(レオリオ=パラディナイト)

朝。目を覚ます。
なんだかとても胸糞悪い夢を見た気がして、自然と舌打ちが出た。

「(………いや。夢なんかじゃねぇ)」

友人が、仲間が、大切な人が、次々と目の前で殺されていく光景。
弱くて守られていた自分が、何も出来ずに、そこらの虫を潰す程度の感覚で殺された光景。
穴が開いたはずの自分の腹に触れてみる。
――――穴は無い。

「おっはよーレオリオ!」

「おせぇぞ!」

「寝坊とは関心しないな」

「………ああ。悪ぃな」

ここでコイツらが来ることもわかっていた。
しかしこの態度は寝ぼけているからだと彼らは勘違いしてくれる。
さっさと着替えて街で買い物をしよう。
ゴンと共に行動しないと、あいつはまた高い買い物をしてしまうだろうから。

「あれ…そういや、なまえはどこだ?」

「え?ああ。あいつはレオリオが遅いからって下でなんか食ってるってよ」

「ん……?ああ。そうか」

今まで、そうだっただろうかと首を傾げる。
何度繰り返そうが、うろ覚えのところはあるらしい。
まあいいかとベットから降りる。
猶予は一ヶ月。
それくらいあれば、未来を変えることだって可能なはずだ。

「っ!?」

「な、なんだ!?」

そう、思った瞬間だった。
予想していなかった爆発音がうるさいくらいに鳴り響き、その地響きに驚きの声を零す。
これは――――なんだ。
クラピカたちも驚いているが、レオリオ自身は違うことで驚いていた。

「(こんなもの、知らねぇぞ!?)」

「おい、レオリオ!!」

椅子にかかっていた上着を取り、シャツの上から勢い良く羽織りつつ扉を蹴飛ばして飛び出す。
他の客室にいた住人も驚いているのか廊下にぞろぞろと現れ、邪魔で仕方が無い。
どけ!、と怒鳴りながら彼らを避ける。
後ろからついてきているキルア達はそんな彼らを颯爽と避けてやってくるんだろうが、今はそんなことを考えている場合ではない。
なんだか、嫌な予感がした。
まるで――――あのときのような。

「っ、なまえ!!」

「レオリオ……!!」

一階につき、彼女の名前を呼んでみれば、驚いたようにこちらを振り返った。
しかし、彼女よりも俺の方が驚いた顔をしているだろう。
ボロボロになったその空間に存在したのはなまえだけではない。
忌まわしき存在――――幻影旅団。

「な、んでお前らが……!」

「は?誰だいアンタ」

「彼はレオリオって言ってね、ゴンたちの友達らしいよ」

「別にアンタに聞いてないんだけど」

「どうでもいいけど、強いのか?」

「15点◆」

「ひっでぇもんだ」

レオリオは、こちらを知らない彼らを知っていた。
ヒソカはハンター試験で出会ったので勿論知っているし知られている。
あとの二人は、強力な念糸での攻撃を得意とするマチと、破壊力のあるパンチで何もかもを粉砕するフィンクス。
しかし、どうして。
・・・・・・・・・・・・・
どうして今彼らがここにいる―――!

「なまえ。逃げるぞ!」

「で、でも!」

「とりあえずクラピカが来たらまずい!」

「逃がさないよ」

前も、クラピカが我を忘れて彼らを倒そうと突っ込み、その結果は悲惨なものだった。
ゴンもキルアも我を忘れ、倒れ、動けないでいた俺を助けようとしたなまえが横たわり。
そんな光景がフラッシュバックする中、鋭い音が辺りからする。
念糸が辺りに伸びているのだろうと考え、視界の端で光った何かに無意識のうちに一歩下がっていた。

「えっ……!」

「マチの念糸を避けた!?」

「ちっ。どうせマグレだろ」

もう一回、と先ほどと同じ音がする。
光った何か――――ではない。
これは、糸だ。

「な、ぁっ……!?」

行動は迅速だった。
頭では何も考えていない。
しかしこうすることが最善だと、自分の右腕は前に突き出されていて。
その手には何かオーラのようなものが溜められていて、それはそのまま何かを掴み、女―――マチを、その念糸を利用して引っ張り、壁に激突させた。

