グリフィンドールに入るなら、勇気ある者が住まう寮。勇猛果敢な騎士道で、ほかとは違うグリフィンドール。

(お好きにどうぞ)



「ダンブルドアとかいう人に一応の説明は受けたけど…本当にスタンド使いの仕業とかじゃないの?」

眉間に皺を寄せ、少女は目の前の空の皿を睨み付けた。

「おい見ろよジョージ、転入生のこの妙な表情を!」

「おい言うなよフレッド、顔だけは可愛いんだから!」

「出た。うるさい双子…」

赤と金の二色で構成されたネクタイをした顔のそっくりな2人の青年たちはケラケラと笑いながら、少女の向かいに座っていた他の生徒を無理矢理どかせてそこへ座る。

「ここに座ってるってことはグリフィンドールだったのかな?」

「まさか!彼女と僕達が同類だっていうのかい?」

「そのまさかよ。喜んで」

少女はポケットから2人がしているのと同じネクタイを取り出し、そのときのことを思い出す。

「組み分け帽子、私が帽子をかぶった瞬間『グリフィンドール』!って叫んだわよ」
たっぷりと嫌悪を含んだ言葉と笑顔を送れば、双子は互いに顔を見合わせ、少女に気付かれないよう嬉しそうな笑みを浮かべた。



ハッフルパフに入るなら、君は正しく忠実で、忍耐強く真実で、苦労を苦労と思わない。

(そんな彼らを好きといえ)




「魔法使い?って、みんな私のことが見えるんですか?」

「ほっほっほ。死神というのは初めて見たが、こうして会話が出来ているということは、恐らく」

校内を歩いているゴーストたちのようなものか、と"校長"は静かに頷く。
髪の長い少女が着ているのは東洋の着物のようなものであり、この部屋の雰囲気にはまるで合っていなかった。
腰にはあどけなさが残る少女の顔立ちには似合わない二本の刀。
何もかもが"ちぐはぐ"なそこで、少女は目の前にあるボロボロな帽子を見下ろした。

「で?えーっと、組み分け帽子でしたっけ。一体何を?」

「これからここで過ごす寮を決めるのだ」

「う、わ!!」

帽子が喋った、と少女は驚きのあまり立ち上がる。

「というか過ご……寮、入るんですか?私」

"魔法使いでない者マグル"の正常な反応に、校長は微かに笑い声を零し、組み分け帽子は必死に笑いを堪えている。
なんだかそれが気に食わず、少女は不満そうな表情を浮かべたまま再びソファへ腰を下ろした。
そんな少女の頭に、校長はそっと組み分け帽子を乗せる。
頭上にある不思議なそれに、少女は少し居心地が悪いようだった。

「ふむ…そうか……しかしスリザリンの可能性も十分に見える………」

「スリ…何?」

「静かに待て。なかなかに難しいな…だが、そうだな…………ハッフルパフ!!」

「ぎゃあ!!」

突然頭上で叫ばれた少女は、驚いたように帽子を掴み地面に叩きつけてしまう。
耐え切れなくなったのか、校長はそんな帽子の心配もせず腹を抱えて笑っていた。




(Err)


「ここで何をしている?校長の下へ行くよう言われなかったか?」

少しねっとりとした低い声。
あー、と少女は苦笑いを浮かべながら後ろを振り返る。

「えーっと…スイス先生、」

「スネイプだ」

「スネイプ先生、ちょっと私、迷ってしまって」

「その手に持っているのは地図ではないのか?」

「読めなくて」

はあ、という盛大な溜息を彼は全く隠そうとせずついた。

「見つけたのが私でなければどうしていたんだ」

「そんな誰でもいつでも殺すわけじゃないですよ。心配しないでください」

「お前の心配はしていない」

「あ、あと校長先生のところじゃなくて寮に行かないとなんです」

「寮?寮に入るのか?」

驚いたように目を見開いた男に、まさかそんな表情もできるとは思っていなかった少女は少しだけ驚く。
しかしそんな驚きを表に出してしまっては男が更に不機嫌になるような気がして、慌てて冷静さを取り戻した。

「組み分け帽子は『グリフィンドールも良いが、どちらかというとハッフルパフだ』って」

「はあ……全く。どうなっているんだ」

そう言って踵を返した彼がスタスタと歩いて行くのを見ていた少女は、慌てたように男へ駆け寄る。
なんだかんだ目的地に連れて行ってくれるだろう、と自分の教室へ戻るつもりだった男に無言のまま寮の道案内を押し付けた。


古き賢きレインブンクロー。君に意欲があるならば、機知と学びの友人を、必ずここで得るだろう。

(例が外れる)


「おい!またお前か!!ここはスリザリンの寮だぞ!」

「うわ!びっくりした。ドラコか」

「『ドラコか。』じゃない!一体いつの間にそんな気安く僕の名前を呼ぶようになった!」

寮の皆が自由に出歩ける空間で、突然ぎゃーぎゃーと騒ぎが起きたものだから何事かとそれぞれ休憩していた生徒達が驚いたようにそちらを向く。
しかしその中心にいる人物を視界にいれて、「なんだまたか」とでも言ったように肩を竦めて各々の世界に戻って行った。

