07
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第3次試験を誰よりも早く通過したヒソカは、タワーの1階でぼんやりとトランプを眺めていた。

「(…残り50時間)」

あまり早く通過しすぎるのも暇を持て余すだけだったが、一人遊びは得意なほうなのでまあいいかと組み立てたトランプタワーを躊躇無く破壊する。
ヒソカの記憶からは既にあの試験官のことは消えていたし、戦っている最中も大した興味はそそられなかった。
それよりも"彼ら"―――"彼"だと、ヒソカは自分の口端が自然とあがるのを感じる。
ゴンと呼ばれていた少年。今はまだ青い果実であるものの、あの果実が赤く熟れたとき、彼が。自分が。どうなってしまうのかを想像するだけで熱が集中した。

「……………………」

周りにいる第三次試験を通過した受験生がそんなヒソカを気味悪く思うものの、そんなこともヒソカにとってはどうでもいい。
暇つぶしにここで彼らとやりあってもいいのだが、と視線を横に流して。
ゴオン、という聞き覚えのある音にヒソカは顔ごとそちらを向いた。
ゴゴ、と先ほどの音に続いて鈍い音が辺りに響き渡る。
それは地上一階のこの場所へ繋がる扉が開く音であり、つまりは受験生の第三次試験通過を意味する。
周りの受験生も一体今度はどんな奴が、と興味と警戒の色でそちらを見つめた。

「……………………」

ヒソカは床に散らばるトランプを拾う作業を止め、表情を少しだけ崩す。
それは『お疲れさま』という意味合いだったが、それを送られた本人がどう受け取ったかはわからない。
それに、送られた本人は別段ヒソカに興味があるわけでもないのか、一瞬視線を合わせただけで誰も居ない壁の方へと歩いて行く。

「(にしたってなんであんな顔にしたんだろう)」

ヒソカはそんな彼を視線だけで追っていたが、彼は壁にもたれかかって既にヒソカを相手にすらしていなかった。
301番―――ギタラクル。
ヒソカは彼の正体を知っていたし、それでいて誰かにバラすつもりもない。
そう――――正体。
ギタラクルは本名ではなく、あの顔も素顔ではないのである。

「(おや?)」

しばらくギタラクルへ視線を送っていたヒソカだったが、彼が出て来てからもしばらく閉じない扉を不思議に思い、視線をそちらへ戻した。
そういえば通過者の放送も無いようだし、一体どうしたのだろうと目を細めて。

「……………………」

まず足が見え、腰が見え、最後に闇からその正体が顔を出し、その人物の後ろで再び鈍い音を響かせて扉がゆっくりと閉まった。
同じ出口からこうして出てきたということはつまりあのギタラクルと一緒だったのか、とヒソカは表情に出さないものの少しだけその人物に対して驚く。
400番―――シュニは、キョロキョロと辺りを見渡すと目的の人物だったらしいギタラクルを視界に入れ、少しギョッとしたあと彼とは反対方向へ歩いて行った。
そのまま静かに地面へ腰を下ろし、壁へと背中を預ける。
そこで初めてヒソカの視線に気付いたのか、シュニは驚いたようにヒソカと視線を合わせた。
勿論シュニは顔を隠しているためヒソカにシュニの表情を伺うことは出来なかったが、驚いた瞬間肩が少し揺れたのをヒソカが見逃すはずが無い。
ギタラクルへ向けたのとは違う満面の笑みを浮かべ、ヒソカは軽く手を振った。

「(400番か……)」

そんなヒソカに戸惑いながらシュニは軽く会釈を返しただけだったが、ヒソカはトランプを拾う作業に戻りながらも記憶を辿る。
一次試験でも二次試験でもこれといって何かをしたわけではないし、今だってギタラクルと一緒に出てこなければ気にかけてすらいなかっただろう。
しかし一応顔は覚えている。自分より少し年下だろうか。見た目から判断することは出来なかったが、比較的大人しい受験生。
いつの間にかあんな格好になっていたのには理由があるのかもしれないが、ヒソカは特に興味を惹かれなかった。

「………………◆」

トランプタワーが完成する一歩手前、というところで力加減を忘れて崩してしまう。
まあいいか、とトランプを拾うことも放棄してヒソカは目を閉じた。
400番。第三次試験を通過したというのだから只者でなないのだろう。いや、違う。あの"ギタラクル"と一緒に通過したということが問題だ。試験内容になにか理由に繋がるものがあるのかもしれないが、目をつけておいても問題はないだろう。

「(うーん…でも)」

あんまりそそられないなあ、と周りのことも気にせずヒソカはゆっくりと息を吐いた。

「(あとでイルミ……じゃなかった。ギタラクルにでも訊いてみればいっか)」
――――イルミ=ゾルディック。
その名を脳内で言ったのがわかるはずもないが、ギタラクルからの鋭い視線を受けてヒソカは何事だろうかとそちらを向いた。
しかしヒソカと目が合う前にギタラクルは視線を元の場所に戻しており、その視線が交わることはない。

「……………………」

301番。ギタラクルの正体は、ゾルディック家の長男であるイルミ=ゾルディックである。
それをヒソカだけが知っていて、ヒソカにはそれをバラす気がない。
たまたま試験を受ける年が重なってしまい、イルミには「正体を言うな」と釘を刺されて。
その理由を訊いたもののはぐらかされたが、このハンター試験に参加してしまえばその理由はすぐにわかった。
99番―――キルア=ゾルディック。
苗字が同じ。ついでにいえば、殺意はまだ幼いものの雰囲気も似ているものがある。
ただ、彼に手を出してしまえばイルミの怒りを買うことは確実なので、ヒソカはじっと観察するだけだった。
それに、自分にはあの青い果実がいる――――冷めかけていた熱が舞い戻り、ヒソカの口端にも笑みが浮かぶ。
ヒソカの望む"彼"がここへ辿り着くまで、あと約50時間。



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