(宗像形)

「『着せ替え人形』というのを知っているか?」

「あー、あの、釘を打ち付ける…」

「そりゃ『藁人形』だろ。どこら辺が着替えてるんだあいつら」

「ほら、対象者の服装にさせたりとかしてるじゃん」

「なんでそういう知識はあるんだよ」

高千穂はなまえの言葉に、頭にロウソクをつけ夜中の森で釘を打っている姿を想像して首を横に振った。
チラリと横にいる宗像を見て、高千穂は同じ想像をする。

「…………………」

そんなことをするよりも直接手を下したほうがこいつの場合は早いだろう、と変に似合うその蝋燭を頭につけたスタイルを想像して顔が青くなった。

「その『着せ替え人形』とやらになまえになってもらおうと思って呼んだんだ」

「ええ。なにそれ。一体どういう殺し方なの?」

「なんだ。やっと僕に殺されてくれる気になったのか」

「宗像殺気しまえ!あとなまえはしばらく喋んな!」

どうしてこうなった、と高千穂は向かい合う宗像となまえを見ながら盛大に溜息をついた。
高千穂が教室についた頃には既にこのような状況になっていたのである。
このような状況、というのは勿論向かい合う宗像となまえのことであったが、それ以外にも、普段の教室では見ないような大量の紙袋がそこかしこに無造作におかれていた。
一体何が入っているのだろうと二人への挨拶もせず手を伸ばしかけた高千穂へ飛んできたのは声でも殺意でもなく、数本のナイフ。
それを当然避けた高千穂だったが、紙袋に傷一つついてないのを見るとどうやらこの紙袋の所有者は宗像らしい。

「思い出した!……あ」

突然大きな声を出したなまえが、慌てたように自身の口を両手で塞ぎながら高千穂を見る。
どうやら高千穂に「少し黙ってろ」って言われたことを気にしているようで、高千穂の顔色を伺っているようだった。
高千穂はそんななまえを見て溜息をつき、許可をするように頭を一度縦に振る。

「着せ替え人形ってあれだ。洋服を着せ替える人形」

そのまんまじゃねぇか、というツッコミを高千穂は飲み込んだ。
近くの紙袋に触らないよう数歩歩き、誰の席かもわからないそこに腰をおろす。

「ああ。確かそんな感じのだ。ひとまずこれから着てみてくれ」

「え。私が?」

「僕や高千穂がこんなのを着たらそれこそ警察のお世話になってしまう」

紙袋の中に爆弾でも仕掛けられてると疑ってるのか、なまえは慎重に紙袋の中を覗き込むと中の物を引っ張り出した。
シンプルなワンピース。パッと見た感じ、サイズは合っているようだ。
というかこれらの中のものが全てなまえへの洋服だとしたら、これを宗像自身が購入したのかと高千穂はその結論に驚く。

「(……というか)」

その際に何人か殺してねぇだろうな、と高千穂も疑いの眼差しを向けた。

「?どうした。さっさと着替えないのか?」

「え?着せ替え人形って人形自身が着替えるわけじゃないでしょ?」

「……………………」

「……………………」

「……………………」

その場にいた三人が、会話が噛み合ってない理由を探し、黙り込む。
高千穂は確かに自分の異常性を理解したのは宗像よりも遅かったが、それこそ"普通の男の子"をやっていたのだから人形遊びなんてものをしたことがない。妹はしていた気もするが、人形に触ろうとするものなら大声で泣かれるので近付いてすらいない。
それだからか、今回ばかりは『着せ替え人形ごっこ』を提案した宗像よりも高千穂のほうが理由を見つけるのが少し遅れた。

「ち、ちがう!!」

そう声を張り上げたのは、宗像形。
普段聞かないような声を上げた宗像に、思考を停止して高千穂は驚いたようにそちらへ顔を向ける。
そこには、何故だか顔を真っ赤にした宗像がなまえから遠ざかるように一歩後ろへ下がっていて。

「そうじゃない!着替えくらい自分でしろ!!」

「え?あー………」

宗像が顔を赤くしている理由を悟り、高千穂は笑みを零す。
そんな高千穂にお決まりのように銃弾が飛んできたが、そんな日常を意図も容易く高千穂は避けた。

「ってここで脱ぐな!!」

「え」

「『え』じゃねえ!トイレとか行ってこい!!」

今度は高千穂が叫ぶ番だった。
何を思ったのか、なまえは『自分で着替えろ』と宗像に言われた次の瞬間には靴下を脱ごうと手をかけているところだったのである。
あまりのことに高千穂は思い切り立ち上がり、なまえは呆然とした表情でそんな高千穂を見上げていた。

「ボーダー………」

「ん?宗像どうした」

「……僕もトイレに行ってくる」

余談だが今日なまえの下着は青と白のボーダーである。
あくまでも余談だ。

「着せ替え人形ごっこって結構疲れる」

「つーか全部で何着あるんだ?おい宗像」

「いるのはこの7着だけだ。なまえ」

すぐに終わると思っていたそれはこことトイレの往復などの時間でかなりかかったらしく、気付けば外も暗くなってきはじめている。
高千穂は途中で飽きたので帰ろうとしたが、ここに二人で放っておくのも怖いものがあったので帰るに帰れなかったのだ。
そして高千穂の疑問を無視して宗像はなまえへ紙袋を7つ差し出す。

「何?」

「今度の学園祭のとき、この中から好きなのを着てきてくれないか」

「(なるほどね…)」

高千穂は、宗像が差し出した紙袋にどんな洋服が入っているのかを覚えていた。
なまえがどの洋服を着ても宗像の表情は動かなかったが、普段殺されかけている高千穂だ。表に出ない些細な反応を、今回ばかりは見逃さなかった。
あの紙袋に入っている7着の洋服はどれも宗像が反応を示したもので、簡単に言えば、『宗像が好きな服装』である。
箱庭学園の学園祭は基本的に私服であるし、なまえは宗像と行動することに決めていた。
高千穂たちも入れて皆で、という話だったのだが、高千穂はそんなときまで宗像に殺されかけてはたまらないと断った過去を思い出す。

「いや、流石に悪いよ」

「着ないから殺す」

「あっ!嘘!着る!なんなら全部着る!!」

脅迫すんな、と高千穂は再びツッコミを再開した。

日常を知らない異常


(なまえ。一応言っておくが全部着てくるなよ)
(え、だって着れば着るほど殺されない確率上がるよね?)
(アホか)



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