(フランケン・シュタイン)
「なんでお前を狩る任務じゃなくて、お前と狩る任務なんだ」
「それはこっちの台詞なんだけど」
夜。人影の全くない路地を歩きながら、シュタインとなまえは口々に言いたいことを零していた。
季節的にはクリスマスが近かったが、どう見ても二人の雰囲気はカップルというそれからかけ離れている。
「死神……様はどうして私とこいつを組ませたんだろう。あみだクジで決めたのかな」
「俺にお前を殺して欲しいんじゃないか?」
「無理なのに?」
瞬間、辺りは街灯も少なく闇に包まれているというのに、バチッと火花のような電気のような、光の筋が走った。
しかし二人は何事かと驚く様子も無く、それがなんなのかを理解している様子。
それどころか、シュタインの右手がバチバチと軽く光っているところを見ると、彼が原因だったようだ。
「悪い悪い。敵が来たかと思った」
「頭だけじゃなくて目も悪くなったの?」
どうやらなまえはそのシュタインの攻撃をかわしたようで、二人の距離は先ほどよりも開いている。
なまえがシュタインに悪態をついた直後、再びなまえが何かを避けた。
しかしシュタインとの距離が変わっていないことに気付き、何事かとシュタインを見る。
「おい…今のは俺じゃないぞ」
「えっと…任務ってなんだっけ」
シュタインもなまえも足を止め、闇に包まれている前方へ視線を動かした。
闇は静かだ。夜は冷たい。
微かな殺意が、風に乗って二人を煽る。
「確かリストに載ってる魂狩りだな」
「……そういえばリスト貰ってない」
「ああ悪い。学校に忘れた」
こいつ、と今度はなまえがシュタインに攻撃しようとして、それは第三者によって防がれる。
なまえは跳躍しようとした逆方向に慌てて避け、かろうじて敵の攻撃に当たらずにいた。
その際シュタインが舌打ちしたのが聞こえたが、今は無視することにする。
「というか、狩るって言ってもスピリットはどうしたの?」
「先輩は死神様との仕事があるようだったからな」
「じゃあこの任務、私だけで良かったんじゃ…」
どこから現れたのかノイズが小さくにゃあと鳴く。
そして、みるみるうちに姿を変えていった。
その大きな剣はなまえの手に収まり―――なまえの服装も、普段のそれから騎士のようなものへと変わる。
それを見ていたシュタインの表情は闇に隠れて伺うことが出来ない。
「魂の共鳴!!」
瞬間、バチバチッ、と先程の比にならないくらいの電撃が辺りにほとばしる。
それは闇を切り裂き、静寂を砕き、煽る殺意を消し飛ばした。
「(…今のでここら辺一帯が停電になったな)」
シュタインはそんなことを考えながらくわえていたタバコに火をつける。
それは闇に包まれたここでは酷く目立ったが、既に敵の攻撃は止んでいた。
なまえの姿も元に戻り、猫の姿に戻ったノイズはにゃあと再び小さく鳴く。
しかしこれで終わりでは無いだろうと、シュタインもなまえも気を抜いていなかった。
「それ、消さなくていいの?」
「姿が見えないならあっちから仕掛けてくるのを待つほうが良い」
それとも夜が明けるまで待つか?というシュタインの冗談に、なまえは返事を返さなかった。
二人はほぼ同時に足を進める。
「今回の任務の件、先輩が死神様に頼んだんだ」
「…スピリットが?」
「ああ」
"頼んだ"というのは自分と一緒の任務に就くことだろう、とシュタインが全てを語らなくともなまえは理解した。
しかしその意図までは理解出来なかったようで、不思議そうに隣を歩くシュタインを見上げる。
シュタインは相変わらず煙草を味わっているが、はあ、とうるさいくらいに息を吐くと煙草をくわえるのをやめた。
「ここのところ任務続きだから心配だって言うんで本当は先輩が来るはずだったらしいが、死神様に仕事を言われてどうしても無理だからって俺に回ってきたわけだ」
「心配………って」
なまえは複雑そうな表情を浮かべる。
なまえのそんな表情が珍しかったのか、シュタインは口を開いたまま少しの間なまえの表情を見下ろしていた。
「スピリットって過保護だよね…私は娘じゃないけど」
「過保護とは違うと思うけどな」
「…?心配性ってこと?」
「まあ、そういうことで良いよ」
「面倒になったでしょ」
バチッ、と再び火花のような魂威が迸る。
しかし今度はなまえはそれを避けなかった。
シュタインの右手はなまえの顔すれすれを通り過ぎ、後ろの闇を貫く。
なまえは振り返ることなく、ぼんやりとシュタインの顔を見上げていた。
「でもさ、スピリットが来れないのは仕方ないとして、どうして来たの?」
「………………………」
なまえの背後で倒れている敵を見向きもせず、なまえはいつの間にか手にしていたクナイでその魂を狩る。
その際姿も変わっていたが、もうシュタインはそちらを見ていなかった。
ノイズが再び、夜の闇へにゃあと鳴く。
「どうしてってそりゃあ、お前が心配だったから」
「………スピリットの真似はいいよ」
「似てただろ?」
「全然」
あとでスピリットに謝っときなよ、となまえは槍を振り上げる。
と同時、どこからともなく水が湧き出で、複数の敵をまとめて飲み込んだ。
「でもまあ、私はスピリットとよりシュタインと任務に就けて良かったと思ってるけどね」
「………………それって」
なまえの言葉に、シュタインが言葉を詰まらせる。
その言葉には一体どういう意味が含まれているんだと隣に並ぶなまえを見るが、なまえは前を向いているのでその心情を伺うことは出来なかった。
そんなことは露知らず。なまえは平然と口を開く。
「敵として間違えても罪悪感無いし」
「バラすぞ」
シュタインの魂威と、なまえの放った電撃が夜の闇を光で照らした。
その際お互いがお互いを攻撃したが、見事に避けられてしまったのは言うまでも無い。
悪戦苦闘
(ほらシュタインもっと仕事して)
(はいはい)