(超新星数名)

『次の目玉商品は"人間"!ですが、ただの人間ではありません。なんと彼女は"能力者です!"』

うるさくもなく静かでもない、しかし会場全体に響き渡る程度の音量の声と共に、ライトが舞台上を照らす。
舞台上に居る少女は眩しそうに目を細めたが、すぐに笑顔になり、その手錠をかけられた手を客席へ振った。

「『どうも。週刊少年ジャンプから転校してきた球磨川なまえです。ってここもWJだっけ』」

「なんだあいつ、躾済みか?」

「さあ。でも顔が可愛いし馬鹿なところも俺はいいと思う」

「あとは何の能力なのかだな」

なまえと名乗った少女がこれから売られるとは思えない笑顔で言葉を口にすると、客席は口々に言いたいことを喋り、少女を笑う。
しかし中にはただ物珍しいからという理由でこの人身売買の地へ足を踏み入れただけで売り物に興味が無いという人物達はぼんやりとそんな様子を眺めていた。

「『笑うな』」

その声が、初め誰のものかわからなかった。
それに、笑っていた客は皆、"客席に螺子で穿たれた"錯覚を覚える。
否―――それは錯覚などではないのだが、すぐにそれを"無かったこと"にした球磨川なまえによって、それは錯覚へと変わった。
しかしこんなにも大勢の人間が同時に同じ錯覚を覚えるはずもない―――動揺と少しの好奇心が広がり、それは彼らの欲求へと変わる。

「俺は買うぞ」

「俺も買う!」

「私も欲しいですわ」

「いくらからだ!?早く始めろ!!」

「『わあ』」

うるさいくらいの会場のどよめきに、それでもなまえは笑みを絶やさない。
競り落としたのは一人の男だった。
周りの人間は残念そうに項垂れるが、次だ次、と目新しい奴隷の登場を待つ。

「『よろしくお願いしますね!ご主人さま!』」

そうは言うが。
数時間後、男は人気のない森の中で、血を流して地面に倒れていた。
なまえはどうしたものかと自分を競り落とした男を見下ろす。
その男の目の前にも、また別の男が立っていた。

「さっきぶりだな」

「『…?初めましてだよね?』」

「競売のときにテメェを見てピンときた。お前、おれたちの仲間になれ」

「『仲間……』」

仲間とは、と考え、よくわからないといった風になまえは首を傾げる。
男はそんななまえに呆れるでもなく、逆に楽しそうに笑みを深くした。

「海賊だ。キッド海賊団―――おれが船長をしてる」

海賊、と先程のようになまえは男の言葉を反復した。

「おれはユースタス・“キャプテン”キッド。この名に聞き覚えは?」

「『無いよ』」

もしかして有名人?、などと首を傾げるなまえに、ゴーグルをかけた男―――キッドはますます笑みを深くする。
そんな表情すらも極悪そうに見えるものだから、海賊と言うのはその名の通り恐ろしい人間がしているものなのだろうとなまえは本物の海賊を初めて前にしたというのにそんなことを呑気に考えていた。

「欲をかいた権力者の純真に比べたら、世の悪党の方がいくらか人道的だ。クズが世界を支配するからクズが生まれる。おれ達は悪気がある分かわいいもんだ」

そう言うキッドの視線は、地面に倒れている男に注がれている。
先程の競売について言っているのだろう、となまえも自分を買った男を見下ろした。

「ユースタス屋に先を越されたか」

「『!』」

新たな登場人物に、なまえは驚いたように振り返る。
しかしキッドはその気配に気づいていたようで、少しだけ不満そうに眉間に皺を寄せた。

「何か用か。トラファルガー・ロー」

「おまえに用はない。用があるのはそこの奴隷屋だ」

「『奴隷屋…って』」

私が奴隷を売ってるみたいじゃないかと反論するが、ローと呼ばれた男は呼び方を訂正するつもりはないらしい。
肩に刀を担ぎながら、数歩なまえへ近付いた。

「じゃあ、そうだな。お前、そいつの名を聞いたことがあるか?」

「『トラファルガー・ローって名前?無いけど』」

「はは。とんだ箱入り娘らしいな」

何をどうしてあんなところで売られていた、と興味からの疑問を楽しそうに口にするキッドに、どうしてと言われても、となまえは首を捻る。
気がついたらこんな世界にいたわけだがまあ某安心院さんの仕業だろうと呑気に歩いていたら誘拐され、今度も気付いたらあそこにいたというわけである。
しかしそれを説明してどうするのだろう、となまえは首を傾げ続けた。

「奴隷屋。その様子だとまだそいつの仲間にはなってないようだな。おれの船に来い」

「おいおい、横取りはよくねえんじゃねえの?」

「ユースタス屋のじゃないんだから別に横取りじゃないだろ。それともなんだ、この小娘に惚れでもしたのか?」

「はっ、こんな乳臭いガキ、頼まれても抱こうと思わねえよ」

「『………………………』」

何か不評ばかり言われている気がするなまえは、不満そうに後から来たローを観察する。
温かそうなニット帽に、随分と寝ていないのか酷い隈。
左手に持った刀はあの世界で殺人鬼が持っていたものよりも長い気がしたが、いつも斬られているだけできちんと刀を見たことが無いなまえは刀への興味はすぐに無くなっていた。

