(幻影旅団)

音が止んだ。

「ボノレノフも終わったみたいだな」

「ウボォーは?」

「多分終わってるだろ。雄叫びが随分前に聞こえた」

「早く帰ってパクノダのご飯が食べたい」

「どうでもいいからその妙な鋏しまうね」

フィンクスが耳の後ろにあてていた手を置くと、それぞれが緊張を解く。
それまでも緊張感などあってないようなものだったが、随分と気軽なものだった。
シャルはウボォーの心配をしつつもパソコンをいじっていて、刀をしまったノブナガがそちらも見ずに答えを返す。
なまえがお腹を擦れば、フェイタンがそちらを睨んで小さく呟いた。

「待機組って誰だっけ?」

「フランクリンとマチとシズク」

「コルトピは?」

「パクノダと一緒に晩飯作り」

「クロロは先に行っちゃったし…うーん…誰か忘れてるような……」

「なまえったらひどいなぁ◆」

なまえの質問にフィンクスとシャルが答えるが、なまえは最後の疑問に応えた声に背筋を凍らせる。

「ひ、ヒソカ……」

「ククク…今日も可愛いねぇなまえ」

「おいおいシャルが凄い顔で睨んでるぜ……」

そう呟いたノブナガの言葉を拾ったなまえであったが、後ろにいるヒソカのせいでシャルの"凄い顔"を見ることは叶わなかった。
シャルにとってもその方がいいだろう。
彼の人間性に関わってくるので表情の描写は省略させていただく。

「い、いいから先に行こう。クロロも待ってるし」

「だからその妙な鋏しまえ言てる」

「フェイタンはどんだけ鋏が嫌いなんだよ…」

何故かなまえの鋏にくってかかるフェイタンを疑問に思いつつも、フィンクスは歩き出したなまえの後に続いて歩き出した。
なまえが大またで早足で歩くが、後ろについてくる男性陣は至って普通の歩幅、スピードでなまえの後ろを平然とついてくる。
そんなことも気にせず、なまえは更に暗い奥へと進んだ。

「……ヒソカ。殺気送るのやめて」

「こんだけ血の臭いがあるんだから、ボクじゃないかもよ?」

そう喉の奥で笑ったヒソカの目の前で、鋭い刃が停止する。
ヒソカは相変わらず飄々とした笑みを浮かべていて、ノブナガ達もただ前にいるヒソカが立ち止まったからというだけでその場に立ち止まった。
しかし、なまえは違う。
なまえの瞳孔は開き、ヒソカの目へと鋏を突きつけていた。
否、本人はヒソカへ突き刺すつもりだったであろう。
しかしそれを、なまえの横を歩いていたフェイタンがなまえの腕を掴んで止めていた。

「………鋏しまうね」

だから言っただろう、といったフェイタンの言葉がなまえの頭にゆっくりとではあるが届く。
ヒソカを見上げていた目は、手に持っていた鋏が消えると同時にヒソカから逸れた。
そのまま踵を返して何事も無かったかのようになまえは歩き出す。

「からかうなっつってんだろ。ったく」

「それは誰をだい?」

「両方だよ」

悪態をついたフィンクスに、相変わらず可笑しそうな笑みを浮かべているヒソカが楽しそうに訊いた。
フィンクスは舌打ちしそうな口を一度閉じて、チラリとシャルを目線だけで振り返る。
その手に握られているアンテナを、一体誰に刺そうとしているのか。

「…来たか」

「団長!」

暗闇に溶けるように存在していたクロロの姿を見つけ、彼らは再び殺気を解く。
クロロは大きな金庫の前で立ち止まっていて、どうやらなまえたちを待っていたようだ。

「他の二人は?」

「もうすぐ来ると思う」

クロロの闇に溶けそうな声に、シャルは手に持っていたアンテナをしまいながら答える。
そんなシャルの言葉に「そうか」とだけ呟いて、クロロは再び目の前の金庫を見上げた。

「そういや今回の獲物は聞いてなかったな」

「興味あるか?」

「別になんでもいいけどよ。気にならないつったら嘘になるだろ」

ノブナガの呟きに反応したのはクロロではなくフェイタンだった。
そう訊いたフェイタンもノブナガの言ったことには同意らしく、口を閉ざしたままクロロへと向き直る。

「これだけのメンバーだ。なんでも盗めるだろ」

「なんでもって?」

「あー……神とか?」

「ブッ」

「おい誰だ今笑った奴!!」

フィンクスの考え無しの言葉に、後ろで聞いていたノブナガがこっそりと噴出した。
その肩が震えているのを見て、フィンクスは怒りに肩を震わせる。

「………そうだな」

「え?」

しかし、クロロは意外なことにフィンクスの言葉に同意した。
そのことに驚き、その場にいる全員がクロロを向く。
クロロはこちらを向かないまま、しかし口元に笑みを浮かべたまま、小さく闇へと言葉を零した。

「今の俺たちなら、神くらい簡単に盗めるだろう」

その言葉が冗談であれ、本気であれ。
彼らは盗めと言われればそれを盗むだろう。
だからこその盗賊。だからこその幻影旅団。
だからこそ、彼らは"蜘蛛"と恐れられるのだ。

神は盗まれる


(そのいつかの日まで御機嫌よう)


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