03
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最終試験開始。
その記念すべき第一試合は、ハンゾーVSゴン。
シュニは特に2人の対決に興味は無かったが、この場にいる以上彼らの試合を見る以外に暇を潰す手段は無い。
他の受験者たちも同様に、2人の戦いを見守っている。

「……………………」

「……………………」

しかしシュニは正直、二人の対決どころではなかった。
この最終試験の内容で一体どのようにしてヒソカが自分のことを"手伝って"くれるのかという疑問もあったが、そんなことより。

「(めっちゃ見てくる……)」

シュニは、少し離れたところからの視線に気付かないフリをすることで精一杯であった。
視線の正体はやはりともいうべきか―――"ギタラクル"。
何故彼がこちらを見ているのか、シュニには理由に心当たりがありすぎて1つに絞ることができない。
"ギタラクル"が"イルミ"だということに気付いたことに気付いたのか。あるいはこの状況で"イルミ"を探さない自分に疑問を抱いているのか。あるいは"探すことを阻止"しているのか―――。
そこで、1つの疑問にぶち当たる。
そもそもどうして"イルミ"は変装など――自分の正体を隠すような真似などをしているのか。
しかもただの変装ではなく、気配からなにから"存在"ごと変形しているそれは、彼の単なる気まぐれではない事を示している。というか、彼が"気まぐれ"などという行動を起こすこと自体シュニには信じられなかった。

「………………………」

シュニは静かに辺りを見渡す。
このハンター試験を勝ち抜いた、精鋭とも呼べるであろう彼ら。
この中に―――"イルミ"が正体を隠す理由があるとでもいうのだろうか。

「………………………」

何を考えているかわからない笑みを浮かべたままこの試合の行方を見ているヒソカではないことは確かだろう。
そしてそんなヒソカが見ている試合を見ていないイルミが試合に出ている二人を理由にしているとも思えない。
シュニは自身が関わったことのある他2名をまず意識した。
レオリオ。そして、クラピカ。
こちらを見てくる"ギタラクル"の視線を気にかけたが、変化は無い。
ならば"何が"―――と視線を動かそうとして。

「アホかー!!!!」

聞き覚えのある声が会場に木霊し、シュニの集中力が途切れる。
そちらを見てみれば、どうやらハンゾーがゴンを殴り飛ばした模様。
他の事に集中していたとはいえ、試合の流れを完全に無視していたわけではない。
大方、ゴンのペースにのせられたハンゾーが痺れを切らしたというところだろう。
そのままゴンは受身も取らず地面に背中から落ち、ピクリとも動かなかった。
ハンゾーは元から気絶させるように殴ったのだろう。起き上がる気配のないゴンのことを心配する素振りを見せることなく審査員のほうに話しかけている。

「(一試合目はゴンの勝ち、か…)」

四次試験での出来事を思い返す。
シュニは別に、ゴンのことを気にしていないわけではなかった。
ヒソカも自分も殺意に夢中になっていた。そこで、彼はそれを利用した―――言うのは簡単だが行動に移すのは容易ではない。相手がヒソカなら尚更である。
しかしあの少年はやり遂げた。あのあとヒソカに追われてどんなやり取りがあったのかなど知らないが、それだけで十分である。
そしてシュニは知らないが、ゴンのほうもまた、シュニのことを気にしていないわけではない。

「(先ほどから一体何を気にしている…?)」

それはクラピカもまた同様。
ハンゾーとの戦いでゴンに多少は意識がいっていたものの、クラピカが自身に向いた意識に気付かないはずもなく。
あまり最終試験に集中しているとはいえないシュニに、少しの不信感を持っていた。
だが次は自分の試合の番。あまり他人に構っている場合ではない。

「第二試合、クラピカVSヒソカ!」

あの2人が戦うのか、とシュニは試合の成り行きを見守ろうと相変わらずの視線を気にせず前を見るが、二試合目は一試合目よりもあっさりと決着が着くことになる。
ヒソカの出方を伺うクラピカにヒソカは何の警戒心も持たず近付き、攻撃する素振りも見せずただ耳元に顔を近づけるだけ。
その間、数秒。すぐにヒソカは離れ、自身の負けを宣言した。

「……………………?」

その様子にはシュニも、シュニ以外の受験者も戸惑いを隠せないでいる。
一体ヒソカは何をクラピカに囁いたのか。そして、何故囁かれた方ではなくヒソカが負けを宣言したのか。
唖然としているクラピカではなく、ヒソカのほうをシュニは見る。
パチリ、と目があった。

「…………◆」

「!」

ニッコリといつもの笑みを浮かべるヒソカ。
そういうことか、とシュニはヒソカから視線を逸らす。
彼の言う『手伝う』というのはこういうことなのだろう。
クラピカと事前に何かあったのかは知らない。しかし、自分に関しては、もし戦うことがあれば負けを宣言するという意味を示した笑み。
しかしもし自分とヒソカが戦うとなればもっと後の話だ―――とシュニは対戦表をもう1度眺める。

「……………………」

試合は三試合、四試合目と順調に進んでいく。
しかし四試合目で相手が負けを宣言した為、ヒソカは既にハンターの肩書きを手に入れてしまった。
そのことに関してヒソカは特に何もアクションを示さなかったので、先ほどの笑みはそういう意味か、と捉えそこなった意味をシュニは今更理解する。
それか――――そろそろ、ヒソカとの"約束"が意味を成さなくなるときが来たとでもいうのだろうか。

「五試合目、キルアVSポックル!」

「(………………?)」

試合の舞台にあがった2人を見る。
勿論、最終試験まで勝ち残った数少ない受験者だ。今までシュニが関わったことがないだけで、その顔に見覚えはある。
ただ、こうしてきちんと観察したのは初めてだな、と2人を見て、シュニは少しだけ表情を崩した。
何か―――"何か"を、今感じたような。どこかで感じたことのある――――

「悪いけど、あんたと戦う気がしないんでね」

そう自信満々に呟くキルアを、シュニは知らぬ間に目で追っていた。



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