(球磨川禊)(宗像形)
バン、という銃声が、学校というなんともその銃声に似合わない場所で鳴り響く。
文字で書けば軽く見える銃声の音だが、実際はそんなものではない。
近くに居た人間も、そして勿論その銃を撃った人物へのダメージは相当だろう。
「耳がジンジンする…」
「押さえててやってそれなら、耳栓でもしないとだな」
銃を両手で構えていたなまえは、背後でなまえの耳を塞いでいた宗像に振り返って銃を返す。
宗像に耳を塞いでもらっていたにも関わらず、なまえは銃声で痛む耳を掴んでなんとか気を紛らわせようとしていた。
宗像は名残惜しそうになまえの耳から手を放すと、ハンドガンを受け取りそれを仕舞う。
「『一番ダメージを喰らうのは被害者だろ?被害者ぶんなよ加害者2名』」
「ああ…生きていたのか。残念だったな」
「『まあ別に。なまえちゃんに殺されるなら本望だぜ』」
「だそうだからもう一発練習しとくか?」
「『嘘だよ嘘!もう、宗像くんは冗談も通じないのかい?』」
真顔でなまえへ問いかけた宗像に、球磨川は焦りながらも後ずさった。
なまえは先程の耳の痛さと銃の反動に参ったのか、頼まれてもあまり銃を撃つことはしたくないと顔をしかめる。
「『でもまさか足元を撃つとはね。なまえちゃん、威嚇射撃にしてはなかなかに上手いじゃないか』」
「え?頭を狙ったんだよ」
「……………………」
「『……………………』」
なまえの言葉に色々言いたかった二人ではあったがとりあえず球磨川はそんななまえを恐れるように、的として立っていた場所からそっと移動した。
事の始まりは数分前。
球磨川の「『なまえちゃんもこの機会に銃の一つでも撃ってみたらどうだい?』」という言葉から始まり、球磨川を殺そうと考えていた宗像もその提案に乗ったのだった。
なまえは自身が撃った銃の跡と宗像が前に撃ったであろう跡を見比べて、流石の異常性だと感心する。
対し、球磨川はそんなことはどうでもいいと言った風に飄々としていた。
「『まあ僕はいくらなまえちゃんでも殺されたくは無いから、銃というより武器はもう持たない方がいいかもね』」
「別の意味で僕もそれには同意だな」
「この学校で武器持ってるのって宗像くんくらいでしょう?なら別に、借りなきゃ大丈夫だから」
「『何言ってるんだよ。男ってのは全員』」
「殺す」
バン、と再びうるさいくらいの銃声が鳴り響く。
どうやらなまえは耳を塞ぐのが間に合ったらしく、いつの間にか銃を握りしめていた宗像を見上げた。
球磨川はその弾丸を螺子で受け止めていたようで、無傷のまま不敵に笑っている。
「そういえば飛沫ちゃんも持ってたっけ?バットかなにか」
「『持ってるけど飛沫ちゃんは存在自体が危険だからね。気をつけた方がいいよ』」
「それを言うならあのトランプで戦いそうな奴もだろ」
というかお前が言うな、と宗像が言おうとしたが、その前に球磨川が焦ったように辺りを見渡したのでその言葉を飲み込んでしまった。
何を焦っているのだろうと辺りの気配を探ってみるが、宗像には何も感じられない。
「『宗像くん。間違ってもその言葉は蝶ヶ崎くんには言うなよ?』」
「……………?」
球磨川が言いたいことがイマイチわからないなまえと宗像はお互いに目を見合わせて首を傾げるが、二人ともわからないらしく答えは出なかった。
「『不慮の事故に巻き込まれたくなかったら、ね…』」
なんだか遠い目をしている球磨川を見て、それ以上深く追求しない方がいいだろうと宗像は口を閉ざす。
−十三組と関わるつもりは毛頭無かったが、そう忠告されては余計に関わりたくなくなってきた。
「それにしても球磨川くんって凄いよね。銃で撃たれても死なないんだもん。私だったら死んでるよ」
「『いやいや。他愛も無いことだよなまえちゃん。でもま、褒められるのは嫌いじゃないぜ』」
「殺す」
何かが不満だったようで、宗像は不機嫌そうな表情で球磨川へとナイフを2,3本投擲する。
しかし球磨川はそれを見事にかわし、何事も無かったかのように地面に螺子を突き刺した。
「『男の嫉妬は見苦しいよ宗像くん』」
「お前の存在ほど息苦しいものは無いだろう」
「堅苦しいよ二人とも。もっと仲良く喋ろうよ」
「『誰のせいだと思ってるんだい?』」
「言葉の使い方も間違っている」
笑う者と笑わない者
(殺される者と殺す者)