(サイタマ)(ジェノス)(ソニック)

「お前これで何回目だ?」

「うう…覚えてない」

「今月に入って12回目です」

「怪人ホイホイか何かかお前は」

Z地区に存在するかろうじて人の住む形を残しているアパートの一室で、なまえは何故か正座をさせられていた。
事の始まりは数十分前。夕飯の買い出しをしようと商店街を歩いていたなまえは通りすがりの怪人に意味も無く突然追いかけまわされていた。
それを同時刻に商店街近くのスーパーのタイムセールに来ていたサイタマに目撃され、ジェノスに助けられ、無事解決。
――――と思われたのだが、そのせいでタイムセールで目的のものを買えなかったサイタマに怒り気味に「ちょっと来い」と言われてこうしてわざわざZ地区まで足を運ぶはめになったのである。

「今日は!月に一度の!肉の超タイムセールだったの!!それなのにお前のせいで肉を買い損ねた!!今夜はすき焼きの予定だったのに!!」

「私を襲った怪人も結構良い感じに脂のってたよ」

「あれは重油だろ!おかげで全身ドロドロになったわ!!ジェノスの全身が!」

「半分機械だし、いい感じに…」

「なるのか?」

「なりませんよ。俺のは特別製ですから」

怪人が見たら即逃げるというくらいに凄い剣幕で怒るサイタマから視線を逸らし、会話の内容すら逸らそうとなまえは必死に思考回路を働かせるが、サイタマの怒りはおさまらないらしい。
食べ物の恨みはなんとやらというけど、となまえはどうしたものかと質素な部屋をぐるりと見渡した。

「つうか他のヒーローは何やってんだ?ゾンビマンとかタツマキとかによく助けられてんだろお前」

「今回は走って行った先にハゲマントが丁度いただけであって…」

「サイタマだっつってんだろ!ハゲマント言うな!!」

わーぎゃー騒いでいるなまえとサイタマをよそに、ジェノスは黙々と料理を続けている。
というか肉が買えなかったのに結局メニューはすき焼きなのか、と隙間から見える材料でなまえは料理名を判断した。

「つーか先月もなまえのせいでタイムセール逃した気がする……」

「怪人と気があうね!」

「ぶっ飛ばすぞ」

このままじゃこの先のタイムセールも、俺の肉、などとブツブツ言っているサイタマをよそに、なまえは立ち上がってジェノスの元へと歩み寄る。
足は痺れていなかったので、黙々と料理をしているジェノスの手元をこっそりのぞきこんだ。

「…どうかしたのか?」

「なにか手伝おうか?」

「いや、先生の説教をきちんと聞いたほうがいい」

「説教っていうか……なんでもない」

ふるふると首を振り、言いかけた言葉を慌てて飲み込む。
何だろうとジェノスが首を傾げているが、「八つ当たりだよね」などと続けた暁にはジェノスに敵だと思われてしまうかもしれない、と口をつぐんだ。
サイタマには遠く及ばないものの、ジェノスもジェノスでなまえでは到底かなわないような力の持ち主なのである。
世間では「若くてクールなイケメンヒーロー」などと人気があるが、S級ヒーローの肩書は伊達ではない。
と、今まで散々唸りながら考え込んでいたサイタマが突然口を開いた。

「よし、お前、オレたちと一緒にいろ!」

「え?」

「先生!?」

お前、というのは勿論なまえのことだったが、何故かなまえよりもジェノスのほうが驚いてサイタマを振り返る。
その拍子にジェノスが持っていた包丁が地面へ落ち、なまえの右足の真横へ勢いよく突き刺さったものだから、なまえの顔面は青ざめていた。

「そうしたら怪人に襲われてもジェノスが戦って俺はその隙に買い物ができる。そしてお前も助かる。一石二鳥どころか三なすびだろ」

「先生、それは……」

正月か、というなまえの言葉よりも先に、ジェノスが言葉を濁す。
戦うのは俺かとか先生は買い物ですかとかこの人はついでですかとか言ってやれ言ってやれ、となまえがジェノスの態度に関心する。
しかし、なまえの考えが通用しないことを、なまえはまだわかっていなかった。

「なまえがここに住むということですか?」

「「え?」」

なまえとサイタマが、同時にジェノスの言葉に疑問を口にする。
ジェノスの言葉を頭の中で反復し、先にそれを理解したのはサイタマ。
包丁が足の横の床に突き刺さったなまえよりも顔を青くしたサイタマの額を、大量の汗が流れていく。

