(幻影旅団)
「俺は思った」
「わ!びっくりした!」
「団長…突然喋らないでよ」
各々が翌日の任務に向けて準備をして静まり返っていたアジトで、突然クロロが喋りだす。
近くに居たシャルは驚きのあまり声を出し、パクノダも驚いたように無表情のままのクロロを見つめた。
その格好は"団長"のときのもので、彼らは一体クロロが何を言い出すのかとじっとクロロへ視線を送る。
「……お前らは世間を知らなすぎる」
「え?」
「それ、今更……?」
続いたクロロの言葉に、今度はウボーとフィンクスが声を出した。
それは驚いた結果ではなく、クロロの言葉を理解できないといったような声音である。
「というわけでこんなものを用意してみた。フェイタン」
「少し苦労したね」
「「……………………」」
どこからか突然現れたフェイタンに驚いた彼らであったが、それよりもフェイタンが彼らの目の前に持ってきたものに言葉もない。
それは、1人の少女であった。
「だ、団長…それは一体……?」
「女子高生だ」
「じょ、じょし……?」
「世間の流行について最も敏感な年代らしいからな。フェイタンにちょっと連れてきてもらった」
「連れて来てもらったって…」
「どう見ても誘拐だろこれ…」
どうすんだこれ、といった風にクロロとフェイタン以外の団員は顔を見合わせる。
フェイタンに腕を掴まれたままの女子高生の頭には袋がかぶせられており、どう見ても同意を得て連れて来た風ではなかった。
「おい……団長、どうしちまったんだ…?」
「っていうよりなんでフェイタンも手を貸してるんだよ…おかしいとか思わなかったのかよ……」
「これには流石のヒソカも引いてるんじゃないのか?」
たまたま近くにいたフィンクス、ノブナガ、マチがこそこそとクロロ達の様子を伺いながら相談を始める。
そしてマチの言葉に、クロロから一番遠くの場所でトランプをいじっているヒソカを3人同時に振り返った。
「ああ…そんなこともするなんて流石だよ……ボク、余計に感じちゃう………◆」
「いつも通りだ」
「いつも通りに変態だ」
「ダメだあいつは。放っておこう」
もうトランプなどどうでもいいのか、足元に散らばったトランプを踏みながらゆらゆらと揺れているヒソカを見なかったことにして3人は未だ袋をかぶせられている女子高生へと視線を戻す。
「それじゃあ、自己紹介といこうか」
そうクロロが言うと、フェイタンが少女の頭にかぶせられていた袋を勢い良く取り外した。
袋をかぶせられていたのは短時間だったとはいえ息苦しいもので、鍛えていない一般人では数分で意識を失ってしまってもおかしくない。
一般人になんてことをしてるんだと似合わず思ったフランクリンの心配通り苦しかったらしく、女子高生は盛大に咳き込むと慌てて息を整えた。
「あれ…?学校じゃない……」
「どんな登校方法だよ」
世間を知らないわりには、ノブナガの突っ込みは的確であった。
「さ、自己紹介を」
「え。私転校生じゃないですけど…」
「じゃあそういう設定でいけ」
「えーっと、週刊少年ジャンプから転校してきました名字なまえです。よろしくお願いします?」
「ということだからお前ら仲良くするね」
「フェイタンまでのっかるのかよ………」
「なんだよこれ…念能力かなんかかよ……」
「つうか馴染みすぎだろ……」
フェイタン、クロロ、そしてなまえと名乗った少女のノリに、他のメンバー(悦に浸っているヒソカは除く)は完全に置いてきぼりにされていた。
しかしクロロはなまえにしか興味が無いのか、そんな団員の反応はどうでもいいと言った風に口を開く。
「俺がクロロでこいつがフェイタン。こっちから時計回りにシャルナーク、パクノダ、フランクリン、ウボー、ヒソカ、フィンクス、ノブナガ、マチだ。今ここにいないメンバーはあとで紹介する。とりあえず今居るメンバーだけでも覚えたか?」
「え?全然」
「そうか。まあいい」
いいのかよ、という突っ込みもなく会話は終了する。
しばらくの沈黙。
ふと、クロロが懐からナイフを取り出してなまえの目の前へと切っ先を向けた。
「っ、団長!?」
それは、普段仕事をする際の"作業"の手付きと同じであった。
そのことに、シャルたちは驚いてクロロを見上げる。
しかしそのナイフはなまえを斬り付けることなく、ただなまえを指し示すだけ。
「おかしいな。世間一般の女子高生はナイフを向けられたら悲鳴の一つや二つあげるものなんだが」
「私同時に二つも声出せませんよ?」
「だろうな。俺もだ」
そうして会話する間も、なまえの目の前にはナイフの切っ先が存在する。
しかしなまえはそのナイフよりもクロロへと視線を向けていて、その平然とした姿に今まで呆れていたシャルたちも少しだけ警戒した。
「なるほど…最近の女子高生はナイフごときでは驚かないということか。これは有益な情報だな」
「…………………」
そのナイフに猛毒が塗ってあることを言おうか悩んだノブナガであったが、何も言わないほうがいいだろうと開きかけた口を閉ざす。
「あの、私そろそろ出ないと遅刻してしまうので」
「遅刻するくらいなら休めばいいね」
「私の無遅刻無断欠席が…」
「無断はダメじゃねーのか……?」
フィンクスは警戒をしていたのが馬鹿らしいとでもいうようにその場の段差に腰掛け、呆れたように小さく溜息をついた。
なまえは見知らぬ場所へ突然連れてこられ、学校にも行けず、どうしたものかと彼らを見渡す。
「今日は1日、俺と共に行動しろ。いいな?」
「え、嫌ですよ」
「じゃあフェイタンとで構わない」
「もっと嫌です」
「……………………」
「あのフェイタンが傷ついてる…!?」
小声で言葉を零したウボーを、フェイタンがギロリと睨んだのでウボーは何も言っていないと口を両手で覆って首を横に振った。
「それじゃあ、まずどの武器で驚くかでも試してみるか」
「武器ならたくさん持てきた」
「おい、どうする?あいつのこと助けた方がいいんじゃねぇか?」
「でも、団長が連れて来たんだろ…?」
「連れてきたのはフェイタンだ。どうする?」
「コインで決めるか?」
「なんにしても、可哀想な奴だ。同情するぜ」
なまえのこれからを心配する彼らをよそに、なまえは欠席することで授業についていけなくなるのでは、と頭を悩ませていた。
踏んだり蹴ったり殴ったり
(不運の連鎖は続いていく)