(フェイタン)
「私は戦うことが嫌いです」
だから蜘蛛に入っても戦えません、と奇野なまえは言った。
「戦うことは嫌いです。殺されたくはありません。だから力になんてなれないんです」
「力になれとは言てない」
そこで初めて、フェイタンは口を開いた。
力強く、そして簡潔に、フェイタンはなまえへとその事実を告げるだけ。
なまえはその言葉に驚くかと思われたが、しかし、ただ首を傾げるだけだった。
「しかし、蜘蛛というのは戦うものでしょう?盗賊は、盗む賊です。零崎のような家賊ではないにしろ、戦えない私は足手まといにしかなりません」
「それでもいいと言てるね」
物分りの悪い奴だと、フェイタンは一歩なまえに近付く。
なまえは特にフェイタンを警戒していないのか、気にせずソファに座ったまま口を開いた。
「それは、どういうことです?」
意味を求める。
理由を求める。
そこまでして自分を、病毒遣いの奇野師団の一人、奇野なまえを。
「……………………」
フェイタンは何かを考え込み、しばらくの間なまえから視線を離す。
そして答えが出たのか、フェイタンはその服で隠れている口を開いた。
「いいから黙ってそばに居ればいいね」
「……側にって……フェイタンのですか?」
「それ以外に誰かいるか?」
変に高圧的なフェイタンに、なまえは押され気味に視線を逸らす。
その瞬間ソファが沈んだと思えば、なまえの上に覆いかぶさるようにフェイタンがソファに膝立ちをしていた。
「えーっと……」
「戦えないくせに弱くないなまえに、興味がある」
「そんなこと言われても、戦わないのは事実ですし…あの、それと、ちょっと近……」
「……照れてるか?」
ニヤリと笑うフェイタンに見下ろされ、なまえは顔が赤くなったのを見られないように顔を逸らそうとする。
しかしすぐにフェイタンに顎を掴まれ、無理矢理上を向かされて。
力が無いなまえには、どうにも抵抗が出来なかった。
「飽きたら殺す。それなら安心か?」
「…………………」
フェイタンの提案に、なまえは拒絶を示さない。
ただただ諦めたように、なまえは静かに笑みを浮かべて口を開いた。
「私を拷問しようが、殺そうが、フェイタンの好きにしていいです」
その言葉にフェイタンは少しだけ驚いたのか、なまえの顎を掴む力が緩む。
しかしそれでも、なまえはフェイタンの手から逃げようとはしなかった。
「だけど一つだけ言わせて下さい。フェイタン。あなたは、この私と会ってしまった時点で―――」
なまえが笑う。
最初に会ったときは気味の悪い人間だと思った。
関わりたくないと。
出来れば戦いたくないと。
しかし、今は違う。
戦いたくないというのはそのままだったが、関わりたくないという気持ちはもうフェイタンの中には無かった。
「―――既に、毒されています」
フェイタンも笑みを浮かべ、もう片方の手で襟を首元までさげてなまえの顔へ近付ける。
なまえはそれに応えるように、ゆっくりとその瞳を閉じた。
そして致死量に達する
(それはきっと私自身も)