(ジョセフ・ジョースター)
※三部ジョセフ アレッシーモード

ホテルの一室で、二人は向かい合って座っていた。
生粋の日本人であるなまえにとって正座は痛くもかゆくもない。
だが、イギリス人であるジョセフにとって正座というものはし慣れていないのと窮屈なのとで、今にも足を崩したいとなまえにバレないよう足をもぞもぞと動かしていた。

「なあなまえ」

「なにジョセフ」

「俺、いつまでこうしてればいいんだ?ていうか、なんでこんなことになってんだ?」

「………………………」

正座をしたままきょろきょろと辺りを見渡すジョセフに、なまえはどうしたものかと困惑の表情を浮かべる。

「ねえジョセフ、『スタンド』ってわかる?」

「『スタンド』…?わかんねえな…言葉の意味を訊いてんのか?それとも、別の何かを訊いてんのか?」

「はあ………………」

なまえが盛大にため息をつくと、ジョセフはムッとした表情になる。
まるでわからない自分がダメみたいな反応に少々苛立ったのだろう。
拗ねた様子で顔を背け、いじけた声を出した。

「すいませんねーおれは別に頭良いわけじゃないんで」

「そうじゃなくて…一体どこから説明すれば……」

一向にホテルの部屋から出てこないジョセフをアヴドゥルが呼びに行き、部屋の扉を開けたらジョセフが若返っていたなど、本人に話したところで信じてもらえないだろう。
最初の方はなまえやアヴドゥル、他の仲間のこともうっすらと覚えていたものの、今となっては既に記憶までもが若返ってしまっているようだった。
しかも若返ってしまいスタンドも発現しなくなったジョセフに、なまえたちがいくらスタンドのことを説明しようが無駄である。
どうしたものかと、なまえは何度目かの困惑の表情を浮かべた。

「えーっと、私たちは今敵の攻撃を受けてて、『スタンド』が無いと戦えなくて、その敵に『スタンド』で攻撃されたのがジョセフで」

「説明下手くそか」

ノートに箇条書きでもするかのように今の状況を説明していくなまえに、ジョセフが呆れたようになまえの方を向く。
拗ねるふりをするのはやめたのか、足を崩し、その場にあぐらをかいて口を開いた。

「んなこと言われてもねん。おれにはさーっぱりだし、別に若返るくらいならむしろ嬉しいんじゃねーの?あの、なんだっけ。ジョータローとか言ったか?あいつもかなり老け顔だもんな」

「……それ、空条くんには言っちゃダメだからね」

なまえはジョセフの楽観的な思考に呆れてもいたが助かってもいた。
ここでどういうことだと怒鳴り散らされても困るので、壁にかかった時計を見ながらまだかと時間を気にする。
アヴドゥルは唖然としていたし、ポルナレフはジョセフを敵だと勘違いして攻撃しようとしかけ、「おれはジョセフ・ジョースター」などと言い出したときには、承太郎があまりの衝撃に倒れそうになっていた。
あのときの承太郎の顔はもう二度と見れないだろう、と貴重なものが見れたことに関しては少しだけ敵スタンドに感謝している。
しかしジョセフがこのままでは旅も危ういものとなる。承太郎たちが早く敵スタンドを倒すのを待ちながら、なまえはどこか承太郎に似ている顔をじっと見つめていた。

「なになに、俺の顔なんか見つめちゃって。惚れちゃった?」

「そういうところは変わってないのね…」

時間が戻っているのだから"変わっている"のとは少し違う気もしたが、なまえはただ苦笑いをこぼすだけ。
なまえの反応に不満なのかそれともただ暇なのか、ジョセフはあぐらをかくのをやめ、立ち上がった。

「どうしたの?」

「あいつらに任せておくのもなんか癪だし、俺も行く」

「ちょっと!」

ジョセフの突然の発案に、なまえは驚いて声をあげる。
トイレかなにかかと思ったのだが甘かったようだ。
こうならないためになまえが見張り役としてここに待機することになったというのに、とジョセフよりも勢いよく立ちあがる。

「だからジョセフは今『スタンド』が…あっ、」

立ち上がり、ジョセフを引きとめようと一歩足を踏み出そうとして、突然なまえが受け身もせず音を立てて倒れた。
ジョセフは突然目の前で起こった衝撃に固まり、なまえは痛みのあまり地面に倒れたままうめき声をあげている。
なまえが突如消えた空間から、ジロリ、と視線だけを下に向け、ジョセフは再びなまえを視界に入れた。

「な、なになに?どうしちゃったのなまえちゃん?」

「足が……」

「足が?」

「足がしびれた………」

生粋の日本人だからと油断していた、となまえはゆっくりと横を向く。
目線だけでジョセフを見上げれば、困惑した表情のジョセフと目があった。

「痺れ…?まさかその『スタンド』とかいうのに攻撃されたのか?」

「違う…血行が…どうにかなって………しびれる…」

「…なんだそれ」

呆れたような表情でこちらを見下ろすジョセフから視線そ逸らし、なまえはしびれた右足に軽く触れる。
身体の奥から伝わるようなその感覚に、反射的に顔を歪めた。

「なっ!!」

「面白いなーこれ。どうなってんだ?」

「ちょ、ちょっと!触らないでよ!!」

自分が触れた以外の衝撃が走ったため、何事だろうかとなまえがしびれている足の部分を見てみれば、いつの間に移動したのか――ジョセフがオモチャを見つけた子供のように笑みを浮かべている。
なまえはなんとかジョセフの手から逃げようと足を動かすが、その多少の衝撃ですら多大なダメージを受けるため、思ったように逃げることが出来なかった。
そんななまえの反応すらも含めて面白がっているジョセフは、嫌がるなまえを余所に逃げ足の遅いそれを指でつついている。