「あれ?おまえら、何してんだ?」

「麦わら屋」

「ロロノアもいるじゃねえか」

また新たな登場人物。
今度は麦わら帽子をかぶった青年と、刀を三本腰に携える恐い顔をした男。
ここは彼らの集合場所だったのかなどと呑気なことを考えていると、ロロノアと呼ばれた男となまえの視線がぶつかる。

「ん?お前…どこかで見たことあるな」

「『さっき売られてたから、そこじゃない?』」

「ああ!おまえ、あのときのネジ子!いやー、凄かったなあれ。何だったんだ?」

「『ネジ子……』」

なんだそのあだ名は、となまえは話しに入ってきた麦わら帽子の青年のネーミングセンスに呆れる。
あだ名をつけられたのは初めてだったが、そんななまえでも酷いあだ名だということがよくわかる。

「『もういいかな?私はこの人に買われたんだから君たちの仲間にはならないし、そうじゃなくとも海賊なんて悪い人に私はならないよ』」

「そうは言うが奴隷屋。もうその男は死んでるぞ」

ローの言葉に、なまえは一度だけローを振り返った。
しかしそのまま地面に倒れている男の近くへゆっくりと寄ると、軽く揺すって男を起こすそぶりをする。
そんなものは意味が無いと、ローもキッドもなまえを見下ろしていた。
麦わら帽子の青年とロロノアはいまいちわからない状況にただそれを見ているだけ。

「『別に。私にとって生きてるのも死んでるのもどちらも一緒だから。関係無いし、私は悪くない』」

瞬間、ピクリ、と男の指が動いたのをキッドとローは見逃さなかった。
それどころか男はうめき声を出し、ゆっくりと起き上がろうとする。
しかし寸前―――キッドが持っていた銃が火を噴く。

「!」

「おい、おまえ何してんだ!」

キッドの行動にロロノアが驚き、麦わら帽子の青年が怒る。
弾は綺麗に男の頭を貫通し、男は再び地面へと倒れた。

「なんでもいいだろ。テメェらには関係ねえ。それよりも、ますます欲しくなったぜ。おい、名前は?」

「『なまえ』」

なまえは自分を買った男が二度も殺されたというのに、特に怒りなどは持ち合わせていなかった。
キッドがこの場に居る限り、男の死を"無かったこと"にしたところでまた殺されるだけだ、となまえは既に"主人"のことは諦めている。

「いや、奴隷屋。おれの仲間になれ」

「…こいつらは何してんだ?」

「『わかんないけど、そういう君たちはどうしてここに?』」

「船に戻ろうとしたんだがゾロが方向音痴で困ってんだ」

「こっちの道を選んだのはテメェだろうが!」

おれのせいじゃねえ、と方向音痴を否定するゾロだが、青年は「困ったやつだよなー」と話を聞いていない模様。
彼らは彼らで大変そうだ、となまえはこの状況をどうしたものかと考える。

「『でも私めちゃくちゃ弱いしすぐ死ぬよ?』」

「さっきみたいに復活するんだろ?構わねえさ」

「『死ぬのって案外嫌なもんなんだよ』」

「待てユースタス屋。こいつはおれの仲間にする」

「なんだなんだ?こいつ、おもしれー奴なのか?」

「おいルフィ、さっさと船に戻るぞ」

「『…そっちに海岸は無いけど』」

キッドとローの間に火花が散る横で、立ち去ろうとするゾロが向かう場所はあの大きな壁がある方向だ、となまえは小さく呟く。
その呟きを拾ったのか、ゾロはくるりと方向を変えてまた違う道を歩いて行こうとしていた。
しかし、ルフィと呼ばれた青年の腕はミョーーンと奇妙に伸び、ルフィがその場から動くことは無い。

「『……う、腕が』」

そんなルフィの長く伸びる腕を見て、なまえは一歩後ろへ下がった。
髪が伸びる異常アブノーマルは見たことがあるとはいえ、腕が伸びる異常アブノーマルなど見たこと無い。
痛くないのだろうか、皮膚だけ伸びているのだろうか、骨はどうなっているんだろう、と様々な疑問が浮かぶ中、背後で不思議な音とガチャガチャと金属がぶつかりあう音がして、何事だろうかと振り返った。

「『…………なんだこれ』」

そんな言葉しか出てこなかった。というより、この状況で言葉を出せた自分ほ褒めてほしいとなまえは心の中で呟く。
キッドの右腕にはたくさんの金属類が集まり、それが一つの巨大な武器となってローに襲いかかろうとしていた。
ローの方はローの方で刀は未だに持っているものの、胸の前辺りに右手を持ってきて余裕そうな笑みを浮かべている。
ふと周りを見てみれば、ローを中心に何か円のようなものがこの空間を包み込んでいて。
勿論、近くにいたなまえはその円の範囲内にいる。

「『……安心院さんに次会ったらもう一回封印しよう』」


おれたち超新星


(安心院さん、風邪ですか?)
(いや、どうやら誰かが僕の噂をしてるみたいだ)



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