(ジャスティン=ロウ)

「それ、どういう意味?」

なまえはつい、そんな疑問を口にしていた。
授業の一貫で古い教会に来ていたなまえは、後ろを振り返って床に膝をつく青年の背を視界にいれる。
他の生徒たちが先生に続いてぞろぞろと教会の外に出て行くなか、その青年は天を仰ぐ。
返事が無いその青年の背中を見ていたなまえは、耳に微かな音楽を聴いた。
音の発生源を辿れば、どうやらそれは青年の耳から零れているらしい。
青年の両耳を塞ぐイヤホンからは、この場に合わない激しい音楽が流れていた。

「……………………」

なまえは、ゆっくりと青年の周りを歩いて彼の前に立つ。

「『おお神よ』って、どういう意味?」

なまえはそのとき初めて、彼の顔をきちんと見た。
それまではその青年の存在すらも認識していなかったので、勿論彼の名などは知らない。
それでも、なまえは彼の言葉に何故か疑問を持った。

「……すみません。もしかして今、何か言いましたか?」

青年はようやく天を仰ぐのをやめた。
自身の目の前に立つ者が神でないことに気付いたのだろう、全く気持ちのこもっていない謝罪の言葉を口にしながら、彼はゆっくりと立ち上がる。
そうは訊くが、彼は自身の耳に装着したイヤホンを外す気も無ければ音楽をとめる気もないらしい。
ただ会話をする気はあるようで、なまえの言葉を待っている。

「………今、何してたの?」

三度も同じ質問を口にするのを躊躇ったなまえは、質問の仕方を変えた。
彼は音楽を聴いており、生徒達はもう全員外に出ているので誰もなまえの質問を聞いていたわけではないが、それでもどこか"気まずい"ものがあったのだろう。

「神に問いかけていました。私がこれから何をすべきなのか」

対し、彼は少しの"気まずさ"も無く答えを口にした。
声の音量を変えて質問したわけではないので、恐らく彼は自分の『口の動き』を読んで会話を成立させているのだろうとなまえは考える。
そしてその考えは正解で、彼はなまえと視線を交えるというよりはなまえの口元に視線をやっていた。
背の高いそんな彼を今度はなまえが見上げるカタチになっており、その笑みの薄っぺらさは角度のせいだろうかと首を傾げそうになる。
しかし薄く開けられた目に浮かんでいるものは真剣なそれだ。
一体どうして彼に声をかけてしまったのだろう、となまえは今更になって後悔していた。

「そう。もうみんな、外に行ってるけど」

「あなたは神へ問いかけたことがありますか?」

「え?」

外へ繋がる頑丈な扉から、なまえは視線を目の前の青年に戻す。
まさか彼から質問がくるとは思っていなかったのだろう、なまえは疑問の言葉を反射的に零してその質問を頭の中で反復した。

「無いよ」

だから先程の質問をしたのだと、本来の質問を知らない彼の瞳を見上げる。

「それで、答えはもらえた?」

遠くで自分の名を呼ぶ声をなまえは聞いた。
外にいる先生が点呼を取っているのだろう。もう一方の名は目の前の彼の名だろうか、と覚える気のない名を耳にする。
どうせ彼には聞こえていないのだ。気にする必要はない。

「いえ。途中で声をかけられてしまったので」

「ふぅん。私のせいにするんだ」

「そういうわけではありませんよ」

彼の望む答えなど自分が知るはずもない、となまえは彼よりも先に歩き出した。
後ろで布の擦れる音がしたので、きっと彼もなまえの後に続いて外に出ることにしたのだろう。

「『おお神よ』……なんてね」

背を向けているのだから口の動きは見えないだろう、となまえは冗談まじりに彼の口調を真似してそんな言葉を口にする。
青年が後ろで微かに笑みを零した気がしたが、気のせいだろうと扉へ触れた。


聞く気が無い


(迷える子羊達の声を聞け)


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