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「ここまで来れば流石に追ってはこねぇだろ…」

そう息を切らせるレオリオは、そっと後ろを振り返る。
しばらく遠くを睨むように目を細めていたが、誰かがいる気配も無かった。
既にあの男達の息の根は止まっている―――しかし、そのことを知るのはこの場にいるシュニだけ。
それを言う必要もないだろうと、シュニはレオリオ達に向き直った。

「レオリオって体力無いの?」

「あるよ!ある!…い、今は突然のことでびっくりしてるだけだ」

ぜぇぜぇと肩で息をしながらのレオリオの言葉は説得力に欠けたが、そこを追求する気も無いのでシュニは口を閉ざす。
未だにこちらを警戒しているクラピカに何か声をかけようかと思ったが、いくら考えてもかける言葉が見つからなかったので諦めた。

「……その怪我」

「え?」

「他の受験者とでも戦ったのか?」

「あー…ちょっとね。色々あって引き分けになったんだけど」

「そのままだと化膿するかもしれねえ。ちょっと見せてみろ」

疲れたから―――ではなく荷物を開けるからという名目でレオリオは地面に腰を下ろす。
レオリオのその言動に一体何事だろうかとシュニは驚いたようにレオリオを見た。
そして、解説を求めるかのようにクラピカへ顔ごと視線をうつす。

「……レオリオっていつもこうなの?」

「こう、とは?」

「初対面の人に警戒心ゼロというか」

「いや…誰彼かまわずではなさそうだが。というかないでほしいが」

「悪口なら聞こえないように言いやがれ!ほら、見せてみろって!!」

好き勝手に喋るクラピカとシュニの言葉を無視し、レオリオはシュニへ手を差し伸べる。
クラピカはシュニのことを警戒しているが止める様子は無い。
どうしたものかとしばらくその差し出された手を見下ろしていたシュニだったが、不意に一歩レオリオ達から下がり、口を開いた。

「そんなに深い傷じゃないし、何日か前のだから。大丈夫」

「ダメだ見せろ!ほらこれは塗り薬で毒なんかじゃねえ!なんなら飲んでみせようか!?」

「塗り薬は飲んじゃダメでしょ…」

レオリオのペースに珍しく戸惑うシュニだったが、どちらも断固として譲らなそうである。
クラピカは既に面倒だとでもいうように辺りの気配を探ることに集中していて、どうにも収集がつかなそうだった。

「あれ……?」

「?どうかしたか?」

レオリオから視線をズラしたシュニが、何かに気が付いたのか二人のことを尻目にそちらへ歩いて行く。
辺りを警戒していたクラピカも、何事だろうとシュニの行動を視線で追った。
レオリオはふらつく足で立ち上がり、ふらふらとおぼつかない足で数歩歩き出すと、いつも通り普通にシュニのあとを少し離れて追いかける。

「……………………」

「こんなところに洞窟が…」

洞穴とでもいうべきだろうか、とポッカリあいている穴を見下ろすシュニに、レオリオは見たままの感想を言う。
なにやら立ち止まって話している二人に疑問を抱いたクラピカも後から来たようで、三人で洞穴を見下ろす形になっていた。

「誰かいる」

「え!誰かって…受験者か。でもなんでこんなところに」

「すでに6点分のプレートを集めていて、姿を隠しているのかもな。仮にいったんプレートを奪われたとしてもまた奪い返すチャンスが残されているのが4次試験の特徴だ。逆にいえば6点分のプレートを集めても、今度はそれを期日まで守らなければならない」

この試験に早抜けは無いと、クラピカが冷静に考えを口にする。
シュニはそこまで考えて気配を辿ってきたわけではないが、クラピカの解説を黙ったまま聞いてさもわかっていた風を装った。
クラピカに通じるかはわからなかったがレオリオは案外簡単に信じてしまったようで、シュニは赤の他人であるはずのレオリオのこの先が少しだけ心配になる。

「あ、いた!」

「!」

後ろから聞こえたその声に、レオリオとクラピカは警戒して勢い良く振り返った。
まさか先ほどの男たちが追いついてきたのかと考え、しかし彼らよりも格段に高いその声に、混乱した頭のまま声の主を視界に入れる。

「…ゴン!」

「どうしてここに!」

現れたのは、3次試験まで一緒に行動していたゴンだった。
2人は声の主がゴンだとわかった瞬間に警戒をとき、駆け寄ってきたゴンをどうかしたのかと見下ろす。

「やっぱりみんな考えることは一緒だね。上で見てたら他にも何人かゴール地点に来てたよ」

「そうか。上から探せばよかったのか」

「ムリムリ。ゴンの視力があってはじめてできる芸当だ」

レオリオの頷きに、クラピカが呆れたように首を横に振った。
そしてふと、ゴンの視線が二人の後ろにいるシュニへと流れる。

「あれ?あの人は?」

「ああ…さっき偶然会ってな。そういやぁ名前を訊いてなかったな」

シュニはしばらく洞穴を見下ろしていたが、ゴンの視線を受けてゆっくりとそちらを振り返った。
しばらくゴンと視線があっていたシュニだったが、突然、ゴンが大声をあげる。

「あーーーーー!!!!」

「なっ、ゴン!てめぇ!声がでかい!」

「レオリオ。おまえもだ」

失礼な行為だと知ってか知らずか、ゴンは人差し指で思いっきりシュニを指差しながら驚いたように目を見開いていた。
しかしシュニもそういえば、とゴンを指差し返す。

「きみ、あのときの…」

「なんだ。知り合いか?」

「ううん…この人、4日前にヒソカと戦ってたんだよ」

「何!?」

「なのに無事…なのか?」

レオリオの疑問にゴンが答える。
しかしその答えは二人の予想していたものとは遥かに違い、信じがたいものであった。
そして、シュニもその反応を見て44番が彼らにどう思われているのかがはっきりと理解した。
自分が負っている怪我も全てあの奇術師のものであるし、とシュニは思い出したくないのか眉間に皺を寄せる。

「一つ訊きたいんだけど、44番が4次試験を落ちてるって可能性はない?」

「無いな」

「無いだろう」

「無いと思うよ」

「………………………」

満場一致の解答。彼らの解答とシュニ自身の解答も同じなのだから、否定したい溜息すら出なかった。



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