01
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殺人鬼である狩襖シュニは泣きたくなった。
まず最初に、目が覚めても自分の意識があることに狩襖シュニは驚いた。
そして次に、鼻につく酷い臭いに顔をしかめた。
腐乱臭よりもそれは耐え難い臭いだった。
「………………………」
起き上がろう、と思うとすんなり起き上がれた。
そのままの勢いで立ち上がると、周りが物凄く大きく見えた。
ゴミが積み重なる山は、シュニが思い切り見上げないと頂点が見えないほど。
首が痛くなったシュニは見上げるのをやめて、地面を見た。
「…………あれ…」
そう呟いて、聞こえた声にも目を見開いた。
「う、嘘…この声、私……?」
それは記憶にあった自分の声よりも、はるかに幼い声だったのだ。
そして、自分の手を見る。
「………ちっさ」
シュニの手は、そばに落ちている手袋よりもはるかに小さく、裸足の足も同様だった。
「あーあー、」あーシュニは適当に声を発し、この状況を即座に理解する。
「うん、小さくなってる」
人識よりもはるかに幼い、というよりこれはもはや幼稚園児だ。
どうしてこんなことになったのかはシュニにとって容易に想像出来ることだった。
「(拒絶反応の結果、か)」
ここが飛ばされた世界なのかはわからないが、とりあえず自分は異世界に拒絶された反動で身体だけ小さくなったのだろうとシュニは仮定する。
まぁ、実際、本当の理由がどうあれ、シュニにはあまり関心のないことらしかった。
「(洋服も小さくなってるし、まぁいいかな)」
生きているなら、仕方がない。
殺されない程度に生きればいい。
体格の問題はあれども、殺人鬼としては衰えていない、とシュニは自分の身体を確認する。
それから、ずっと自分を見ていた少年に声をかけることにした。
「えと、何か用ですか?」
小さい身体は別に問題無いのだが、この幼い声にはまだ慣れていないらしく、シュニは少しだけ顔をしかめた。
それが少年に対する態度だと感じたのか、少年は気まずそうに目をそらす。
「あー、えっと、用がないなら、行きますけど」
シュニは小さな子供を殺すのはあまりしてこなかった。
かと言って、殺さないわけではない。
普段シュニは曲識と行動を共にしていたので、小さな子供は曲識が殺していたのだ。
それに、これから先零崎になるかもしれない子供を殺すのはシュニはあまり好まなかった。
もう一度いうが、だからと言って殺さないわけではない。
「…………………」
なので、このまま少年が黙ってシュニのところにいたらシュニは少年を殺してしまうかもしれないとシュニは考えていた。
そんなことを考えていてもいなくても、身体が勝手に動いてしまうのだけど。
「―――どこ、から…来たの?」
まだ声変わりのしていない、幼い声。
その端麗な顔は、女の子ともとれるような可愛い顔立ちをしている。
この少年は、純粋にシュニがどこから来たのかを不思議がっているだけらしい。
だからシュニは、正直に答えないことにした。
「わからない」
異世界だ、なんて言って興味をもたれたら面倒だとシュニは思ったのだろう。
来た場所などどうでもいいだろう、といった風にシュニは言い放った。
「――――わからないの?」
そうだ、とシュニは頷く。
下手に遠くからなんて行ってそこになにがあるのかとか訊かれたら答えられない。
ここがどんな世界なのかもわからないのに。
「オレも、わからないんだ」
そう言って少年はシュニの方へと駆け寄ってくる。
これも、予想はしていた。
面倒なことになったという感情は面に出さないようにした。
「あ、のさ」
目の前で少年は警戒も何も無しにシュニに話す。
右手の人差し指で頬をかき、右ななめ下に視線をやった。
絵になるなぁ、とシュニは現実逃避をしている。
「君の名前、なんていうの?」
こんなにも可愛らしい少年が何故こんな汚いところにいるのだろう、とシュニは考えた。
ここはゴミ山だろうか。何故か意外と冷静だった。
夢だとでも思っているのか。
「―――シュニ」
「シュニか、うん、シュニ…」
シュニの名前を嬉しそうに呟き、少年はシュニの目を見る。
そして、少年は右手を差し出した。
「オレの名前はシャルナーク。オレと、友達になってくれる?」
シュニは黙って少年の手を眺めていた。