(都城王土)

退院後の学園での生活にも慣れ、なまえは家に帰るため校舎内を歩いている。
鍋島と屋久島、そして日之影もなまえの体調を心配し退院を祝ってくれたが、誰1人として事情を聞くことはなかった。
なまえも話そうとはしなかった。誰かにそう言われたからというわけでもない。それでも、話す気にはならなかったのである。

「……あれ?」

なまえは、見覚えのある姿を見て首を傾げた。
しかしその姿を箱庭学園の校内で、かつ放課後に見るとは思っていなかったのである。
あまりにも校門と彼の姿が合って無いものだから、なまえは笑みが零れそうになる。
慌ててそれを自身の心の中に留め、彼の元へ駆け寄った。

「どうしたの?」

「…待っていた。それ以外にあるまい」

放課後だというのに辺りに他の生徒がいない。
そのことに、なまえは彼に声をかけてから気付いた。

「行くぞ」

どこに、という質問はしなかった。
彼がそう言うのなら行くべきなのだろう。
都城王土――― 一年十三組の生徒である。

「ここは………」

徒歩数分。
なまえは学園に登校してきていないはずの都城が道に迷うことなく目的地に辿り着いたことに少し疑問を持ったが、それよりもこの箱庭学園内に"こんな場所"があったのかと少しだけ驚いていた。

「昔のことは覚えてるんだろ?」

「…うん。砂場で遊んだときのこと、だよね」

2人の目の前には、あのとき遊んだのよりも小さめの砂場。
いや―――大きさはむしろこちらの方が大きいだろうか。
自分が大きくなったからそう見えるだけだろうか、となまえはゆっくりと砂場に近付いた。
都城も後に続く。

「制服が汚れるぞ」

「一緒に遊べるんだから、気にしないよ」

自分で洗うしね、となまえは笑った。
スカートや靴に砂がつくのも気にせず砂場にしゃがみ、あのときの公園よりも明らかに質の良い土を触る。
都城はそれ以上何も言わず、なまえと同じようにその場にしゃがんだ。
砂遊びをするには土がサラサラとしすぎていたが、にも関わらず都城の両手にはかなりの砂が付着している。
それをなまえはチラリと見たが、特に何の疑問も持たずに手を動かし続ける。

「こういう遊び、いつもしてるの?」

「俺がそんな風に見えるか?」

「うーん、どちらかというとブランコで遊んでそうだね」

「今真実を話すが、俺は生まれてこのかた遊具で遊んだことがない」

「ふぅん。楽しいよ、水飲み場とか」

「それが遊具でないことは俺にもわかる」

砂の山が完成した。
なまえはそんな砂山に"トンネル"を作りたがったが、サラサラとした砂ではすぐに崩れてしまう。
見かねた都城がどうにかしようとするが、その手に砂がまとわりついて砂山が一段と小さくなった。

「あ、もうこんな時間…」

学園のチャイムが鳴り響き、その音で顔をあげたなまえは時計塔で現在の時刻を知る。
都城もなまえの言葉に手を止め、二人は同時に立ち上がった。
都城は何か思うところでもあるかのように時計塔を見上げていたが、なまえはそんな都城を見ていない。
先に時計塔から顔を逸らしたのは都城。
そのまま、視線をなまえへと戻した。

「帰るか?」

時刻は夕方の5時をとうに過ぎている。
なまえもまた、時計塔から視線を都城へと移した。

「ううん。だって私、もう子供じゃないから」

「………そうか」

なまえの頬についた砂を制服で拭いた右手で拭いながら、都城は微かに笑みを零した。


砂遊び


(うわ!目の中に砂が入ったかも。痛い痛い)
(水飲み場で洗えばいいだろう)
(そんな使い方もあったんだね!)
(普段の使い方を問いただす必要がありそうだ)


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