(シャルナーク)

「なまえ」

シャルは少女の名を呼ぶ。
少女はそれに反応して、振り下ろしきったナイフを抜くこともせず振り返った。
なまえと呼ばれた少女の周りは血まみれだったが、なまえは酷く綺麗である。

「これで何人目?」

「さあ……今から数えるのも、無理そうだね」

まるで他人事のように呟くなまえの態度には慣れていた。
バラバラにされている死体を気味悪く思うでもなく、シャルはただ一直線になまえへと歩いて行く。

「帰ろう」

「……でも、」

「俺が言うのもあれだけど、最近ちょっと殺しすぎだと思う」

一体この光景を何回見ただろう、とシャルの眉間に皺が寄る。
そんなシャルの表情を見て、なまえは黙って歩き出した。
何故人を殺すのか。
その質問をシャルがなまえにしたことは無かったし、その理由にも特に興味は無かった。
それに訊いたとしてもなまえが十分な答えを持っているとは思えない。
そんなことはどうでもいいと、他人事である理由を知ることを放棄する。

「相変わらず、機械がいっぱいあるね」

シャルの部屋にあがるなまえは、前回来たときよりも増えている機械を見て感嘆の声を漏らした。
どれもこれもなまえには操作方法がわからないので、下手に触らないよう避けて歩く。

「そうかな。俺としては、もうちょっと欲しいんだけど」

「だったら機械よりまず部屋を広くしないとだね」

たくさんの機械の中に、冷蔵庫だったりベットだったりと生活用品が垣間見える。
きちんとご飯を食べているのか不安になる部屋ではあるが、少し涼しいくらいのその部屋はシャルにとって快適らしかった。

「そうだね。どうしよっか。そしたらなまえの部屋もいる?」

「え?私の?」

「うん。だってなまえ、外で寝泊りなんかしてたらまた人を殺すだろ?」

「……どうして、今になってそんなに?」

シャルナークは幻影旅団の一員である。
それでなくとも、人殺しを否定するような人間ではない。
だからこそ、なまえは純粋に疑問だった。

「俺がここで機械をいじりながらでもなまえと喋れるけど、なまえが誰かを殺しながら俺と喋ることなんて出来ない―――いや、出来るのかもしれないけど、やっぱり雰囲気ってものが」

「…ちょっとよく意味が、」

「俺といる時間より、人を殺してる時間が長いだなんて俺は嫌なんだ」

そう言ったシャルが一瞬のうちになまえとの距離を縮めたことに驚き、なまえは一歩後ろへ下がる。
そのベクトルを利用して、シャルはなまえを後ろにあるベットへと押し倒した。

「俺はなまえのことが好きなんだ。たとえなまえが、自分以外は殺す対象としてしか見れないとしても」

突然のことに驚いたなまえだったが、押し倒されたことに気付いて抵抗しようと腕を動かす。
シャルは真剣な表情を浮かべていたが、抵抗したなまえの右腕はあっさりとシャルの拘束を解いた。
そのことに驚き、なまえは抵抗をやめてシャルを見上げる。

「逃げたいなら逃げていいよ。俺はどこかの悪党と違って優しいんだ」

なまえを押し倒したシャルの手には、少しの力しか入っていない。
逃げようと思えば逃げれるそれに気付いたなまえを見下ろすシャルは、優しく笑みを浮かべた。

「……………………」

「で?どうする?なまえ」

徐々に近付くシャルの顔に、なまえは目線を逸らして小さく呟く。

「………シャルなら、いいよ」

「―――――え?」

「逃げない、って言ってる」

逸らした顔は髪で見えないが、髪の間から覗く耳が赤くなっていることに気付いて。
シャルはしばらく唖然としていたものの、少し赤くなった自分の顔を隠すようになまえを優しく抱きしめた。

それはただの愛


(簡単に殺せるはずの俺を心から愛して)


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