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「待て、レオリオ」

「あ?」

名を呼ばれ、先を歩いていたレオリオは何事かと振り返る。
後ろを歩いていたクラピカは既にレオリオを見ておらず、視線を顔ごと横へ向けていた。
レオリオはそんなクラピカに疑問を持ちながら、歩いてきた道を数歩戻り、クラピカの側へ寄る。

「どうかしたのか?」

「これを見てみろ」

「………血だな」

クラピカの視線の先。長い草に隠れるようにして、その赤色は存在した。
しかし、ほんの少しである。本当に用心して観察しないとわからないようなそれは、血に敏感のはずの好血蝶でさえ寄ってこない。

「獣の血かもしんねーな」

「いや…もしそうならどこかに足跡があるはずだ。それに、毛や臭いも無い」

「じゃあ受験者同士の戦いがあったってことか?それにしちゃ、血の量が少ない気がするが…ってクラピカ!」

レオリオが考え込むのも無視して、クラピカは何を思ったのか血痕がある箇所へと足を踏み入れる。
そんなクラピカを見て驚いたレオリオは制士の意味もこめて名を呼んだが、クラピカは振り返ろうともしなかった。
それどころか辺りをキョロキョロと見渡して目的のものを見つけたようにどんどん先へと進んで行ってしまう。
レオリオはしばらくそんなクラピカを眺めていたが、もう知るかと半ば諦めたようにクラピカの後をついて行った。

「おい、何してんだよクラピカ」

「先ほどのような血の跡が点々と続いてるんだ。ほら、あそこにも」

「罠かもしれねえだろ?もう行こうぜ」

「しかし……」

「!」

レオリオとクラピカが小声で会話をしていると、そう遠くない茂みからガサッという音が鳴る。
風は無い。そもそも、そこ以外の茂みはピクリとも動いていないのだ。
人であれ動物であれ―――その茂みの先に、何かがいる。

「だ、誰だ!来るならかかってきやがれってんだ!」

「レオリオ!軽率に挑発するんじゃない!」

「あれ?」

それにこちらの位置を教えてどうする、とクラピカがレオリオの大声に驚いたが、そんな彼らの緊迫感にそぐわない疑問符付きの声が、茂みの先から聞こえてきた。
そのことでクラピカは警戒を強め、レオリオは変な体勢で固まっている。
しかし声の主はそんな彼らの様子を微塵も気にせず、立ち上がり姿を現した。

「ああ。やっぱり。聞き覚えのある声だと思ったら」

「え?」

「レオリオスペシャルだ」

「スペシャルはいらねえよ!!」

レオリオを指差しながら笑顔でそう呼んだ人物は、受験番号400番が割り当てられたシュニであった。
レオリオはシュニの言葉に反応して大声を出したものの、クラピカはまだ警戒を解いていないようで、訝しむようにシュニを観察している。

「こんなところで一体何をしている?それに、かぶり物はどうした?」

「何をしてるって…木の上よりも下のほうが休めるかなって思って」

「木の上?」

「あー、ううん。かぶり物は壊されたから今無いんだ」

そういえばフードももうしてなかったな、と存在を忘れていたかのようにシュニは一度フードをかぶり、また外す。
そんなシュニを注意深く観察していたクラピカだったが、あの血痕がシュニのものであると確かめることが出来ないでいた。
確かに服のあちこちは破け、誰かと戦ったであろう形跡はあるものの、地面に滴り落ちるほどの出血があるようには思えない。
ならば罠か―――しかし、そうならばこのように何の躊躇いもなく姿を現すのはリスクがでかい。
一体目の前の受験者は何なのだと、クラピカはそこから一歩も動けないでいた。

「レオリオと…えーっと、そっちの人は、もうプレート揃ったの?」

「あー、いや、それは」

「私は既に揃っている。あとはレオリオだけだ」

「おいクラピカ!」

何勝手に情報を渡しているんだというよりは、自分だけ6点分持ってないということをバラされたことにレオリオは声を上げる。
しかしクラピカはそんなことはお構いなしにシュニとの会話を続けた。