「(お、女の子と同棲!?そ、そういうことになるのかこれは…?相手は女子大生だから余計にダメじゃないのかこれ…ヒーロー的にも世間的にも………いや、別に俺は大丈夫だがジェノスなんていい歳だ、万が一ってこともある。俺は大丈夫だが)」

「そ、それはまずいんじゃない?」

「ああ…部屋が足りないか」

「そこかよ!!」

ようやくジェノスの言葉を理解したなまえがジェノスに冷静に突っ込むが、ジェノスの答えは多少ズレたものだった。
そんなジェノスに、今大量の汗を流した俺はなんなんだ、とサイタマが慌てたように突っ込みを入れる。
瞬間、誰が何かを言い始める前に、突如部屋の窓が勢い良く割れた。

「サイタマ!今日こそ決着をつけるぞ!!」

「あーもう次から次へと!!」

誰が修理代払うと思ってんだ、と怒り狂うサイタマをよそに、突如現れた謎の黒い人物は大きく笑い始める。

「本当は俺の得意の速さを活かした瞬殺をお見舞いしてやるところだが、正々堂々勝負をしてやる…いくぞ、サイタマ!」

「先生は下がっててください。こいつは俺がやります」

「やるなやるな…家が吹っ飛ぶから」

なんで勝手にやる気になってるんだ、とサイタマがジェノスを止めようとするが、ジェノスは完全に戦闘モードである。
重油まみれになったとはいえ最終的にサイタマの殴りの風圧でそれらは全てどこかへ消え失せたので、ハンデというハンデはない。

「ていうか誰、あの人。知り合いなの?」

「あー、えっと、確か関節のパニック…」

「うわ凄い名前」

「音速のソニックだ!ちゃんと覚えろ!!」

「それはそれで凄い名前…」

両目を吊り上げてサイタマの間違いを訂正するパニックもといソニックは、ふと指差した先の隣にいるなまえの姿を視界にいれ、不思議そうな表情を浮かべた。

「なんだお前…前来たときいたか?」

「前も来たんだ……」

「こいつは気にすんな。肉泥棒だ」

「違うよ!」

突然なんてことを言い出すんだ、となまえは先程のソニック並みの速さでサイタマの間違いを否定する。
しかしソニックはそんなことはどうでもいいのか、ジェノスを通り過ぎサイタマを無視し、なまえの目の前まで歩いてきた。
一体何事だろうかとそんなソニックを6つの目が追う。

「ちょっと来い」

「え、私?」

「そうだ。来い」

「来いって…どこに」

「いいから来い」

最初は言葉だけだったのだが、素直について来ないなまえに痺れを切らしたソニックがなまえの左手を掴む。
そのまま軽く引っ張られたので一歩前に出るが、それ以上なまえは進もうとしない。
ソニックは眉間に皺を寄せてなまえを振り返る。

「何をしてる?」

「いや…どこに行くのかわからないのはちょっと」

「別にどこだっていいだろ。さっさと」

瞬間、なまえの目の前からソニックの姿が消える。
一体何事かと目を見開いたなまえは、消えたソニックがいた場所にジェノスの腕が伸びていることに気付いた。
サイタマはジェノスが先程床に落とした包丁に気付いたらしく、「床の傷は大丈夫か」と敷金のことを気にしている。
窓が全壊の時点で敷金も何もないだろう、と突っ込む人物がいるはずもなく、ジェノスが先に口を開いた。

「俺が相手になると言ってるはずだ」

「へえ?お前が俺のスピードについてこれるとでも?」

「だからやめろって。ほら、なまえ、そいつについていけよ」

「ダメです先生。さきほどなまえは俺たちと一緒にいるべきだと仰ってたじゃないですか」

「ああああれは別に!そんなことしなくてもべべべ別に大丈夫だろ。他にヒーローもいるんだし」

慌てたように自分の発言を撤回するサイタマ。
しかしソニックもジェノスも自分の考えに夢中で周りが見えていないらしく、サイタマの発言にはとくに引っかかってはいないようだ。

「ハゲマントに会いに来てるんだから相手してあげればいいのに」

「コイツが暴れたら部屋が余計に壊れるだろ。誰が修理代払うと思ってんだ」

というかハゲマントで呼ぶな、と騒ぐサイタマを尻目にジェノスとソニックが戦いを始めてしまった。
しかし1秒も経たないうちに、サイタマに頭を殴られて二人は床に沈むことになる。


二の次人助け


(パニックのやつ、肉持ってたりしねーのかな)
(ヒーローが泥棒はまずいんじゃない?)



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