(ジン=フリークス)(パリストン=ヒル)

今日の夜は何を食べようか、などと考えながらビルに戻る。
そのまま専用のエレベーターに乗り、最上階へと一気に昇れば、警備の者以外誰もいない廊下へ出る。
廊下を突き進み、一番奥にある部屋―――の手前にある左側の扉の前に立ち、カードキーを通して中へ入った。

「よっ!」

「………………………」

浮浪者のような格好をした男がそこにいた。

「なんだよその顔。俺のこと忘れたのか?ジンだよ。ジン=フリークス」

「……なんでここに?」

彼も十二支んの一人。このビルにいたところでおかしくはない。
しかし、私の部屋であるここにいるのは明らかにおかしいだろう、と手に持ったカードキーを見下ろした。

「そんなん意味ないのは知ってるだろ?」

「…だとしても不法侵入だよ」

「そう硬いこと言うなって。たまたま近くにいたときに召集がかかったから来てみたら客室はパリスの奴が使ってるんだとよ。だから俺も仕方なくここにいるんだぜ?」

はあ、と反論の代わりに盛大なため息をつく。
しかし神経が大樹のように図太いこの男のことだ。こちらの鬱陶しそうな表情に気付いたところでどうも思わないだろう。

「にしても趣味の悪い部屋だな」

挙句の果てに、勝手に部屋にあがりこんでおきながらこんなことも平然と言ってのける。

「お前、金とかそういうのには興味ねーの?」

「……いきなり何の話?」

「そこの棚に飾ってあるやつも、そこらへんに適当においてあるやつも、欲しがる奴に見せたらいくらでも出すぜ」

「欲しいなら持ってってもいいけど」

「いや…遠慮しとく」

そう言うジンが座っているソファも貰い物だ。
"彼"は報酬だなどといって色々なものをこの部屋にいれていくが、私にはどうも価値がわからないものばかりである。
ジンはそれをすぐに見抜いたのだろう。
だからと言って私の代わりにそれらを売りさばくようなことはしないらしい。
一体何のための質問だったのだろう、とカードキーを引き出しにしまいジンの横に座った。

「………………………」

「…………………何?」

「いや…そこに座るんだと思ってな」

「だってソファはこれしかないし」

「まあ…そうだけどよ」

何をそんなに驚いているのだろう、とテレビをつけようとしてリモコンが見当たらないことに気付く。
ジンは特にテレビを見ていたわけではないようなので、彼がどこかに移動させたわけではないのだろう。
一体どこに置いたかな、と朝の自分の行動を思い出そうとして、先ほど自分が入ってきた扉が許可もしていないのに勝手に開いた。

「あ。やっぱりここにいた!」

「……………なんで」

ここのカードキーは自分しか持っていないはずであり、それは先ほど引き出しにしまった。
それなのに平然と招かれたように扉から室内へ入ってくる彼。
十二支んはこんなのばっかりか、とため息をつこうとして、やめる。

「探しましたよジンさん。客室ならもう入れますからどうぞ!」

「いや、いいよ。召集時間まであと少しだし」

何を勝手に、とジンの方を向き抗議しようとした瞬間、ジンとは逆側のソファが沈んだことに驚いて振り返った。

「……何してるんですか?」

「いえ!なにやらお二人で楽しそうなので。僕も仲間に入れてほしいなと」

「二人で仲良く部屋から出て行ってくれませんか?」

「そう悲しいこと言わずに!」

ニコニコと人懐っこい笑顔をこちらに向ける彼に、これはこれで何を言っても無駄なんだろうと諦めの視線を送った。
それも彼には無意味だろうとわかっていてやったことなので、これといった反応が無かったことは気にせずテレビのリモコンを探そうと立ち上がろうとする。
が、くいっ、と後ろに軽く引っ張られたような気がして、何か引っかかっただろうかと横を向いた。

「なに?」

「俺とパリスが二人でソファに仲良く座ってるなんて気持ち悪いだろ。お前も座ってろ」

「じゃあ早く客室に移動してよ」

「パリスが先に行くなら構わない」

「僕はジンさんが先に行ってくれるならすぐにこの部屋から去りますよ」

「なんでですか…」

意味がわからない意地の張り合いでも始まったのか、二人はお互い違う笑みを浮かべているというのに目が笑っていない。
かなりの面倒ごとに巻き込まれた、と再び盛大なため息をつきたくなった。
ジンは相変わらず掴んだ右腕を離そうとはしないようなので、仕方なくソファへ腰を下ろす。

「パリスさ……?えーっと…」

「パリストンです」

「パリストンさんはどうしてここにジンがいると?」

「おい待て。パリスはさん付けなのに俺は呼び捨てか?」

「なんでジンにさん付けしなきゃいけないの」

会話を続けようとしたら自身が座る右側からジンが口を挟んできたため、会話を一旦やめてそちらを向く。
ジンはかなり不満そうな表情を浮かべていたが、子供でもあるまいしそのようなことで一々そんな表情をしないでほしい、とジンを無視してパリストンへ視線を戻した。

「実はなまえさんの部屋にこっそりカメラを設置してあるんです」

「え」

「冗談ですよ」

彼が言うと冗談に聞こえない、と彼から貰った品々をあとで調べておかなくてはと部屋の中を軽く見渡す。
こんな会話をしていると忘れがちだが彼ら二人は十二支ん―――そして、その前にプロのハンターなのである。
部屋に侵入することは簡単。人を見つけることも容易。
そんなハンターに理由を聞いたところで、きっと納得できるものではないのだろう。

「本当はジンさんの帽子に発信機をつけておきました」

「え」

「うわ本当だ」

パリストンの言葉に一瞬思考が止まる。と、右側でジンが自身の帽子を脱いで確かめていたようで、驚いたような(とはいっても棒読みちっくだったので気付いていて放置していたのだろう)声をあげた。
先ほどまでハンターだのなんだとの考えていた時間を返してほしい、と頭を抱えたくなる。

「もう召集時間じゃないの?早く行ってくださいよ」

二人に言うつもりで誰もいない真正面を見ながらため息をつくと、両側から静かに笑い声が聞こえてくる。
何事だろうと意識を交互に二人へやると、先にジンが口を開いた。

「いやー、お前の反応が面白くてついな」

「それじゃ、僕は先に行っていますね。資料の用意もしなくてはいけませんから」

「おう」

そう言って平然とこちらに背を向け扉から出ていくパリストンを半ば放心状態で見送っていると、更にジンが笑いだした。
そこで初めて二人にからかわれたのだと理解し、何の前触れもなくナイフを振り下ろす。

「あぶねえな何すんだ!」

「金輪際私の部屋には立ち入り禁止!」

「ケチなこと言うなよ。なんだかんだここって居心地良っ!あぶねっ!!」

二人がいなくなった部屋でリモコンを探したか見つからなかったので、今日は厄日だということにして夕飯を食べに行くことにした。


性質の悪い二人組


(なまえさん面白かったなあ)
(俺は危ない目にあってそれどころじゃねえ)



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