(フランケン・シュタイン)
「何してるの」
死武専の生徒たちが授業で訓練をしているなか、その輪から離れたところに一人の青年の姿があった。
なまえはそんな青年を不思議に思い、後ろから声をかける。
しかし青年は突然の声に驚くことも後ろを振り返ることもせず、面倒そうに口を開いた。
「…先輩を驚かせようかと思って」
「先輩?」
青年の返事に、なまえは首を傾げる。
先輩、先輩。確かに彼の口からその単語を何度か聞いたことがあるが、その際に会話をしていたわけではないのでその先輩と呼ばれる人物が誰かが瞬時に浮かばなかった。
「驚かせる、ってどうやって」
「今考え中だ」
あっさりと返された答えになまえは次の言葉を探す。
どうして自分が普段どちらかといえば不仲な彼に話しかけたのか今となってはわからなかったが、このまま終わらせるのもなんだか微妙だったので、どうにかなまえは彼の言う"先輩"を思い出した。
「ああ。あの人か」
対し、青年は今さらわかったのかとでもいうように視線を一瞬だけなまえへ流すが、口を動かそうとはしない。
「あの人、女好きみたいだし私が色仕掛けするとか」
「無いもん仕掛けてどうするんだ」
「子供にはわからない大人の色気ってものがあるの」
「お前も子供だろ」
その言葉になまえは答えなかった。
「なんだよお前、先輩のことが気になるのか?」
そこで初めて、青年はなまえの方を向く。
なまえはそんな青年の言葉か行動か(それとも両方か)に驚いて少しだけ目を見開いた。
「先輩がっていうより、あなたが何をするのか気になって」
「……それって」
「クラスから相当浮いた存在だし」
「余計なお世話だ」
そう言うと、彼は再びなまえに背を向けてしまう。
彼の足元には色々な道具が無造作に置かれていたが、それらがどんな機能を果たすのか、なまえにはわからなかった。
「邪魔だ」
「邪魔してないよ」
「存在がうるさい」
「あなたの陰湿な雰囲気よりマシ」
ガチャガチャと彼の手元で鳴っていた音が止まる。
「……シュタイン」
「え?」
「名前」
それだけ言うと、彼は再び手を動かし始める。
なまえはそれが彼の名前だということに気付くのに数秒を要した。
「シュタイン」
「なんだ」
「私もそれやりたい」
彼―――シュタインが"先輩"に何をしようとしているのか定かでは無かったが、なまえはシュタインの後ろではなく横に並ぶ。
シュタインは何か言いたげにそちらを向いたが、何か考えるように開いた口をゆっくりと閉ざした。
「じゃあ、そうだな…」
ガシャーン、という物凄い音が廊下に響き渡る。
一体何事かと近くに居た生徒はそちらを振り返り、自分たちへ向かって走ってくる二人の人物を見て驚きの表情を浮かべた。
何が、と二人に質問をする前に、更にその後ろに居る物凄い形相をした人物に彼らは言葉を詰まらせる。
「またお前らか!!ちょっと待て!!!」
「なまえ、お前のせいだぞ」
「違うよ。シュタインがあそこで大声出すからバレたの」
物凄い形相で追いかけてくる人物のことなど気にしていないかのように二人は冷静に会話をしていたが、その足が必死に彼から逃げているのを見ると気にしていないはずもない。
そんな二人に追いつかんがばかりの人物の顔は怒りに満ち溢れていた。
「今日という今日は許さないからな!」
「謝るから許してくれる?」
「何一人で抜け駆けしようとしてんだ」
「ダメだ!」
少し声を張って後ろに声を投げかけるも、なまえの言葉はバッサリと切り捨てられてしまう。
二人に迫る人物―――シュタインに"先輩"と呼ばれる彼の服は少しボロボロになっていたが、そんな様子から彼がどんな目に合ったのかなどは想像できない。
しかしあれだけ怒っているというのだから相当なことだったのだろう、と追いかけっこを見ていた生徒たちは早々に他人のフリ(元々他人ではあるが)を決め込んでいた。
「あ、先輩。足元気を付けて下さいね」
「は?何が…って、うおおおおおおお!?」
シュタインの忠告に首を傾げるも、時すでに遅し。
どうやら落とし穴のようなものがあったようで、"先輩"の姿は一瞬で消える。
それを確認してから二人は立ち止り、ゆっくり落とし穴のようなものへ近付いた。
「ほんと、引っかかりやすいというかなんというか…」
「これだからイタズラはやめられない」
先輩の怒号が飛ぶまであと数秒。
イタズラ成功
(いつまで経っても中身は子供)