(シュタイン+α)
屋上で1人、なまえは弁当の上でひたすら箸を動かしていた。
一生懸命動かしていると、後ろから声。
「……何してるんだ?」
「っ!!!」
なまえは後ろからの気配に珍しく気付けなかったらしく、肩がビクッと跳ねた。
そして恐る恐る振り返れば、無表情でこちらを見下ろすシュタインと目が合う。
その右手は相変わらず自分の頭についているネジを動かしていて、ギコギコという鈍い音が辺りに響いた。
「べ、別に……」
「……なんで弁当の中身を分けてるんだ?」
「い、いや…なんとなく…暇だし……」
「ふーん」
なまえの弁当の中身は、綺麗に箸で分けられている。
それを見たシュタインは何か悟ったらしく、なまえの即席の理由に騙されずにじっとなまえを見下ろしていた。
「勿論全部食べるよな?」
「もっ…勿論。当たり前じゃない」
「ふぅん。じゃあ、これから食べてみろ」
「…食べる順番なんて人それぞれでしょ」
「これから食べたほうが美味しいんだよ」
「じゃあシュタイン食べてもいいよ」
「そんな。俺が食べるなんて悪い。なまえに譲るよ」
「……………………」
絶対にバレている、とシュタインの気味悪い笑みをチラリと見てなまえは冷や汗をかく。
動かそうとしていた箸は手に握られたままちっとも動かず、シュタインが何か思いついたように何か言いかけた瞬間。
「なんだかいい匂いがするな!」
「ガウガウ!ガウガウガガウ!!」
「なるほどな!やっぱり天才だなお前」
テンションの高いクマと猿が屋上への扉を開けてやってきた。
「………………………」
「………………………」
「お?なんだシュタインとなまえ。二人でお弁当タイムか?俺たちも混ぜろよ!」
「ガウガガウガウガウ!」
「あはは!確かに!!傑作だな!」
面倒な奴らが来た、となまえもシュタインも同じような表情を浮かべていたことだろう。
しかしそんなことを気にしない二人は楽しそうに手を叩きながらなまえの隣へと腰掛けた。
「お?なんだなまえ。またこれ残してるのか?好き嫌いはよくないぞ〜」
「なっ!ちょっとテスカ!」
「ふーん…好き嫌いねえ……」
そのクマのどこに穴が開いているのか、弁当を見下ろしたテスカはなまえが隅に追いやっていた食材を指差すとゲラゲラと笑う。
そのテスカの言葉を焦ったように遮るなまえだったが、既に遅く、後ろではシュタインがこれでもかというくらいに口端を上げていた。
「あっ、ちょっとシュタイン!」
「好き嫌いは良くない。俺みたいな人間になれないぞ」
「なりたくない………」
シュタインに奪われた弁当が返ってきたが、それを見下ろしてなまえは元気無くそう呟く。
きちんと隅にわけていた食材は綺麗に元に戻っていて、今から再びわけたのではご飯を食べれるのがかなり遅い時間になってしまう、となまえは弁当と睨みあった。
「好き嫌いよりも、無理強いの方が良くないと思いますが」
「げ」
そう、渋い声を出したのはシュタインではなくなまえだった。
シュタインはその気配に気付いていたらしく、作り物の笑みを浮かべている。
ただ、テスカのテンションは更にあがっていた。
「おお!ジャスティン!!どこにいたんだよ探したんだぞ〜」
「確かに口に無理矢理つっこむというのはそそられますが、そんなことをしては嫌われますよ」
「俺は別にそんなことは言ってませんよ…」
「夕飯に誘おうと思ったんだが、もう俺のオススメの店はしまってるかもしれないな」
「ガウ!ガガウガウ!」
「そうだよな。お前天才だな!」
ジャスティンは相変わらずテスカのことは無視していたが、テスカは無視されているとは気付いていないらしい。
とにかく面倒なことになった、となまえは手元にある弁当を見下ろした。
「こんなことならスピリットと一緒にご飯食べに行けばよかった…」
「……先輩と?」
「それよりも私とご飯に行きましょうなまえさん。なまえさんの好きなものだけを食べましょう」
「ガウガガウガウ」
「あははは!お前!ここでそんなこと言うかよ!!」
スピリットと、というところに引っかかったのはシュタインだけで、あとのメンバーは相変わらずマイペースのようだった。
これならまだ話が通じるシュタインの方がマシだ、となまえは先ほどの恨みを忘れないままシュタインへと視線を送る。
「スピリットに一緒にキャバクラ行こうって誘われたの」
「……先輩って人は…」
マカに拒絶され落ち込んでいたスピリットよりもシュタインのほうが常識があったらしく、平然とそう言ったなまえにシュタインは静かに溜息をついた。
「あーもう!」
なまえは弁当の中身が零れないよう立ち上がると、驚いたようになまえを見る四人を無視して歩き出す。
「なまえさん、どこへ!?」
驚いたようにジャスティンがなまえの背中へ声をかけるが、なまえの足は止まらない。
スピリットは新しいタバコをくわえようとポケットを探りながらそんななまえの背中を見つめていた。
「死神のとこ!死神ならきっとこの弁当をどうにかしてくれるはず!」
「そんな!そんなもの私がどうにでもしますよ!」
「いいや。好き嫌いはよくない。そうやって甘やかすからお前みたいな人間になる」
「なんだなんだ?死神様と一緒に食事か?」
「ガウガガウガウ!」
「おいおいここで下ネタかよ!流石だな!!」
この空腹よりも後ろの四人をまずどうにかしてほしいと嘆くなまえの気持ちも知らず、そのまま五人は死神の部屋の扉を叩く。
驚いたような死神が、五人と1つの弁当の対応に困るまであと数秒。
不真面目集団
(確かに嫌いだけど残すのはなんか嫌!)
(だったら一気に食べればいいだろ)
(そんな無理して食べることないんですよ)
(ガガウガウ!ガウガウ!)
(あはは!そんなもん夕飯に出来ないだろ!)
(君達突然来て一体なんなの!?)