「そういうそっちは手に入ったのか?」

「うーん、そのことなんだけど」

「レオリオ!」

瞬間、クラピカはレオリオの名を叫びながら咄嗟に後ろへ飛んだ。
名を呼ばれたレオリオは驚いたようにその場にしゃがみ、何事だと辺りをキョロキョロと見渡す。
シュニは平然とその場に立っていたが、既にクラピカたちの方は向いていなかった。

「おいおいお前ら、抜け駆けとは宜しくないぜ」

「その嬢ちゃんは俺達が狙ってたんだ。邪魔すんなよ」

草の影から、二人の男。
シュニは彼らの気配をわかっていたのか、それともわかっていなかったが特に距離を置く必要もないと判断したのか、そこから動こうとはしない。

「"400番"!俺の標的だ。頂くぜ」

「………………………」

クラピカは、何故か男たちではなくシュニのほうを観察していた。
二人の屈強な男たちを相手にしているというのに、怯えた様子も逃げようという姿勢も見せない。
かといって余裕があるような雰囲気ではない。困惑しているような、何かを決めかねているような。

「おいお前ら!こんな女の子一人に大の男が二人がかりなんて恥ずかしくねえのかよ!?」

「あ?」

「レオリオ?」

と、何を思ったのか、クラピカの数歩先にいたレオリオが男達二人に指差しながら吠え始める。
男達との間には先ほどこちらへ投げられた槍のようなものが地面に深々と突き刺さっているというのに何をしているのだろう、と勝算の見えない戦いを吹っ掛けたレオリオにクラピカは頭を抱えたくなった。

「その子を二人がかりでやるってんなら、先に俺たちが相手だ!」

「……もしかして私も入っているのか?」

「当たり前だろ!」

何勝手に話を進めているんだこの男は、とクラピカはため息をつきたくなった。
屈強な男達といってもクラピカにとって先ほど遭遇したヒソカに比べれば全然脅威でもなんでもない。しかしそれにしたって、自分たちにメリットなど何もない提案で、この後に響くような怪我を負ったらどうするつもりなのかとレオリオの細い背中を睨みつける。
しかし鈍感なレオリオがそれに気付くこともなく、未だに男達へガンを飛ばしていた。

「"女の子"って歳じゃないんだけどいいのかなあ…」

シュニが小さく呟いたそれに、男二人が振り返る。
もとよりレオリオたちのことなど相手にしている場合ではないのだ。

「ありがとうねレオリオ。と、そっちの人も。でもこれって試験だから。私のことは気にしないでプレート探し頑張って」

目の前の男の標的が自分ならレオリオの標的が自分であることはない。
それなら自分にこだわる理由もないだろうとシュニはヒラヒラと手を振った。
勿論、レオリオ達を気遣って言った言葉ではない。
誰にも手の内を明かす気が無い今、プレートを奪いに来た二人を殺すことになれば当然目撃者であるレオリオたちも殺さなくてはいけなくなる。
最初は別にそれでもいいかと考えていたシュニだったが、この試験の中枢である"会長"を思い出し、あまり大人数を殺すのはマズいだろうと思いとどまった。

「ふざけんな!ここで逃げる方が男が廃るってもんだろうがよ!」

「別に助けなくてもいいって言ってるのに」

「うるせえ!!」

レオリオが力任せに―――否、一応ハンター試験をここまでクリアしてきたレオリオのことだ。何か案があって突っ込んだのだろうが―――男達へと駆け出す。
クラピカは盛大にため息をついたあと腰に携えていた武器を取り出し、戦闘態勢へ入る。
男達は勿論、動かないシュニではなくこちらへ向かってくるレオリオたちの方を向いた。
瞬間、シュニが動く。

「逃げるよ!二人とも!」

「何!?」

「は!?」

シュニは男達の間をすり抜け、レオリオ達を振り返ることなく走り出す。
一瞬反応が遅れたものの、突然のシュニの行動に驚き固まっている男たちよりも先にレオリオ達は急ブレーキをかけて方向転換した。
そのまま振り返ることなく、微かに追えるシュニの後ろ姿を追っていく。

「ふざけやがってあいつら…!」

「俺たちも行くぞ!」

そう怒りを募らせる男達が、首の後ろを食事用のナイフで斬られていることに気付くのはそう遅くなかった。



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