06
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「なにしてるの?」
「う、」わ!
レオリオやハンゾーの声がうるさく、シュニのその驚きの声は彼らに聞こえてはいないようだった。
突然の耳元での声に、シュニは驚いて勢い良く振り返る。
「な、なに」
「だってきみ、今殺気すごいよ◆」
ヒソカがニコリと笑う。
シュニはヒソカの言葉にハッとなり、顔に手を当てた。
「(……………………)」
思いっきりイルミの殺意に当てられていた、といつかの過ちを繰り返しそうになっていたことに気付き、反省する。
今此処で誰かを殺してしまえば、自分はハンターにはなれないのだ。
「クク……別にそのままでも良かったんだけど、手伝うって約束したしね」
「え?あー…そう、だったね」
これは結果的に手伝われたことになったのか、とシュニはヒソカの笑い声に苦笑いを零す。
「ちょっと」
かけられた声。
何かと思い顔をあげれば、そこには先ほどまで試合をしていたイルミの姿。
ハンター試験でずっと一緒だったとはいえ、今まで彼は"ギタラクル"だったのだ。
なんだか変な感じがする、とシュニは少し戸惑う。
「あー、えっと、久しぶり」
「は?」
何言ってんだこいつ、と言わんばかりの反応にシュニは先ほどとは別の意味で苦笑いを零したくなった。
「てか、ヒソカと知り合いだったの?」
「?」
突然の質問に、シュニは首を傾げる。
その反応が不満だったのか、イルミはじっとシュニを見下ろした。
一体何を考えているんだとイルミを見つめ返すシュニだったが、結局わからず仕舞いなのはいつものことなので諦めて口を開く。
「知り合いというか、知り合ったというか…」
「彼女とは三次試験で仲良くなったんだよ◆」
「………あっそ」
仲良くはなってないと否定したいシュニだったが、どこか楽しそうにしているヒソカに疑問を抱き、それどころではなかった。
「ま、ハンターになれて良かったんじゃない?」
「え、でも」
試験はまだ、と言おうとして。
突然の鋭い殺意に、シュニは息を吸い込んだ。
「…………………」
悲鳴も無い。
シュニの視線の先で、レオリオの対戦相手であるボトロが死んでいた。
返り血を浴びているのはレオリオ―――そして、ゾルディック家であるキルア。
彼はボトロの心臓を抉った手を見下ろし、何も言わずに扉から出て行った。
「(………はぁ、)」
シュニは吸った息をゆっくりと吐き出す。
先ほどヒソカにペースを乱された"おかげ"でキルアの殺意に反応することはなかった。
にしても、といつの間にか隣に立っているイルミを見上げる。
その表情は相変わらずのものだったので、こうなることを予想していたのは明らかだった。
「…キルア氏の不合格により、この場に居る全員にハンターの資格を与えます」
試験官の1人が、結果だけを報告する。
誰も―――何も言わなかった。
対戦相手を目の前で殺されたレオリオですら、何も言葉が出てこない。
キルアは既にこの場にいない。どこへ行ったのだろう。
それすらもイルミは知っているのだろうけど、シュニは特にそれを聞き出そうとは思わなかった。
「………………………」
『相手を死に至らしめてしまった者は即失格』。そう、ネテロは言っていた。
明らかにボトロは死んでいて、どうしようもなくキルアは失格だった。
案内された合格者への説明会が行なわれる部屋にも、言いようのない空気が漂う。
だがやはりとでも言うべきか、イルミとヒソカ、そしてシュニはそんなことを微塵も気にしてなどいない。
「(キルア=ゾルディック、か)」
シュニは席について、一番前の席に座っているイルミの背中をじっと見つめた。
イルミにはあまり似ていないように見えた。
しかし、ゼノ…というよりシルバには確かに似ている気がする。
ということはイルミは母親似なのだろうか、とイルミから視線を逸らした。
「?」
ふと、視線を感じてそちらを見る。
「◆」
ヒソカが、意味ありげな笑みを浮かべてシュニのほうを見ていた。
一体何事かとシュニは眉間に皺を寄せるが、ヒソカは目が合って満足したとでもいうようにシュニから視線を逸らし、前を向く。
「(ハンター試験…)」
本当に終わったのか、とシュニは先ほど渡されたハンターライセンスを見下ろした。
意外と地味なものだとその薄いカードを観察する。
ネテロはどう思っているだろうか。
恐らく、キルアのあの行動はネテロでさえ予見できていなかっただろう。
そして、もし予見出来ていたとしても、防ぐ手立てなど有りはしない。
彼は少なくともあのときだけは自分の意思で、他人の命を奪ったのだ。
―――殺し屋。
あのときの彼は、明らかにそれだった。
「……………………」
レオリオもクラピカも何も言わなかったが、ゴンはどうだろうとシュニは恐らくまだ意識を取り戻していないであろうゴンのことを思い返す。
レオリオが言うように本当にキルアのことを友達だと思っているとしたら、彼が何も言わずにハンターライセンスの説明を受けるとは思えない。
だが至って普通に説明を受けようとしているイルミは、そんなこと微塵も思っていないのだろう。
何事も無ければ良いけれど、とシュニはハンターライセンスをポケットにしまった。