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「ゴン。オレ達が探してるのは246番のポンズって女だ。上から見つけた奴らのなかに、女はいなかったか?」

「ううん」

「くそ…そうか」

「大雑把に考えられるのは4つ。@彼女が無事でプレートも持っている。A無事だがプレートは奪われてしまった。B彼女は無事ではないがプレートは持っている。C無事でなくプレートももう無い」

「Bの無事でないのにプレートを持ってるなんて可能性あるか?」

「突発的な事故で動けないとか誰かにやられたがプレートをどこかに隠してあるパターンなどが考えられる」

どうやら彼らはレオリオの標的であるポンズという人物の行方を追っているようで、シュニはそんな会話を輪の外で聞きながら気付かれない程度に彼らを観察していた。
勿論プレートも大事だ―――しかし、シュニはそれよりもイルミの存在を気にしている。
どうして今まで自分は"彼の姿"を探していたのだろう、と眉間に皺が寄った。
彼は姿を変えることができる。気配も雰囲気も、初見ではそれが"イルミ"だと気付くことは出来ない。
だからこそシュニは注意深く今残っている受験生達を観察していた。
先ほど攻撃してきた二人組の男達は違う。もしそうならどちらかはあんな攻撃避けているはずである。
目の前のゴンやクラピカはきっと違うはずだ。彼が背丈まで変えられるのかは不明だが、いくらなんでも身長差がありすぎる。
だとしたらレオリオか――――とまで考え、背丈の違いは多少であるがあのイルミがこんな風に振舞っていたとしたら目も当てられない、とシュニは3人から興味を逸らした。

「(この洞穴――――)」

確かに誰かの気配がある。それと、死の匂いに近い何かもする。
シュニはここに入ろうとは思わなかった。誰かに入ることをお勧めすることも無いだろう。
イルミ―――ではない。彼ならきっとプレートを手に入れたら誰にも気配を探られず最終日まで残っているはずだ。
だとしたら一体誰が、と考えたところで、ゴンがこちらへ歩いて来る事に気付く。

「…薬品の臭いがする」

「?」

そう言うゴンの言葉が信じられず、シュニは鼻で短く息を吸った。
しかし、薬品の臭いなどわからない。

「まさかここに…」

「なるほど。身を隠してるってことか」

「……何の話?」

ゴンの後に続いてレオリオとクラピカが洞穴の前に立つシュニの近くに歩いてくる。
シュニは話の先が見えないといった風に、レオリオを見上げた。

「………オレのターゲットのポンズはあらゆるタイプの薬を使う。中には強い臭いを放つものもあるってことでゴンにその臭いを辿ってもらおうとしたんだ」

「そうしたら案外近くに居た、ということだ」

レオリオとクラピカがシュニに丁寧に説明するが、シュニは怪訝な表情で洞穴へ視線を戻す。
そんなシュニにレオリオとクラピカは顔を見合わせ、ゴンもどうしたのだろうとシュニを見上げた。

「…入らないほうが良いと思う」

「は?どういう意味だ?」

「そのままの意味。確かにこの洞穴には誰かいるけど、それ以外にも何かいる」

「何かって……」

シュニの言葉に、レオリオたちに動揺が走る。
クラピカはゴンにシュニの言葉に同意出来るかと言った意味をこめて視線を送るが、ゴンはよくわからないと首を横に振った。
クラピカはシュニの言葉を疑ったが、シュニの表情は崩れない。
どうするつもりだ、と視線をレオリオへ移動させた。

「もちろんオレは行く。二人は待っててくれ」

その二人に自分が含まれていない事をシュニは知っていたが、とりあえず事の成り行きを見守ろうと静かにレオリオを見る。
レオリオは数歩洞穴へ近付き、入り口の付近で中の様子を探った。
罠らしきものは見当たらないことを確認すると、一度こちらへ戻ってくる。

「中まで行ってみる。オレがいいって言うまで中には入るなよ」

「30分だ」

レオリオの言葉に、クラピカが右手の指を3本立てて抗議する。

「30分経って連絡がなかったら、我々も入るぞ」

「ダメだ!その時はお前らだけでスタート地点に戻れ!」

「そうはいかん。同盟を組んだ以上、見捨てるわけにはいかないからな」

一歩も引かないクラピカに、レオリオがムっとした表情を浮かべた。
シュニはすっかり退散するタイミングを逃してしまったな、と静かな森を見つめている。

「じゃあ同盟破棄だ!協力してもらって勝手な言い分だがここからは一人でやる。お前らもう戻れ!」

「やだ」

「うむ」

「んだとコラ…!おい!お前も何か言ってやれ!」

「ええ…私部外者なんだけど」

「さっきみたいにこの洞穴は危険だとか絶対入るなとかでいいんだよ!」

「逆効果だと思う」

かといって突然話を振られても困る、とシュニは首を横に振った。
そしてシュニの言う通り、2人は真っ直ぐレオリオを見て口を開く。

「オレ達が勝手に残ってるんだ」

「それなら文句はないだろ?」

「…………………」

「チッ、勝手にしろ」

預けるぜ、とレオリオは鞄をクラピカたちへ投げると、1度も振り返ることなく洞穴の中へ入ってしまった。
シュニはそんなレオリオを見送るクラピカの背中をじっと見つめる。
ゴンも、クラピカですらその視線には気付かない。

「……というか何故当たり前のようにいるんだ?」

「いや、だって気になるし…」

まだ30分経っていないというのに、辺りはすっかり暗くなっていた。
近くに人の気配は無い。
夜が明ければ四次試験は終了する―――レオリオに残されているリミットは残り僅か。
クラピカとゴンはそんなレオリオが入って行った洞穴を心配そうに見つめているが、それと同じくらい平然と横に並ぶシュニのことも気にしていた。
しかしそんなシュニに気を取られている場合では無い。
数秒後―――夜の静寂に、彼の必死な叫びが木霊する。

「クラピカ!ゴン!来るな!!ヘビだ!」

「!」

突然のレオリオの声に、クラピカとゴンは肩をビクッと揺らした。
しかしその後、洞穴の闇が彼の声までをも飲み込んでしまったかのように、彼の声がクラピカたちへ届くことは無い。

「レオリオ!」

2人は顔を見合わせることもせず、ほぼ同時に草むらから駆け出した。
洞穴の前に立ちレオリオの名を呼ぶが相変わらず応答は無い。
夜の闇以上の闇が、彼らの足元でぽっかりと口を開けている。
そんな暗闇に、彼らは一切の躊躇無く足を踏み入れた。
ざわざわと、風が森の木々を揺らす。

「………………………」

一人その場に取り残されたシュニは、どうしたものかとその闇を見つめていた。



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