「だってレイブンクローの寮に1人じゃ入れないんだもの。スリザリンなら近いし何故か入れるから」

「そこがまずおかしいだろう。まったくホグワーツのセキュリティはどうなっている。そもそも組み分け帽子は正しかったのか?こんなのが『古き賢きレイブンクロー』など…」

信じられない、と言った様子でドラコと呼ばれた少年はじろじろと少女を値踏みする。
しかし途中でそんな自分が馬鹿らしくなったのか、盛大に溜息をついたあと少女の向かい側にあるソファへ腰掛けた。

「組み分け帽子じゃなくて寮は私が選んだよ」

「はあ?」

少年は誰に断りもなく、机の上に置いてあるお菓子を1つ口へ放り込む。

「どこの寮に入れるか決めるのが凄い難しいって言ってたから、レイブンクローが良いって言ったの」

「もしそれが本当だとして、なんでまたあんな寮にしたんだ?」

「必ず友達できるって歌で言ってたから!」

「機知と叡智って意味わかってるのか?」

お菓子を包んでいた小さな紙をくしゃくしゃに丸めて少年は少女に向かって軽く投げた。
それは弧を描いて見事少女の額に当たり、「いたっ」と少女は小さく悲鳴を上げる。

「それならスリザリンも歌詞に友が入ってるだろうに」

「同じ寮が良かった?」

「お断りだ」









(axios)


「へえ。ロンも組み分け帽子かぶる前に寮決めてもらったんだ」

「そうなんだよ。ま、僕の家族はみんなグリフィンドールだからわかってはいたけどさ」

「あなたもロンとどちらが言われるの早かったのかわからないくらいの早さで『レイブンクロー!』って叫ばれてたわね」

「よく覚えてるね。心の準備なんて全然してなかったから、呆然としちゃった」

ホグズミードで色々な御菓子を眺めながら、3人の生徒たちは談笑を続ける。
他の客もいて店内は賑やかだったが、お互いの声は聞き取れるくらいの静けさはあった。

「それにしても最初あなた、祓魔?アクマだっけ?なんかそんなことを言ってたのには驚いたわ。東洋では魔法をそういう風にいうこともあるのかしら」

「あ…いや、それは気にしないで。私もハーマイオニーと一緒でここに入学するまで魔法の存在を知らなかっただけだから」

「ねえ2人とも見てよ!これ、ハリーへのお土産にぴったりじゃないか?」

「ロンってばはしゃいじゃって…」

青年のそんな様子に呆れたように少女は笑みを零すが、すぐに隣のハーマイオニーと呼ばれた生徒と一緒に楽しそうな笑みを零した。


スリザリンではもしかして、君はまことの友を得る?どんな手段を使っても、目的遂げる狡猾さ。

(不雑音)


「………猫?」

白猫だ、と唯一知っている猫と違う色に少年は眼鏡の下の目を丸くした。
にゃあと小さく鳴いてこちらへ近寄ってくる猫は野良猫というには人を警戒している様子がない。
というよりここはホグワーツだ。野良猫がいるはずもないのである。
ハーマイオニーのように猫を飼っている誰かが放し飼いにでもしているのだろう。ロンのペットがまた襲われてないといいけど、と今ここにはいない友人の心配をしたそのときだった。

「あなた、誰?」

「え?」

今の質問は自分にだろうか、と猫にやっていた視線を動かす。
目の前にはいつの間にか見覚えのある少女が立っていた。
確か転入生ということでこのホグワーツに入ってきた同年代の子だ。
寮は―――と、視線が自然と少女の首元へいく。
そんなことをしなくとも、組み分け帽子が彼女が帽子をかぶった瞬間に寮の名を叫んだのを覚えている。それでも、視界に入る色が自分のものと同じだったら、と淡い期待を含めた。
しかしあれは現実だ。緑と銀の二色。スリザリンの所属であることを示すそのネクタイが、少女の首に綺麗に巻きついている。

「ぼ、僕はハリー。ハリー・ポッター」

「そう。私の猫が迷惑かけなかった?」

「う、ううん。綺麗な猫だなって見てたんだ」

嘘は言っていない。それでも、何故か声が上ずった。
少女の存在か、それとも"自分を知らない"という事実にか。

「それじゃ、またねハリー」

猫を抱き上げこちらに背を向ける少女の名は、校長先生が皆に少女を紹介したので知っている。
それでも彼女の口から訊きたいと、訊きそびれた名を口の中で転がした。



ここは魔法の世界


(スタンドのような不思議な力)
(誰にも見えない筈の者)
(人を殺す力)
(異常な日常)
(悪魔のような残酷な力)
(魂を狩る誰もが忌み嫌う存在)
(それら全てが、ここには在る)




「おい、なんだそれは」

「あ。ヴォルデモートさん。見たことないんですかこれ」

「いや、待て……もしかして組み分け帽子か?」

「へえ。組み分け帽子って言うんですね。拾ったんですよこれ」

「そんなわけがあるか。元の場所に戻してこい」


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