(ジャスティン=ロウ)

死神様が「ジャスティンくんに用があるんだよね」だなんてことを言うものだから、死神様の代わりにあの自由奔放なデスサイズを探す。
あいつの名前を呼んだとしても聞こえないだろうということで、死武専中を歩き回ることになりそうだった。

「うわっ」

誰もいないであろう部屋の扉も一応開けてみたところ、目的の人物がそこにいた。
しかし、想像していた様子とは違い、随分と落ち込んでいるようだった。
彼がいつも持ち歩いている棺桶の上に座り、今にも泣きそうな顔で床を見つめている。

「おい…何してんだジャスティン」

「スピリットさんでしたか。どうかしましたか?」

「それはこっちの台詞だ」

一体何があった、と電気のついていない部屋の電気をつけ、落ち込んでいるジャスティンを照らした。
その明かりの眩しさに目を細めるでもなく、ジャスティンは静かに口を開く。

「なまえさんに嫌われてしまったかもしれません」

「は?」

突然何を言い出すんだこいつは、とこちらから訊いたにも関わらずわけがわからないといった声を出してしまった。
しかし相変わらずその耳にはイヤホンがついており、うるさいくらいに音が漏れているので聞こえてはいないだろう。

「嫌われたかもって…お前、そういうのわかる奴だったんだな」

あれだけなまえが自分に振り向いていないのに気付いていなかったというのに付き合った途端これか、と溜息をつきたくなった。
しかし目の前の彼は真剣に悩んでいる…んだと思う。
だとしたらここはデスサイズの、そして人生の先輩として、しっかり話を聞いてやらなければ。

「何が原因だ?」

「……なまえさんに美味しいお菓子を持っていこうと扉を開けたらノイズが逃げてしまって…」

「しまって?」

「なまえさんに嫌われてしまったかもしれない」

「………えーっと…」

どういうことだ、とジャスティンに聞いた状況を頭の中で整理する。
が、どこをどうやったらなまえに嫌われるのか。
ノイズがなまえから逃げるのはいつものことだし、いつも通りひょっこり戻ってくるだろう。

「死神様が呼んでたから、あとでちゃんと行けよ?」

「死神様が…はい…わかりました……」

つい部屋を出て来てしまった。
あの様子からして恐らく死神様の部屋にはいかないだろうが、かといってどう対応していいものか。
これがキャバクラの女の子の悩みとかだったら親身になって聞くんだけどなあ、と歩き出そうとして、ふと横を向いた。
視界の端に揺れていた黒は気のせいなんかではなく、知った顔の人物である。

「あ……………」

そう声を出したのは自分ではない。
今すぐにでも消えそうな声を出したのは、なんだかぐったりした様子のなまえ。
またシュタインと言い争いでもしたのかと溜息をつきそうになり、いや、と閉めた扉の向こうにいる男を思い出した。
しかし思い出したところで、既に遅い。

「ジャスティン……」

「俺はジャスティンじゃない」

ぐったりとした表情を浮かべるなまえが、既に俺の側まで歩いてきていた。
かと思えばその口で呼んだのは俺の名ではなく、部屋の中で落ち込んだ様子の彼の名前。
何がどうしてこうなったんだ、と混乱する頭を無理矢理落ち着かせてなまえを見る。

「ジャスティン……ジャスティンまでどっかに行っちゃった……」

「なあなまえ、」

「私がノイズにばかり構ってるから怒っちゃったのかな…嫌われちゃったかな……」

ジャスティンが先ほど何を言って今何を考えているかを教えようと口を開きかけたが、なまえの口から零れた言葉に思考が停止した。

「(……ばかばかしい、)」

俺が何かをする必要もない、と扉の前からどいてなまえの横を通り過ぎようとする。
が、なまえはがっしりと俺の腕を掴んでいて、先ほどまで俺の存在に気付いていないように喋っていたというのに、今度はきちんとこちらを見上げていた。

「ううう…ジャスティン……」

「その部屋の中にでも入ってろ、」

「ひどい…」

相変わらずの口に溜息をつきたくなったのをグッと抑え、俺が出来るのはこれだけだ、となまえの手を振り払う。
なまえは最後だけ俺に対して言葉を零したが、そんなものは耳に入らない。
勝手にしろと言わんばかりになまえへ背中を向け、歩き出した。
扉を渋々といった様子で開けるなまえの姿が目に浮かんだが、そのあとのことも容易に想像がついたので何も考えずに部屋から遠ざかる。
と、後ろから足音。

「?」

何事だろうと振り返れば、そこには開けっ放しの扉から中をじっと見ているシュタインの姿があった。
その表情は相変わらず気だるそうなものであるが、そんなシュタインを見る俺に気付いたのかこちらを向く。
もう一度部屋の中を見た後勢い良く扉を閉め、普段よりも少し早い速度でこちらへ歩いて来た。

「昼間の教室で何してんですかあいつら」

「さあな。死神様が呼んでるってのに、たく」

シュタインの眉間に皺が寄っているのを見て、あの落ち込み具合が治ったらしいということがわかる。
まあ二人があんな様子でずっといられても困るので、良かったことにしよう。
深くは考えず、とりあえず死神様にどう説明したものかと思考回路を切り替えながら歩き出した。
シュタインもそんな俺と共に歩き出すが、どうにもあの二人が気になるらしく教室を振り返っている。

「先輩、あれ、放っておいていいんですか?」

「知るか」

放っとけ、あんなバカップル。


見て見ぬふりがお得意で


(ノイズ、お前、あいつらどうにかしてくれないか?)
(なに猫に話しかけてるんですか先輩)
(ニャー)



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