03
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最初は、ただの好奇心だった。
このゴミ捨て場―――通称流星街は、どんなものを捨てても許される。
それが死んでいる人間だろうが生きている人間だろうが、同じこと。
所持しているだけで犯罪になるようなものも、たまに捨てられていたりする。
だから、こんなところに同い年くらいの女の子が横になっていても、別に不思議ではないんだ。
「…………………」
何が言いたいのかというと、オレは別に女の子がただ倒れているから興味をもっているわけではないということ。
その女の子の洋服は、妙に綺麗で。
なのに、血の匂いがする。
なんでだろう、と首を傾げたが、答えは出なかった。
だから、答えを知りたいとも思った。
どこからきたのかとか、名前とかも知りたかった。
むしろ名前はあるんだろうか?
無いなら、オレが考えてあげても良い。
「…………………!」
じっ、と見てると女の子が起き上がったので慌てて物陰に隠れる。
気付かれてないみたいだ。
「…………あれ…」
思ったより、声は幼い。オレよりも年下だったりするのだろうか。
女の子は1人で何か呟いていたが、女の子が小声なのと場所が遠いのとであまりよく聞こえない。
「あーあー」
「……………?」
こんなときに発声練習でもしているのだろうか。
「何か用ですか?」
パチリと、視線が合う。
咄嗟のことに、何が起こったのか自分では理解することが出来なかった。
何回見ても、女の子はオレを見ている。
―――――いつから、だ?
いつから自分の存在を気付いていたのだろう。
気配を探っている様子は無かったというのに。
「あー、えっと、用がないなら、行きますけど」
困ったように女の子はオレから視線を外し、後ろを向こうとしてしまう。
それは、なんとしても避けたかった。
「―――どこ、から…来たの?」
とりあえず出た第一声。
目の前の女の子は女の子なのに、どこか女の子じゃないようにも見えた。
女の子はオレに視線を戻し、変わらない表情のまま口を開く。
「わからない」
そう短く呟いて、女の子はまた口を閉ざしてしまう。
わからない。
記憶を失っているのだろうか。
「――――わからない?」
そうだ、というように女の子は軽く縦に顔を振った。
どこから来たのかもわからなくて、しかもこんなゴミ山にいるのにも関わらず、女の子はただぼーっとしているだけ。
怖くないのだろうか、寂しくはないのだろうかと、柄にもなく心配してしまった。
だからだろうか。
身体が、自然に動いていた。
「オレも、わからないんだ」
女の子に駆け寄る。
少しは警戒しているようだったから、自分は警戒をしないように気を付けた。
この子は、同じなんだ。
オレたちと、一緒だ。
「あ、のさ」
オレの行動を不思議がっているのか、女の子は何も喋らない。
近くで見た真っ黒な瞳が、少しだけ恥ずかしくて自然をそらした。
「君の名前、なんていうの?」
名前はあるのだろうか。
無かったら、オレが考えてあげるのに。
ウヴォーでもノブナガでもなく、このオレが。
「―――シュニ」
「シュニか、うん、シュニ…」
残念ながら女の子にちゃんとした名前はあったけど、なんだか嬉しくてオレは何回も名前を呼んだ。
相変わらず女の子の表情は変わらないけど、それでも全然良かった。
そしてその直後。
ノブナガ達の悲鳴が聞こえた。