(球磨川禊)(糸島軍規)(黒神真黒)
学園での、いつも通りの昼休み。
弁当を持った手とは反対の手で、球磨川禊は13組への扉をゆっくりと開けた。
「またお前か」
「クラスを間違えてないかい?」
「『その台詞はそのままそっくり君に返すぜ』」
3年13組である糸島軍規と名字なまえ、そして既に学校を辞めているはずの黒神真黒が、教室の扉を開けて入ってきた球磨川禊を振り返る。
三人は既に昼食を取っているらしく、なまえは口の中に入ったものをもぐもぐと咀嚼しているため球磨川への挨拶が遅れた。
「球磨川くん、今日はお弁当なんだね」
「『ああ。実は自分で作ってみたんだけど手が傷だらけになっちゃってさ。明日からなまえちゃんが僕のお弁当作ってくれないかな』」
「残念だがなまえは私のお弁当を作ることになっている」
「なってないよ」
手が傷だらけというが、既に球磨川の手は綺麗な状態に戻っている。
恐らく自身の異常性で治したのだろう。
糸島の嘘に平然と突っ込みを入れるなまえの向かい側へ腰掛け、お弁当を包んでいる布を取った。
「そうだったか?」
糸島は軽く首を傾げたが、言葉の真偽はどうでも良いとでもいうようにジュースを飲み込む。
「なまえちゃん。明日から旧校舎で一緒にご飯を食べようか。そうすれば、二人で静かに食事が出来るよ」
「『真黒くんは善吉くんとでも食べてればいいだろ?将来、君の弟になるかもしれないんだし』」
「球磨川くん、君は人を煽るのが上手だね。鶴喰くんと仲良く出来そうじゃないか」
「『…………そういう真黒くんこそ』」
互いに互いの地雷を土足で思いっきり踏んだのか、笑顔のまま二人の間に火花が散った。
しかしそのことになまえは気づいていないし、糸島は気付いていて無視している。
二人がどうなろうと糸島にとってはどうでも良かったし、今のままでも面白いのでただ黙って口端を上げた。
「そういえば、百町の奴に最近集中力が無いって言われたんだが、なまえから見て私はどうだ?」
「え?うーん…別に。相変わらず、口の周りに食べ物をくっつけてるってことくらいしか……」
「は!?」
気付いていなかったのか、糸島は驚いたように自身の口元に手をやる。
すると手にパンの欠片が触れたらしく、不満そうに手についたパンの欠片を睨みつけた。
「ああ。そのことなら僕も思ったよ。確かに、君は最近集中力が散漫としているようだ」
「『ああ。確かに。それになんだよその洋服。学生はきちんと制服を着るべきだぜ?』」
「お前が着ているのはここの制服ではないだろう」
球磨川が頷いたのはその場にあわせて適当にしただけであったが、糸島は黒神の言葉に考えるような仕種を見せる。
なまえや百町の言葉は気にかけても頷くまではいかなかったが、天才解析者として一時はフラスコ計画の統括もやっていた真黒がいうならばそうなのだろう。
そこまで考えて、ふと、卵焼きを箸で掴んで口に運ぼうとしているなまえを見た。
視線に気付いたのか、口を少し開けたまま、なまえもこちらを見る。
何事だろうかと、球磨川と真黒が不思議そうにこちらを見ているのが視界の端に入った。
「そうだな…恐らく、1日中ずっとなまえのことが頭から離れな」
「それ以上喋らないでもらえるかな」
「『また磔にされたいのかよ』」
そうは言うが、球磨川の螺子は糸島の右手を机にはりつけるように突き刺さっている。
痛みを感じるのか、それとも自分の手に螺子が突き刺さっていることが気持ち悪いのか、糸島は困ったように顔を歪めた。
「安心院さんじゃないんだから、私は軍規の頭に入り込めないよ」
「安心院?」
「『なまえちゃんはゆっくりお弁当を食べてればいいから』」
首を傾げる糸島も気にせず、球磨川はなまえへ笑顔を向ける。
なまえは球磨川が持つ螺子を見て何か言いたそうにしていたが、渋々卵焼きを口へ運んだ。
「……君がそんな天然を装うような人間だとは思っていなかったな」
「『僕達の前で堂々と告白だなんて、よっぽど命がいらないみたいだ』」
「にしし。一体、何の話か私にはわからないな」
今度は、3人の間で火花が散った。
しかしなまえはミニトマトを箸で掴むことに気を取られ、そのことに気付いてはいない。
やっと掴めたミニトマトは口に運ぶ前に箸から滑り落ち、それが地面へと落ちる前に、糸島が器用にそれをキャッチした。
「ほら」
「ありがとう」
手で食べるか、とそのまま手でミニトマトを受け取り、口に含む。
そんななまえを見て、真黒は微笑んだ。
「僕は、君のような適当な人間に欲しいものを取られるつもりはないよ」
「『今回ばかりは右に同じだ』」
こればかりはどうでもいいといった風な態度は取れないな、と糸島は数十センチしか離れていないなまえを見た。
あと数十センチ
しかし届かない
(横取りは良くないぞ、二人とも)