「………………………」

「………………………」

「………………………」

シーン、となった空間で、誰も話そうとはしない。
壁がガラガラと崩れる音を微かに出すだけで、全員が、壁に激突したマチまでもが、唖然とその空間に存在していた。

「な、んだ…今のは……」

「え………え……?」

いつの間にかいたクラピカが発した声に、ようやくレオリオの口からも声が出る。
しかしそれは言葉というよりも、反射的に出た疑問の声であった。

「いやいやいやいや。お、俺は何も見てねぇぞ!な、なあ!ゴン?」

「そ、そうだね!オレもよく見えなかったし、そ、そんな、ねぇ!」

「あ、ああ!まさかそんな、マチの念糸を掴んで、逆にそれを引っ張って投げるだなんて漫画みてぇな展開、なあ、ヒソカ!!」

「…………………◆」

「たったまま気絶してる…」

「待って。一旦落ち着こう」

困惑のあまり、会話はキルアからゴン、ゴンからフィンクス、気絶しているヒソカを心配するなまえへと伝わり、何故か瓦礫の下敷きになっていたはずのマチが少しやぶけた服と共に彼らの困惑を宥めた。
そして元の立ち位置に戻り、未だにマチを投げたポーズから動こうとしないレオリオを見つめる。

「もう一回やってみよう。話はそれからだ」

「え、も、もう一回って…」

「さっきと同じように糸を飛ばすから、アンタは思った通りに行動すればいい」

「ちょ、ちょっと待っ」

「待ったなしだ!!」

ドゴォン、と再び壁が壊される音。
先程よりも破壊された壁を、全員がじいっと見ている。
しかし先ほどと同じように念かなにかでガードしたらしいマチはほぼ無傷のまま元の位置に静かに戻った。

「ど、どういうことだよレオリオ!!」

「し、知るかよ!俺がききてぇよ!」

「女を二回も壁にぶつけといてよく言うよ!」

「お前がやれっつったんだろ!?」

「コイツなんて驚きすぎて俺たちを見ても目が赤くなってねぇんだぞ!!」

「なんでだよそこは赤くなれよ!」

「私が悪いのか!?」

「レオリオ、もしかしてオレ達に内緒ですさまじい特訓を…」

「レオリオがしてるわけないでしょ馬鹿なのに」

「最後もうただの悪口じゃねぇか!!」

全員の言葉に一通り突っ込みを入れたレオリオは、肩で息を切らしながらマチの念糸を掴んでいた右手を開いて見下ろす。
流石幻影旅団というべきか、その右手には少し切り傷のようなものが見られたが、不思議と痛みは感じない。
というより今までは集中しなければ念なんてものは見れなかったはずなので、念糸を―――しかも幻影旅団の1人であるマチの念糸を掴むことはおろか、見ることすら出来ないはずなのだ。
しかし、そんなことを考えている場合ではない。
これなら、悲劇を繰り返さずに済むのではないか、とレオリオの口元に自然と笑みが浮かんだ。

「さ、さあお前らどうする!ここで逃げ帰るか、お、俺にやられて帰るか!」

そう息巻いてみれば、鼻で一蹴するかと思った彼らは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる(ヒソカは相変わらず気絶しているようで気味の悪い笑みを浮かべていた)(勿論、たったまま)。

「よくわからないけどヤバイかもね。別にアンタに用があるわけじゃないから、ここは去ることにするよ」

「……そうだな。おい、ヒソカ行くぞ」

「……………………◆」

「………こいつ置いてってもいいか?」

「いや、出来れば持って帰ってほしい」

「だよなあ…」

はあ、と溜息をはきながらフィンクスは気絶したままのヒソカをズルズルと引きずり、ホテルから出て行く。
その背中を見送りながら、レオリオは無意識のうちに自分の手を握りしめ、嬉しそうな笑みを浮かべていた。

ヒーロー志望


(誰かを助けるということが、こんなにも嬉しいことだったなんて)


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