07
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シュニには、来た道を戻っているのかそれとも新しい道を歩いているのか既にわからなかった。
先程も今も誰かの後ろについて歩いているだけで、きちんと辺りを見ていたわけではない。
そうでなくとも、似たような造りになっているここではトイレに行くだけで迷子になってしまいそうだとシュニは目だけを動かして辺りを観察していた。

「シュニさ、どうせ来週暇でしょ?」

「えええ……」

「予定あるの?」

「まあ、無いけど」

イルミが突然喋り始めたと思えば失礼なことを言うので何を言う気にもならず、イルミの驚いたような二度目の質問に真実を告げる。
今日明日はやらなければいけないことがあるものの、来週からは特に何もなかったはずだ。

「ふぅん。じゃあはいこれ」

「なにこれ」

「ハンター試験会場の住所」

「え?」

隣を歩いていたイルミが差し出した紙を受け取りながら、シュニはイルミが告げたその紙の正体に疑問を声をあげる。

「一応時間厳守だから」

「いや、そうじゃなくて……ハンター試験?」

状況が理解できないシュニは、その住所をじっと見下ろしながら隣を歩くイルミに足並みを揃えて歩いていた。
ハンター試験。
年に一度行われるハンター協会主催のプロハンターライセンス授与試験であり、試験内容は非常に過酷で毎年多数の死傷者が出ている。
そのような難易度の高い試験に合格すればハンターライセンスを与えられ、プロハンターとして名乗ることが出来るようになる。
名乗らずともそのライセンスがあれば色々なことが出来るようになる―――そのことはカイトに聞いていて多少知っていたものの、ハンター試験そのもの自体についてシュニは何の知識も持っていなかった。

「別にいらないんだけど今度の仕事で必要でさ。ついでだからシュニのこともエントリーしといた」

「しといた……って」

「架空の人物作ってエントリーするくらいならミルキに頼まなくても出来るからね」

「さっきの『用事』ってもしかしてそれ?」

「うん」

さらりと凄いことを言った気がする―――じゃなくて。

「なんでそんなことを…」

「面白そうだから」

「子供か」

シュニの言葉は、イルミが開いた扉の音でイルミに届いたかはわからない。
だが届いたとしても特になんとも思わなかっただろうと、シュニは気にせず外に繋がるその扉が開くのをぼんやりと見つめていた。

「まあ、受けたくなかったら会場に行かなきゃいいだけだし」

「キャンセル料とかないんだ」

「特に無いよ。むしろ落とす手間が省けてハンター協会は嬉しいんじゃない?」

「あはは……」

乾いた笑いを浮かべながら、シュニは久々に見た外の景色に少しの安心を覚える。
かなり時間が経っていると思ったが、日はまだ沈んでいなかった。
どれだけゾルディック家というものが強烈なものだったのかを改めて認識させられたな、とこぼしそうになった溜息をぐっと飲み込む。

「ここまで何で来たの?まさか歩きじゃないよね」

「バスで来たけど…観光の」

「ああ。あれか」

「そういえばここって観光スポットになってるんだよね。儲かるの?」

「さあ。俺はそういうの興味ないし」

「だろうね……」

観光スポットで観光するイルミを想像し、ありえないだろうとシュニは1人首を横に振る。
と、イルミが最後の扉を開けたところで目の前に止まっている黒光りの車が視界に入った。
その車の扉の前にはゴトーが立っており、イルミを視界に入れると深々と頭を下げる。
やはり自分と会ったときと雰囲気の異なるゴトーに、ゾルディック家の執事というものを感じさせられた。

「駅まではゴトーが送ってくから」

「え?」

「え?って…じゃあ此処から何で帰るつもりだったわけ?」

「バスで……」

「この時間はもうバス通ってないし、通ってたとしてもこの家から出てきた人間なんて乗せないと思うけど」

「…………………」

淡々と事実を述べたイルミに、そんなことまで考えてなかった自分に頭を抱えたくなる。
しかし今は素直にゴトーに送ってもらうべきだろうと気を取り直してゴトーに向き直った。
だが、ゴトーはこちらをチラリと見ただけで特に何を言うでもなく静かに車の後部座席の扉を開ける。
そのまま慣れない動きで車に乗り込み、窓を開けて外を見た。

「それじゃ、またねイルミ」

そう言おうとして口を開いたのだが、既にそこにイルミはいなかった。



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