05
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彼らは一瞬、イルミが何を言ったのかが理解できなかった。
そしてその言葉の意味を理解し、異常を知り、殺意を感じ取る。

「殺し屋に友達なんていらない。邪魔なだけだから」

キルアは酷く怯えていた。
もう彼は何も言わない。
友達になりたいと望む、もう自分を友達だと思ってくれているゴンを目の前の存在は消そうとしているというのに。
何も考えられない。
何もわからなかった。

「彼はどこにいるの?」

ツカツカとイルミが足を進める。
それを試験官の1人が試験中だからととめようとするが、イルミはそちらを向くでもなく左手を軽く動かした。
目で追えた者は数少ない―――既に試験官の頭部には数本の針が突き刺さっている。

「あ…?アイハハ」

「どこ?」

「とナリの控え室ニ」

「どうも」

イルミの針のせいだろうか。
試験官の顔は変形し、イルミの質問に答えたと思うと膝をついてその場でガクガクと震えだす。
試験官である男がそんな様子だというのに、イルミは別のことで足を止めた。
目の前の扉に立ちはだかる、試験官―――と、他の受験生3名。
クラピカ、ハンゾー、レオリオは、睨みつけるようにイルミの前に立ちはだかる。
イルミはそんな3人を視界にいれ、顔をしかめた。

「まいったなあ…仕事の関係上、オレは資格が必要なんだけどな。ここで彼らを殺しちゃったらオレが落ちて自動的にキルが合格しちゃうね」

しかし、それは彼らという障害があるからではない。
その障害を"排除"した"結果"を嘆くものであり、"排除できるか""否か"などということは初めからイルミの思考回路には存在しなかった。

「あ、いけない。それはゴンを殺ってもいっしょか。うーん」

キルアは地面を見つめ、イルミが背を向けているというのに視線を上げることができない。

「そうだ!」

イルミもまた、キルアの方を向こうとはしない。
それでも、その言葉は明らかにキルアへと聞かせていた。

「まず合格してからゴンを殺そう!」

キルアは、自分でも気付かぬ間に大量の冷や汗をかいていた。
ガクガクと震える身体を止めることはできない。
目の前の殺意をどうにもできない。

「それなら仮にここの全員を殺しても、オレの合格が取り消されることはないよね」

「うむ。ルール上は問題ない」

ネテロは、イルミの疑問に平然と答える。
キルアは静かに目線をあげた。
未だにこちらを見ないイルミの背を見つめる。

「聞いたかいキル」

それを見越したかのように、イルミがキルアへ語りかける。
振り返ったイルミの表情は、先ほどと全く変わらない。

「オレと戦って勝たないと、ゴンを助けられない」

イルミのその瞳が、キルアを捉える。

「友達のためにオレと戦えるかい?」

イルミのその存在が、キルアを捕らえて離さない。

「できないね。なぜならお前は友達なんかより、今、この場でオレを倒せるか倒せないかの方が大事だから」

キルアの瞳が動揺で揺れる。
何も言い返せなかった。その通りだと、核心をつかれたキルアは言葉に詰まる。

「そしてもうお前の中で答えは出ている。『オレの力では兄貴を倒せない』」

扉に向かっていたイルミの足は、再びキルアの前へと戻った。

「『勝ち目のない敵とは戦うな』。オレが口をすっぱくして教えたよね?」

キルアは動こうとした。
何のためかはわからない。
友達であるゴンのため?それとも、望みを捨てたくない自分のため?
わからない。
そしてその微かな抵抗さえ、兄の前では許されない。

「動くな」

その言葉だけで、キルアの体は硬直する。

「少しでも動いたら戦い開始の合図とみなす。同じくお前とオレの体が触れた瞬間から戦い開始とする」

イルミはゆっくりとキルアへ手を伸ばした。
もう考えている時間はない。それ以前に、考えている余裕などキルアには存在しなかった。

「止める方法は一つだけ。わかるな?」

絶望が、キルアへ伸ばされる。

「だが…忘れるな。お前がオレと戦わなければ、大事なゴンが死ぬことになるよ」

「やっちまえキルア!どっちにしろお前もゴンも殺させやしねえ!そいつは何があってもオレ達が止める!!お前のやりたい様にしろ!!」

レオリオが叫ぶ。
イルミの手が伸びる。
彼らは結果を見守った。
そして―――

「まいった。オレの…負けだよ」

―――レオリオの言葉は、届かない。

「あーよかった。これで戦闘解除だね」

イルミが伸ばしていた手を引っ込め、胸の前で手を合わせる。

「はっはっは、ウソだよキル。ゴンを殺すなんてウソさ。お前をちょっと試してみたのだよ。でもこれではっきりした」

ポンポン、と今までの空気が本当に嘘だったとでもいうように、イルミはキルアの肩を軽く叩いた。
キルアは何も反応しない。
ただ床を見つめ、目の前の闇を肯定するしかなかった。

「お前に友達をつくる資格はない。必要もない」

そう囁かれた言葉は、キルアの心へと、なんの抵抗もなく落ちていく。

「今まで通り親父やオレの言うことを聞いて、ただ仕事をこなしていればそれでいい。ハンター試験も必要な時期がくればオレが指示する。今は必要ない」

イルミは静かにキルアの横を通り過ぎる。
誰も、何も言わない。

「……勝者、ギタラクル!」

別の試験官が、慌てたように結果だけを口にした。
既にイルミはハンター試験の合格者になっている。
ようやく足を進めたキルアにレオリオが詰め寄るものの、抜け殻のようにキルアは何も言わなかった。



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