(13組数名+委員長数名)

「だーかーら、さっきも教えただろ!」

「高千穂くん我慢を覚えて!」

「宗像じゃねえけど殺意沸くわ」

「呼んだか?」

「呼んでねえよいつからいたお前!」

三年十三組の教室で、なまえがプリントと戦っていた。
高千穂はそんななまえの手助けをしてあげようとなんとなく声をかけたのだが、手を差し伸べずにさっさと時計塔へ行けば良かったと高千穂が後悔した矢先。
どこから現れたのか、宗像が銃を手にしながらその姿を現した。

「つうかなんで銃持ってんだ」

「名字が問題を間違える度に引き金を引こうかと思って」

「いややめろよ。名字すぐ死ぬぞ」

「何言ってるんだ。高千穂に向けて撃つに決まってるだろ」

「お前が何言ってんだ」

「わかった!ここの答えは1番!」

「おい本当に撃つな!!」

なまえが間違った答えを言った瞬間、宗像は何の躊躇いもなく銃の引き金を引く。
高千穂はいつも通りにその弾丸を避けたが、殺されかけて平然と出来るわけもなく面倒が増えたと眉間に皺を寄せた。

「つうかあの変態はどうした。こういうときこそ出番じゃないのか?」

「真黒くんは妹さんの相手で忙しいんだって」

「相手にされてないだろ」

「日之影くんも忙しいらしくて」

「日之影?」

ふと宗像がプリントに目を落としてみると、どうやらまだ3分の2ほど問題が残っているよう。
時計を見て見てば、時刻は16時をとうに過ぎていた。
これを終わらせてから帰るとなったら一体どれくらい遅くなるのかを考え、帰れないという結論が一瞬で出てしまったため小さく溜息をつく。

「あ、なまえちゃんいたー!」

「…?あ。筑前さん」

「廊下で風紀委員長が探してたよ」

「雲仙くんが?」

何事だろう、となまえはプリントもそっちのけで立ち上がった。
筑前はその長い髪でもきちんとなまえたちのことが認識できているのか、宗像と高千穂を視界にいれて驚いたような反応を示す。

「あれ。表の六人フロントシックスじゃん。なんでここに?」

裏の六人プラスシックスが姿を現すのは珍しいな」

「なまえちゃんとは髪を伸ばし合う仲だからね」

「そんな日本人形みたいなこと私できないよ」

「大抵の人間はできねぇよ」

筑前の言葉に珍しく宗像が口を開いたが、筑前はその髪で顔が見えず宗像は表情を変えないので互いの心情を伺うことは出来なかった。
なまえは筑前に「伝えてくれてありがとう」と言うと、筑前の横を通って廊下に出る。
筑前の用はそれだけだったのか、なまえとは逆の方へ歩いて行った。

「あ、雲仙くん。どうかしたの?」

廊下にいたらしい雲仙の名を呼ぶなまえの声が、教室にいる宗像と高千穂にも聞こえる。

「って、飯塚くんまで……うわあびっくりした。斬子ちゃんもいたの」

「名字せんぱ〜〜いこ〜んに〜ちわ〜〜」

「3人…ってことは委員会関係?どうしたの?」

「私と雲仙くんは別用件ですよ〜たまたま一緒になっただけ〜〜」

「俺は雲仙と大刀洗がいたから何か起きるのかと思っているだけです」

「野次馬……」

一学年下が相手でも、なまえの対応の適当さは相変わらずのようだった。
今なまえが呼んだうちの1人は、宗像も高千穂も知っている。
雲仙冥加。彼も筑前が言った表の六人フロントシックスに分類される、十三組の十三人サーティンパーティの一人。
他の二人は委員長ということだから名前くらいは聞いたことがあるものの、実際に会ったことはない。
なので、恐らく高千穂と宗像が一方的に知っているだけだろう。

「宗像形って知ってるか?」

「宗像形……って。どうかしたの?」

「なんだお前。何かしたのか」

「………………」

「宗像?」

雲仙となまえの会話が廊下から聞こえてきた際に、知った名が出たので高千穂が冗談交じりで疑問を口にした。
しかし宗像はなまえが出て行った扉の方向をじっと見つめ、高千穂の疑問には答えない。

「いや……彼女が僕の名前を」

「え?ああ…そういうこと。まあ確かに、三年間同じクラスなのに『宗像くん』だもんな」

「『名字』だし」という高千穂も無視して、宗像はなまえの解きかけのプリントを手に取り、問題と睨みあう。
授業を受けていない宗像も、この程度の問題ならなまえよりは時間がかからず解ける。
静かに溜息をついて、再びプリントを元の机の上に置いた。

