(幻影旅団)
「…散々な目にあった」
自業自得なのだろうか、と今の呟きを彼らに聞かれない場所で呟く。
マチとパクノダには散々買い物に付き合わされ(しかもお金は全部私が出した)、フランクリンには念能力の新しい実験台にされ、ウヴォーには再会のハグだとか言って全力で抱きしめられた死ぬかと思った。
「…………………………」
ため息をつく元気すらない。
フィンクスは顔を赤くしたり青くしたり忙しなく私へ罵声やら喜びの言葉やらを浴びせてきたし、フェイタンは何も言わずにじっとこちらを睨んできた滅茶苦茶恐かった。
「…………………………」
その場に寝転がり、星の見えない曇り空を見上げる。
ノブナガは不貞腐れていたようだったがあとでこっそり「また会えて良かった」と言ってくれたし、シャルは一言「おかえり」とだけ言ってくれた。
「こんなところで何してんだ?」
「………………クロロ」
今は"こっち"か、と前髪をあげているクロロを視界に入れ、上半身を起こす。
「みんな、私のことなんて忘れてると思った」
幻影旅団なんて名で世間を賑わしているのだ。
昔いなかったメンバーもいて、きっと過去とは切り離した存在なのだと考えていた。
それなのに、彼らは必死で私を探した。私を追った。
そしてついに彼らは私を見つけたのだ。
「忘れるわけないだろ」
クロロが隣に座る。
まるで別人だった。……いや、昔から片鱗はあった。
私も忘れてなどいない。
あのまま共にいたら私は彼らを殺していた。殺せるかどうかは別として、殺そうとはしていただろう。
今だって、何かちょっとしたことで、隣のクロロを殺してしまうかもしれない。
絶対に殺さないなど、家賊でなければ言いきれないのだ。
「マチはお前を見つけたら逃げないよう壁に縫いつけると言っていた」
「マチらしいね」
「パクノダは美味しい料理を振る舞うと言っていた」
「胃袋を掴むってやつかな」
「フランクリンは目を離さないようにすると言っていた」
「あはは。保護者みたい。しかも似合う」
「ウヴォーは全力で怒鳴りつけると言っていた」
「鼓膜破れちゃうからやめてほしいな」
「フィンクスは…もう一回ぶん殴ると言ってたな」
「昔より痛くなってそう」
「フェイタンはまあ、言わなくてもわかるだろ?」
「考えが当たって無いと良いんだけど」
「ノブナガは今度こそ勝つと言っていた」
「私だって負ける気は無いよ」
「……シャルナークは特に何も言わなかった」
「……………………そっか」
みんな、言ってることとやってることが違うじゃないかと笑いそうになる。
どうしたんだろう。どうしてこんなことになっちゃったんだろう。
どうせ失ってしまうなら、自分の手以外の方法が良かったのに。
どうしてもここは、居心地が良い。
「クロロは?」
「ん?俺か?」
クロロは何を思い何を考え何を言ったのか。
視線を綺麗ではない夜空から綺麗な闇のような目をしたクロロへ移す。
"この"クロロは笑わない。ただ冷酷に、ただ残酷に、"旅団"のために行動をする。ただそれだけ。
「戻って来ても戻ってこなくても、そんなものはどっちでも一緒だ」
「………そう」
返答は意外なものだった。
どう意外なのかはわからなかったが、なんだか心の奥がチクリと痛み、その不思議な感覚に戸惑う。
「言っただろ。お前は俺たちのものだって」
「え?」
「俺たちのものじゃなくなったなら、そうなるように奪えば良い。なんたって俺たちは盗賊だ。欲しいものならなんでも奪う」
"団長"としてのクロロの視線が、私の奥の何かを見透かしたように鋭く貫く。
そんなクロロに唖然としていると彼の手が自身の髪に触れ、彼は短く笑った。
額は整ったその前髪に隠され、ポケットから取り出した包帯で更に額に描かれたマークを隠す。
「残念だったななまえ」
そう笑うクロロの言葉の意味がわからず首を傾げた。
「俺たちはなまえがどこへ行こうと追いかける」
それが違う世界だとしても、と言ったクロロに、少しだけ驚く。
しかし私が違う世界の住人だとは知らないだろう。知る術も無いはずだ。
それに、「今のはくさかったかな」などと笑うものだから、それが言葉のあやであることを理解する。
「…………………………」
しかしもし本当にそうだとしたら、彼は―――彼らはどうするのだろう。
私のように犠牲を払ってしまうことを知っても、別の世界に行こうとするだろうか。
「夜更かししてないで、さっさと寝た方がいいと思うが」
「……?もう子供じゃないのに」
それに子供のころだって、規則正しい生活を送っているわけではないだろう。
気持ちの良い風が、私とクロロの間を通り抜ける。
「何言ってるんだ。あいつらがあれでお前に言いたいことを全部言ったと思うのか?明日からもまた散々付きあわされるはめになるんだから、しっかり休んでおけってことだよ」
「……え」
「俺は最後でいいから、全員分終わったら言えよ?」
「いや………いやいやいや」
まだこんな感じのが続くのか、と昔のことを一瞬だけ後悔しそうになったのは内緒である。
追いついた過去
(幻影旅団ってそんなに暇なの?)