(シャルナーク)
「にしても随分髪伸びたな、なまえ」
「そう?まだノブナガの方が長い気がするけど」
なまえは椅子に座って足をプラプラとさせ、ノブナガはその後ろに立って器用な手付きでなまえの髪を結っていく。
そのサラサラとした髪に触れているのが心地良いのか、ノブナガはわざとゆっくり髪を結っていた。
「へぇ…なまえ。今度俺にも髪結わせてよ」
「えー。クロロ前髪あげるから嫌」
「あはは。いいじゃないか。俺とお揃いだぞ?」
向かい側の椅子に座りながらその様子をじっと眺めていたクロロが口を挟めば、なまえはクロロの提案を拒否する。
そんな拒否も悪い気分ではないのか、クロロは嬉しそうに笑った。
「それよりも、ボクとお揃いの髪色にしないかい?」
「いや…遠慮しとくよ」
「……………◆」
「無言で威圧してもしないものはしないよ…」
突然顔を出したヒソカの存在にも大して驚かず、なまえは冗談ではなく半分以上本気で遠慮する。
もしここで冗談でも頷けば、翌日起きたあと鏡を見るのが怖いとそれを想像したなまえの身体が一瞬震えた。
「ほらよ。出来た」
「ありがとうノブナガ!」
なまえはそのまま椅子から立ち上がり、ヒソカの投げたトランプを何事も無いように避けながら外へと出る。
「あ、フィンクス」
「お…なまえ。その髪……」
「ノブナガに結ってもらったんだ。どう?似合ってる?」
「あ、ああ……いいと思」
「切断していいか?」
「ちょっ、危な!!」
帰って来たらしいフィンクスに結った髪について訊いていると、いつの間にいたのかフェイタンが刀を無表情で振り回していた。
なまえは本格的に斬るつもりで来ているフェイタンの刀をかわしながら、どうしたのかと両手を軽くあげる。
「フェイタン、やめてよ。せっかく伸ばしたのに」
「戦闘時は邪魔ね」
「だから結んでるんだってば」
「………斬ればいい」
「理不尽!」
未だに刀を振るうのをやめないフェイタンを避け、なまえは建物から遠ざかった。
どうやらフェイタンは追って来ていないようで、ふぅ、と溜息をついてから前を向いて。
「!?」
すぐ目の前に、金髪の少年が立っていることに驚いた。
しかしその少年の容姿に、後ろへ下げようとしていた足を踏みとどめる。
「シャル…どうしたの?」
「…………別に」
「さっきも、途中で何処か行っちゃうし…」
「ふぅん。俺がいたこと知ってたんだ」
「う……?うん?」
どこか機嫌が悪そうなシャルに、なまえは何かあったのだろうかと頭の中で考えていた。
先ほどノブナガに髪を結ってもらったとき、ヒソカが来る手前までは同じく建物内にいたはずだ、と思い出す。
買っていた株が暴落でもしてしまったのか、と考え、そんなことでシャルが不機嫌になるはずがないと考えて。
突然引っ張られた腕に、声も無く驚いた。
「…………………」
しばらくの無言。
後頭部に回っているシャルの手は器用な手付きでなまえの髪を束ねていたゴムをほどき、なまえの長い髪が揺れる。
新しく買ったシャンプーの匂いがするな、と思うのも一瞬。
唇に何か温かいものがあたっていることに気付き、なまえは目を見開いた。
「シャ、シャル……?」
「なまえは髪、結ばないほうが可愛いよ」
それだけ言って、シャルはなまえの髪からとったゴムを遠くへ放り投げる。
「どうしても結びたいなら、俺が結んであげるから」
「シャル、どうし、」
未だ混乱する頭でなまえは言葉を紡ごうとするが、再びその唇はシャルの唇によって塞がれた。
抵抗しようにも、突然のことになまえはどうしていいかわからない。
「どうしたもこうしたも、無いだろ?」
少し苛立ったその口調。
しかしなまえの後頭部へ回した手は少し震えていて。
「警告は無しだ」
そうして再び、少女の唇は奪われる。
このままでは終われない
(そんなに俺は優しくない)