「指名手配犯だぞ知らねえのか?最近目撃情報があったみたいだからてめーに聞いてみただけだ」

「ええ。なんで私が知ってると思ったの」

「各クラスに聞いて回ってるよ。三年十三組にはテメーしか知ってる奴がいねえから仕方ねえだろ」

「ああ。なるほど」

高千穂と宗像は、雲仙のことを知っている。しかしそれも、他の委員長達と同じく一方的にであった。
十三組の十三人サーティンパーティの一人ではある。しかし、雲仙冥利は最近二年生にあがったばかりだ。
基本的に一年生の計画の参加は今の三年である宗像達以外許可されていない。
だから、計画に参加したばかりの雲仙は彼らとまだ顔合わせもなにもしてないのである。

「で?知ってんのか?」

「え?あー…もし私が知ってても、指名手配犯でしょ?雲仙くんたちでどうこうできるとは思えないけど……」

「あ〜私も手伝うよ〜〜委員長同士仲良くしないとね〜〜〜」

「俺はお断りだ」

「んもう〜〜飯塚くん空気読んで〜〜〜」

「どうこうすんのが風紀委員のつとめだ」

そこまで言って、雲仙の視線が急に三年十三組の教室へと動く。
その様子は雲仙と向かい合っていたなまえにしかわからなかったが、飯塚はなまえの表情が一瞬だけ崩れたのを視界に入れていた。

「ま、立ち話もなんだし……よ!」

「あ、雲仙くん待った!!」

「待たねえよ!子供は我慢が出来ねぇんだ!」

教室には宗像がいる、となまえは自分の横を勢いよく通り過ぎた雲仙を引きとめようと振り返って手を伸ばすが、身長差のこともあり、雲仙の服を指先が掠めるだけ。
このときばかりは反応の鈍い自分の身体を呪ったが、そうも言ってられない。
風紀委員長の雲仙冥利と、指名手配犯である宗像形が出くわして、平和で終われるはずがないのだ。

「宗像形!!」

「雲仙くんっ……?」

開きっぱなしの扉から勢い良く中に入った雲仙に続いて教室に入ろうとしたなまえが、視界に入った光景に慌てて後ろへ数歩下がる。
雲仙冥利は、十三組の教室の入り口で立ち止まっていた。
なまえはそんな雲仙に疑問を持ちながら教室の中へ視線を移す。
そこには、誰もいなかった。
なまえの席に筆記用具や鞄があるだけで、誰かがいた形跡すらもない。

「はあ…?確かに誰かいた気がすんだけどな……」

雲仙はキョロキョロと辺りを警戒しながら十三組の中へ入っていく。
なまえもその雲仙の後に続き、飯塚と太刀洗は廊下から教室を覗き込み、何事だろうかとお互いに顔を見合わせた。

「あ?なんだこれ」

「あっ!それ私のプリント!」

雲仙がふと見つけたなまえのプリントを手に取り、眉間に皺を寄せながら中身を見ていく。
が、なまえが慌てて雲仙からそれを引ったくり、雲仙のすぐ近くにあった自分の席の横にかけている鞄の中へしまおうとして。

「馬鹿だと思ってたが全問正解とはな。案外勉強のほうはできんのか」

「え?」

雲仙の言葉が理解できず、なまえは一体なんのことだと鞄にしまいかけていたプリントを再び自分の前に持ってくる。
なまえは10問あるうちの3問を解き終わったところで、全問正解には程遠いのだ。
しかし、なまえが見たプリントは全て答えが書かれている。
しかもその根拠も小さく書いており、ただの勘で書いたわけではないことがわかる。
そして、書いた人物もなまえにはわかっていた。
先ほどまで教室にいたのはあの二人であるし、高千穂はヒントをくれるが答えは言わない。
つまり答えは宗像が書いたもので、そばにある根拠は高千穂が書いたものなのだろう。
あの短時間でこれを解いたのか、と思い、それよりも凄い彼の頭脳に驚いて顔を上げた。

「さっきの一瞬で全問正解ってわかったの?雲仙くんって頭いいんだね……」

「だてに飛び級してねーよ」

「ダメ人間なのに」

「ちげえよ!!」

明日会ったら礼を言おう、となまえは家に帰って根拠と答えを見比べるために今度こそ鞄にプリントをしまう。

「あ、そういえば斬子ちゃんの用事って?」

「ん〜〜今日はもう寝るからまた明日〜〜〜」

「委員長ってみんな自由だなあ」

「「一緒にするな」」

なまえの言葉に雲仙と飯塚が同時に突っ込んだあとで、17時を知らせるチャイムが学園に鳴り響いた。


交わらない夕方


(宗像、お前勉強できたんだな)
(名字なまえが出来ないだけだ)



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