(ジャスティン)
好きだと会う度に言ってくる彼の対応に、ほとほと困っていた。
「ジャスティン?別に、俺はあいつと喋ったことねぇし…っていうかあいつが人の話を聞いたところを俺は見たこと無いぞ?」
鎌になれる武器は、そう言ってなんのアドバイスもくれなかった。
「ジャスティンくん?確かに私も彼には困っちゃってるのよね。だってほら、私ってば仮面つけてるから口元が見えないでしょ?それで話が全然通じなくて」
仮面をつけた神は、そう言って逆に相談してきた。
「ジャスティン?あー!俺ってばあいつと仲良しだからよ、なんでも聞いてくれ!」
「ガウガウ、ガウガウガウガガウ」
「そうだよな。お前天才だな」
被り物をした男と猿は、そう言って二人だけで楽しんでいた。
「ジャスティン?誰ですかそれ」
白衣を着た男にいたっては、他人に興味が無さ過ぎた。
「はあ…………」
盛大に溜息をついてみたものの、悩みが解決するわけでもない。
別に彼のことが嫌いというわけではないが、対応に困っていたのだ。
最初にスピリットへ話した後、マリー達女性陣にも相談してみようと思ったのだが何故かスピリットに止められてしまったため自分が知っている男性陣に相談してみたものの、まともな人間がいなかったことに今更気付く。
「意味無かった」
時間を無駄にしただけか、となまえは小さく溜息をついた。
いつもは足元で鳴いてくれるノイズもどこかへ散歩しに行ってしまっているらしく見当たらない。
そして、見知った魂の波長。
「おや、なまえさん。溜息なんてついてどうかしたんですか?」
「ジャスティン……」
悩みの原因は、なまえのそんな悩みも知らずいつものような嬉しそうな笑みでなまえの向かい側へと座る。
なまえはもう拒絶することにも疲れたのか、何も言わずにジャスティンが席につくのを眺めていた。
「なまえさん」
「何?」
「今日も好きですよ」
「ああ…そう」
なまえは聞き飽きた言葉を適当に流すが、なまえの反応など最初から気にしていないらしくジャスティンはただただなまえを見つめるだけ。
「それにしても彼らに何を聞いて回ってたんです?もしかして私の好きなタイプとかですかね」
「ジャスティンっていつの間に面白いことが言えるようになったの?」
「それほどでも」
「皮肉だよ」
もう溜息をつく気力もない。
それに、目の前の男は未だイヤホンをしたままこちらを見るだけ。
きっと口元を見て会話を成立させているのだろうとなまえは目線をジャスティンから下げ、何も乗っていない机を見つめた。
「スピリットが、ジャスティンは人の話を聞かないって」
「?」
「死神様はイヤホンを外さないから会話が成立しないって嘆いてた」
「はあ…」
「あとの2人…3人?はまあいいとして、随分と問題児なんだねジャスティンって」
なまえへの対応を除けば、着ている服の効果もあって真面目な死武専生だという印象を受けるだろう。
パートナーがいないというのにそこらの職人よりも実績をあげているのだから実力もあるはずだ。
しかし、死神を異常なくらいに信仰している割にはイヤホンを外さなかったりとよくわからない人間だった。
―――なまえも、人のことは言えないのだが。
「別に私は他人にどう思われようと構いませんよ」
「人の話を聞かない自己中心的タイプ…」
「何か言いましたか?」
「いや、別に」
口元を見ていたはずなのに今の小声がわからなかったのか、となまえは少し驚いたがただ流しただけかもしれないと横を向く。
ジャスティン=ロウ。
武器である彼にパートナーの職人は存在しない。
波長が合わないというよりも、彼が人として合わないのだろう。
彼自身も1人が良いのか、パートナーも探さず1人でいる。
職人であるなまえをパートナーとして誘っているわけでもないが、実力がある彼は周りから特に何も言われていなかった。
特徴的な服装と、異常なまでの信仰心。
そしてその耳につけたイヤホンから漏れる爆音は常に流しており、『爆音と共に現れる処刑人』とも呼ばれているらしい。
「―――――――?」
そういえば、と視線をジャスティンへ向けた。
ジャスティンは相変わらずなまえをじっと見つめていて、なまえの視線はジャスティンの目から耳につけたイヤホンへと。
「……………あれ?」
「?どうかしましたか?」
耳を澄ましてみても、何も聞こえない。
ここは室内であるし、無音ではないとはいえうるさくはない。
しかし、ジャスティンの耳からいつも漏れている音楽がなまえの耳に入ることは無かった。
「音楽……今、聞いてるの?」
「え?」
なまえの問いに、ジャスティンが驚いたように目を見開く。
次いで、左耳につけていたイヤホンを外すとニッコリと笑った。
「なまえさんと話すときに、他の音を聞くわけないじゃないですか」
「え………」
「どうかしましたか?」
なまえは、ジャスティンの言葉に唖然としたように声をこぼした。
外されたイヤホンからは音が一切聞こえず、次いで、最初に相談した彼の言葉を思い出して。
「なんでもない………」
なまえがほんの少しだけ戸惑ったことを、目の前の男が知る由も無い。
当然のように傍にいて
(君の声だけが聞こえればいい)