きつけられてそれも大人しくなる。
シャルナークも震えているように見えたけど、それはもしかしたら俺の視界が震えていたのかもしれない。
シャルナークだけでも逃げてほしかったけど、そんな思いと裏腹に身体は恐怖に怯えていて。
抵抗することすら出来なかった。
俺はこんなにも弱虫だっただろうか、と泣きたくなった。
だから最初、見間違いだと思ったんだ。
視界が恐怖か涙かで震えていたから、まさかゴミ山の頂上に女の子が立っているだなんて、俺の見間違いだと思ったんだ。
とうとう頭までやられたかと笑おうとした、シャルナークが「2人を離せ」と叫んだ、その瞬間だった。

「―――――!?」

俺たちを、殺気が包み込んだ。
戦意でも悪意でも害意でもない、純粋な殺意。
殺すというだけの思いが、この空間を包み込んだ。

「………………」

しばらくの沈黙。
俺が見間違いだと思った女の子は、既にゴミ山の頂上にはいなかった。
どこだろう、と探そうとした瞬間、俺は地面に顔から落ちた。

「―――――っ!」

それはウヴォーも同じだったらしく、痛そうに顔面を抑えている。
何事だろう、と俺は俺を抱えていた大人を見上げた。

「!?」

驚きのあまり、声なんか出なかった。
目を疑った。
理解出来なかったのだ。
・・・・・   ・・
肩から上が―――無い。
だけど、終わって無かった。
まだ、終わりじゃなかった。

「ひっ!」

悲鳴をあげたのは誰だっただろう。
べちゃべちゃと、地面に落ちていく肉の塊。
跳ねた血が、生暖かくて気持ち悪い。
辺りは一面真っ赤だ。
俺は突然のショッキングな光景に腰が抜けて動けない。
ウヴォーもそのようだ。
人が殺されるのも見たことあるし、殺したことだってある。でも、こんな。
・・・・・・・・・・・・・
こんな滅茶苦茶じゃ無かった。
滅茶苦茶だ。
ぐちゃぐちゃだ。
何が何だかわからない。
誰が誰のでどれがどこで、原型が何だったのかが、見ていた俺でもわからない。
こんなことが、可能だとでも、言うのか?

「あ、ごめん…汚れちゃったよね」

その声に、顔がゆっくりとそちらを向く。
見たことがない、女の子だった。
手には血が付いたナイフを握っていたから、多分それで殺したのだろう。
バラバラにしたのだろう。
そんな、小さなナイフで。

「あれ?もしかして殺しちゃダメだった?」

誰も何も言わないから、女の子は疑問に思ったらしい。
そこじゃないだろう、と言いたかったが、まだ口は口としての機能を果たしてはくれそうにない。
そもそもどこだというのだろう。
女の子は退屈そうにナイフをくるくると指で回している。

「こ、これ、シュニが…?」

シャルナークが、震える口を開いて女の子に訊く。
どうやら女の子と知り合いらしい。

「うん。えっ、もしかして本当に殺しちゃダメだった?」

やっちゃったー、と女の子は額に手をあてるが、本当に悪びれているようには見えない。
どうでもいいといったような感じだった。
俺は、唖然とする他無かった。
こんな年齢で、こんな奴が存在しているだなんて。
違う。
そうじゃない。
こんな滅茶苦茶な人間が、存在しているだなんて。

「……………………」

俺は恐怖でも怯えでもない、ある種の尊敬をそいつに覚えていた。
ヒトゴロシ以前に、何よりも誰よりもどこまでも、コイツは命の恩人で。

そう考えていたら、いつの間にかシャルナークがそいつに向かって歩いていた。
靴が血で汚れることなんか気にしていない。
そして。

「シュニ!ありがとう!」

そう言って、シャルナークはそいつへと飛びついた。
面倒そうにそいつが目を閉じているのを、俺は黙って見つめていた。




「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -