(糸島軍規+α)

「にしても流石生徒会長なだけはある」

「こんなでっかいプールが私有地ってどういうことだよ」

「宗像先輩に高千穂先輩よお。俺だってプールの1つや2つ持ってるんだぜ?」

「え!名瀬ちゃんそんな娯楽持ってたの!?」

「あはは。みんな名瀬さんはなんか違うって思ってるよ」

「行橋。あまり人の心を勝手に覗いてやるな」

「都城くん、平伏せようとしないで。ビリビリする…」

「…………っていうか」

季節は夏。気温は40度近くを記録し、猛暑であるこんな日はプールに行こうと生徒会のメンバーは生徒会長である黒神めだかが所有しているプールへと足を運んでいた。
各自持っている自分の水着に着替え(喜界島は相変わらず競泳水着だったが)、準備体操をしようとプールサイドへ集まったところで。

「なんでいるんすかアンタら!!」

生徒会書記である人吉善吉の怒鳴りにも近い声は、大きなプールサイドに十分なくらい響き渡った。
その声に、先にプールに入っていた彼らは何事かとそちらを向く。

「なんでって、めだかちゃんがプールに行くって来たからついてきたんだよ!」

「なまえ先輩…」

ニヒヒ、と嬉しそうに笑うなまえに、人吉はどうしたのもかと隣に立っていためだかを見た。
めだかは扇子で口元を隠しながら「ふむ…」と何かを考えているよう。
そして、考えがまとまったらしく扇子を勢いよく閉じると楽しそうに笑みを浮かべた。

「どうせプールで遊ぶなら大人数の方がいいだろう!裏の六人プラスシックスは来てないのか?」

「あ、それならあっちのプールで泳いでるよ」

めだかの質問に、なまえは浮き輪にしがみつきながら別のプールを指差す。
そこでは、プールサイドにある椅子でくつろぐ百町と鶴御崎以外の裏の六人プラスシックスがプールに入っているという彼らを知っている者からしたら異様な光景が広がっていた。

「筑前先輩の髪が短い……」

「湯前さんなんて水に身体半分溶けてるけど…」

「ん?もしかして私の仲間を心配してくれてるのか?」

「ちょ、ちょっと阿久根さん…なんか絡んできましたけど!」

「喜界島さん、泳ぎは得意だろ?」

「そうだとしてもあの人たちの対処は得意じゃないですよ!!」

阿久根は既に彼らと関わるのは止めようとしているらしく、1人の世界に入って準備体操を続けている。
自由奔放な十三組の十三人に唖然とする喜界島と人吉であったが、めだかは1人静かな彼へ視線を送った。

「……?どうかしたか球磨川。別にマイナス十三組の連中も呼んでも構わないぞ」

「『………いや。そうじゃなくて』」

球磨川は何かを考えるようになまえたちを見ていて、その視線に気付いたなまえが球磨川を見上げる。
しばらくなまえと球磨川の目が合っていたかと思うと、球磨川は静かに言葉を零した。

「『なまえちゃん。もしかしたら僕の方があるんじゃないかい?』」

水肢体ウォーターボディスラム

「『っ……!っ………!!』」

「容赦無く安心院さんのスキルを使った!?」

球磨川の言葉を聞いた瞬間、なまえの顔から笑みが消え、球磨川をプールの水が包み込む。
泳げない球磨川は苦しそうにもがくが、逃れることも出来ず身体をぐったりとさせた。
なまえはそんな球磨川を見ると水を引かせ、浮き輪に身体をあずけたままプールの壁を蹴ってその場から泳いで行ってしまう。

「『全く、相変わらず容赦無いな…』」

「今のは百パーセント球磨川が悪いな」

「女子全員を敵に回すぜ、今の台詞」

「『なんでだよ、僕は悪くない!』」

「あーあ」

「俺達は気にせず泳ぐことにしようぜ」

「うん。あ、屋久島先輩たちも呼んでいい?」

「ああ。構わない」

大量の水に球磨川が後ろから襲われた悲鳴がプールサイドに木霊する。
そんな球磨川の悲鳴など聞こえないとでもいうように、なまえはバシャバシャと水面に波を立てていた。

「お?なまえ。確かお前は泳げるはずだったが……」

「うわっ。い、いつ来たの」

浮き輪に上半身だけ寄りかかり、先ほどのスキルを使ったままのなまえはのんびりとプールの中を移動していた。
が、突然、音もなく糸島軍規が現れる。
先ほどまで阿久根たちと喋っていたはずなのに、となまえは驚いたように目を見開いた。

「あのトビウオの1人と泳ぎで競争していたらコースを外れてしまってな」

「外れるどころの騒ぎじゃないと思うけど…」

なまえが泳いでいるプールと、競泳用のプールは全く別のところにある。
まあそんなことを深く追求しても仕方ないか、となまえは先ほどの糸島の疑問に答えることにした。

「授業で泳ぐのとプールで泳ぐのじゃ違うんだよ」

「だが、お前は別に授業には出てないだろ?」

「……そこは置いといて」

遠くで騒ぐ声も、プールサイドには響いて聞こえる。
なまえはスキルで水の流れに糸島も乗せ、浮き輪が無くとも自分と同じように浮けるようにした。
最初は少し驚き、慣れない様子であった糸島もすぐにその感覚に慣れたようでなまえとは逆に仰向けになる。

「でも、よく来たね。都城くんたちはめだかちゃんと仲良しだから来るとは思ってたけど、あなた達は直接の関わりは無いでしょ?」

生徒会がこのプールへ遊びに行くと訊いて、都城たちを誘ったのはなまえだった。
宗像は友人である人吉がいるということで二つ返事だったし、都城も行橋も「なまえが言うなら」ということで来てくれた。
高千穂や古賀は身体を動かすことが好きだから誘う前に行く準備をしていたし、名瀬は「古賀ちゃんが行くなら」と素直に行きたいとは言わなかった(しかし挙動から行きたいのはバレバレだった)。
一応裏の六人プラスシックスにも声をかけておこうとしたなまえだったが、糸島にしか遭遇出来なかったので他のメンバーに伝えていくよう言ったのである。
まさか来るとは思っていなかったので、しかも先に着いていた彼らになまえは目を丸くした。
それは表の六人フロントシックスも同じである。
どうせ他のメンバーは糸島が無理矢理連れて来たのだろうが(特に百町と鶴御崎は絶対に嫌がっただろう)(だってプールサイドにも関わらず彼らは私服のままである)、それでも糸島が来ているというだけで驚きだったのだ。

「まあ、そうだな…」

糸島は何かを考えるような素振りを見せる。
しかしそんな動作がなんだか糸島に合っていなかったので、なまえは少し笑いそうになった。

「好きな女の水着姿を見たいと思うのは、男として当然だと思うぞ?」

「………は?」

「ちなみにその水着、似合ってるな。あとで記念写真を撮ろう」

そう笑う糸島の顔を唖然と見つめていたなまえであったが、数秒後にその言葉の意味を理解して。
顔を真っ赤にしながら、水の流れを速くしてその場から勢い良く去って行った。

ある夏の日の出来事


(うーん…だから球磨川の言葉は気にするな、という意味だったんだが……)
(どっちにしても恥ずかしいわ!バカじゃないの!?)
(まあそう照れるな)
(照れてない!!)


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -