(ジャスティン=ロウ)(フランケン・シュタイン)
『人は死んだら星になるそうですよ』
そんなことをジャスティンが言っていた。
なんでそんな話になったのかは全く覚えていないが、きっとその前にジャスティンが何か口説き文句のようなものでも言っていたのだろう。
しかし魂の欠片も残っていないジャスティンが一体どうやって星になるのだろう、と形ばかりの墓の前に座りながら上を向く。
「……何してんだお前」
「シュタインこそ」
上を向くために顔を上げれば、私の後ろに立ってこちらを見下ろすシュタインと目が合う。
シュタインのせいで夜の空を見ることは出来なかったが、まあいいかと頭を元に戻した。
シュタインが横に立つのがそちらを見なくともわかる。
「墓参りだよ。お前と違ってな」
「ふぅん。花、似合わないね」
「言ってやるな」
「シュタインにだよ」
ジャスティンはどちらかというと似合う部類の人間だという意味を込めて言えば何らかの反応を示すかと思ったが、声は降ってこなかった。
―――ジャスティン=ロウ。
B.Jを殺害して死武専を裏切り、狂気と共に歩むことを決めた彼。
結局自身の願いも夢も空しく、私の隣に立つシュタインに戦いで敗れた。
「……………なあ、なまえ」
「…ジャスティンはさ、」
シュタインの言葉を遮り、言葉を発する。
シュタインが言うようなことなどわかっている。だからこそ聞きたく無かったし、彼が言う必要は無い。
今となっては何が悪くて誰が悪いとか、もう関係も意味も無いのだ。
それにきっと、シュタインのことだ。間違ってなどいないのだろう。
「どうして私なんかが好きだったんだろうね」
いつからああだったのかはよく覚えていない。
ジャスティンの魂が気に食わなかったのは最初からだ。よく覚えている。
でも最初の頃なんて、会話をしたことなんて一度も無かった。
いつからだろう。彼を余計に鬱陶しく思ったのは。
いつからだろう。彼がいることを当然に感じたのは。
「…………さあな。俺には一生理解できんさ」
それが嘘だということはすぐにわかった。
シュタインは理由を知っているとでもいうのだろうか。
しかしここで問い詰めても仕方が無いので、ため息交じりに言葉を返す。
「私に魅力が無いとでもいいたいの?」
「無いだろ、実際」
ここがジャスティンの墓の前じゃなきゃ殴っているところだ。
「(星………………)」
空を見上げる。
死武専の屋上からのほうが星は見えたが、ここから見るのが日課になっていた。
こうして誰かの墓に来る人以外、当たり前だがここには誰も来ない。
シュタインも私につられて空を見上げているのがわかった。
「空がどうかしたか」
理由も無く空を眺めているわけではないことを、シュタインはわかっているらしい。
「ジャスティンが、人は死んだら星になるって言ってた」
しかし毎日空を見上げたところで、どれがジャスティンなのかがわからなかった。
もしかしたらまだ星にはなって無いのかもしれない。
人間だって母親のお腹に存在してから生まれるまでにある程度の時間がかかる。星になるにも色々あるのかもしれない。
「星に、ねえ…」
シュタインは何か言いたげに言葉を零した。
その続きを待ったが、シュタインにそれを言う気は無いらしく辺りには静寂が広がる。
「B.Jの星、わかる?」
「は?」
突然私が問いかけるものだから、シュタインは視線を顔ごとこちらへ下ろした。
私は相変わらず空を見上げていたからシュタインと視線が合うことは無いが、そろそろ首が痛くなってくる。
「仲間でしょ?わかんないの?」
「……あー、あれかあれか…もしくはあれだな」
シュタインがそんなことを言いながらはるか遠くの星を指す。
遠すぎるのとシュタインが適当すぎるのとでどの星を指しているのかがわからなかったが、私にはどれも同じに見えて仕方が無い。
「ジャスティンの星、まだかな」
「…………………さあな」
星になるまで一体どれくらいかかるのかだけでも訊いておけば良かった、と隣に立つシュタインと一緒にじっと空を見上げた。
行方不明の星
(光の速さで君の元へ)