「空条くんのところに行くんじゃなかったの!?あっ、」

「そうは言ってもねん。こんな面白いなまえ滅多に見られねーし」

「あほジョセフ……なっ、ちょっ、やめっ」

ズルズルと床を這って逃げてはいたものの、なまえの後ろは目線程の高さのベッド。
勿論立ち上がればひざ上くらいの高さだが、床を這っているなまえが少し上半身を上げたくらいだとそのくらいの高さとしか表現できない。
まあこのくらいの高さならガタイの良いジョセフはともかくなまえ程度であれば下をくぐるのは余裕だろう。
しかし下をくぐるにも、足がこのような状態では身体のあちこちをぶつけてしまいそうである。
かといって、足の感覚が不安定な今、立ち上がってベッドの上を通過することも難しい。というよりそんなことが出来るのなら立ち上がってジョセフから逃げているというものを。

「さあ観念しやがれ、なまえ」

「なんでちょっと悪役っぽくなってんの…」

ジョセフの冗談じみた言い方に呆れるものの、なまえにはどうすることもできない。
否―――どうすることも出来ないわけではない。
承太郎とこうなる前のジョセフたちは『スタンド』が無いと戦えない敵に襲われるような旅をしている。そして、なまえも幸か不幸かその旅の一員に加わっている。
そんななまえが、『スタンド』を持っていないはずがない。
普段のジョセフならまだしも、今は『スタンド』の知識が無い時代まで"戻された"ジョセフだ。逃げ切るのは簡単だろうと、なまえはジョセフを振り返り、スタンドを発現させる。
しかし―――先に口を開いたのは、スタンドを発現させたなまえではなく、何かを含んだ笑みを浮かべた、ジョセフ・ジョースターだった。

「なまえ。次にお前は、『残念だったねジョセフ』と言う」

「残念だったねジョセフ……ハッ!」

昔からある、ジョセフ・ジョースターの特技の一つ。
相手の言動から思考を読み取り、先回りするその鋭い観察力と回転の速い思考回路。
なまえだって、誰だって、ジョセフが相手の台詞を口にしたとき、ジョセフのそれに気付くが、既に遅い。
なまえはとっくに、ジョセフと自分の位置を入れ替えていた。

「なまえ。お前さんならそうくると思っとったわい。場所を入れ替えたその先に、ハーミットパープルを仕掛けておけば…」

「なっ、」

「捕獲完了」

なまえの腕や足に、素早く紫色の茨がからみつく。
勿論なまえはスタンドであるこの茨を自分のスタンド能力でどうにかすることは出来なかったが、自分自身を他の何かと入れ替え、逃げ出すことだって出来たはずだ。
しかしそれよりも、なまえは目の前の光景に驚いたように目を見開く。

「じょ、ジョセフ!」

「どうだ、参ったろう」

「そうじゃなくて!戻ってる!戻ってるから!!」

「今さら"痛くない"なんて言い訳通用せんよ〜」

「そうじゃなくて…あっ、だから、やっ、」

なまえの目の前にいるジョセフ・ジョースターは、既に若者の姿ではなくなっていた。
この場合元通りというのかは曖昧であるが、旅をしていたときの老人の姿に戻り、しかも若返っていたときには使えなかった自身のスタンドまでも使用している。
しかしそのことに当の本人が気付いていないのか、なまえの反応を楽しむように痺れている足を茨で掴んだ。

「ジョセフ、い、いい加減に…」

「ジョースターさん!無事か!?」

なまえが今度はジョセフと別の何かの位置を変えようと視線を動かし始めた瞬間、部屋の扉が勢いよく開く。
焦ったように入ってきたポルナレフは、床に横たわるなまえと目が合い、その光景に固まった。
それもそうだろう。
床にはなまえが横たわっていて、その腕と足にはジョセフのスタンドである紫の茨が絡みついている。しかもジョセフはそんななまえの足を掴んでいて、これはどう見ても―――

「おいどうかしたのかポルナレフ」

「じょ、承太郎!なななんでもねえ!アヴドゥルに大丈夫だって伝えてきてくれねえか!?」

「何言ってやがる。あいつもすぐ来るんだから部屋で待ってればいいだろ」

「あ、待て!」

ポルナレフの静止も聞かず、承太郎はその長い両足でズカズカと部屋に入ってくる。
そして、承太郎もポルナレフ同様、なまえとしっかり目が合った。

「……………………」

「……………………」

「………………おいじじい」

静かに口を開いたのは承太郎。
表情はいつもと変わらず静かなものの、その雰囲気に、ポルナレフは今にでもここから立ち去りたい気分だった。

「てめえ、一体何してやがる」

「な、何って…なまえの足がしびれたから、その、」

「スタープラチナ!」

後日、壁やベッドの修理代を、ホテル側がジョセフに請求したのは言わずもがなである。


魔法の時間はもう終わり


(ジョースターさん、その怪我はどうされました?)
(いや…その、色々あってな。気にするなアヴドゥル)


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