(ドンキホーテ・ドフラミンゴ)

「アラバスタ王国」

「クライガナ島」

「ウソつきノーランド」

「ド…ド……ドフラミンゴ」

「フッフ…これで三回目だぞ」

「うるせえ!ドなんて他にあんのかよ」

「色々あるだろ」

「じゃあ言ってみろよ」

「フッフッフッフ…自分で考えろ」

そう余裕ぶった笑いを零すドフラミンゴを睨みあげるが、そのサングラスの下でこいつが何を考えているのかなど理解できるはずもないので、諦めてソファにもたれかかる。

「にしてもいくらなんでも弱すぎだななし。ちったあ勉強しろ」

「一般人の知識なんてこんなもんだろ」

ドフラミンゴの言葉を適当に流すが、"しりとり"などこの世界のことをあまり知らない俺からしてみればかなり難易度が高い。
しかし下手に断っても変に思われるだろうとこうして弱いふりをしている。
元の世界なら負け無し(と言ってもそこまで本気でしりとりをしたことがない)なのだが、どのあたりの単語までがこの世界で共通なのかがわからなかった。
だからこそ、俺は初めからハンデを与えていることになる。
かといって別に、しりとりくらい負けたところで悔しくなどない。それよりも、下手にボロを出してしまうほうが怖かった。

「どうでもいいけど、しりとりするくらい七武海って暇なのか?」

しりとりなんて暇の究極でする遊びだろう、と天井を見上げるのをやめてドフラミンゴへ視線を戻す。

「そこらへんの海兵よりは暇だな。基本、召集がかからなきゃ自分たちの好きなようにしてる」

「無職なんだな」

「フッフッフ。違いない」

俺の言葉に頷き、果物を一口かじるドフラミンゴだったが、こいつが裏で人権を無視した商売をしていることは知っている。
俺でさえ知っているのだからきっと大抵の上層部は知っているのだろう。
それでいて気付いていないふりをしている。一体――――どうなっているのか。

「しかしおれ達が召集されたときに良いことなんてねえ。ななし。お前だって忙しくなるぞ」

「いや俺は普段通りだよ。海兵でもないんだしな」

そこまで考えたが、所詮別の世界の住人である俺には関係の無いことだ、とドフラミンゴの裏の顔について考えるのをやめる。
というかこんな悪そうな顔してる奴に裏の顔が無いはずがないのだ。こうして海軍本部にいるけど、一応コイツは海賊だし。

「世界に関心がねェのか?」

「いや。関心はあるさ。興味が無いだけで」

「同じだろ」

「違うさ」

目の前のコレは、こうして俺と喋ってはいるが、違う世界の人間だ。
それがどうにも俺には気持ち悪かった。
あっちからしてみれば俺の方が気持ち悪いのかもしれないし、そう思われても構わない。
ただどうもこの世界にきてから、体調はなんともないが気分が優れない。

「違う世界の人間みたいだな」

「、はあ?」

突然のことに言葉が詰まる。
俺自身がこの世界の人間じゃないことを知っている人物はもうこの世にいないはずだし、それを又聞きする時間も無いはずだ。
だからきっといつもの冗談なのだろう、と瞬時に理解出来たつもりでいるが、実際のところ微かな動揺を悟られなかったと言い切れるわけではない。相手がこの男ならば余計にだ。

「頭おかしいんじゃねーの」

そう言って、目の前の果物を選ぶふりをする。
食欲は無かった。いつものことだ。しかし時間になると腹は減るので仕方なく食事は口にしている。

「フッフッフ。そうか?おれァななしに別の世界から来たって言われれば信じると思うぜ?」

「……なんでだよ」

そんなにこの世界に馴染んでいないのか、とドフラミンゴを見るでもなく静かに息を吐いた。
恐らく奴の顔に浮かんでいるのは相変わらずの不気味な笑み。
何がそんなに楽しいのか、何を考えているのか、奴の隠れている目を見たところでわかるはずもないだろう。
綺麗な弧を描いているその口が、ゆっくりと動くのが見なくともわかった。

「"ドンキホーテ"という名を聞いて、おれが何なのかわからねェ奴はこの世界に存在しない」

音が、止まった。体温が一気に冷えるのがわかった。
目の前に並べられた色とりどりの果物の色が、わからなくなった。
今――――何を?
こいつは何か確信をつくようなことを―――言ったのか?

「………………………」

何か。何かを。何でもいいから何かを喋らなくては。

「なんてな」

軽い笑い声と、果物が齧られる音が耳に入ってくる。
しまった―――と思ったときには既に遅い。

「(コイツ――――)」

一体今、何を知られた?奴は何に対して確信を持った?
完全にペースにのまれていた。それをわかっているのに、逃げ出す術を見つけられなかった。

「なあドフラミンゴ」

「なんだ?」

目の前の果物が色を取り戻す。
余裕の笑みには虚勢の笑みで。
俺は目の前のリンゴを盛大に一口齧り、満足に噛み砕かないまま飲み込んだ。

「俺、お前のこと大嫌いだわ」

罪を喰べる


(フッフッフ。そうかい。それは残念だ)



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