(キルア=ゾルディック)(クラピカ)

時々。
たまに、ひどく死んでしまいたいときがある。
しかし、それは出来ない。
そんなものは選択肢には無かった。
生き残った自分自身は、彼らの無念を晴らさなくてはいけないのだから。

「来たか」

「久しぶり」

言って、笑った。
目の前の彼女は、あのときと変わらず、綺麗に笑った。
何も変わらないと。
終わることだけが、すべてを失うと。
それは、まるで鏡を見ているようで。
しかし届かない。
硬くきつく結ばれすぎて、その絡まったものは自分には解けない。
切るしかなかった。断ち切るしか。
ひどく、やるせない。

「(誰も、救われない)」

銀色の髪が、闇に揺れる。
二人の対面を静かに見つめていたキルアが、静かに思う。
ゴンは連れてこなかった。レオリオには何も言わなかった。
彼らは必死で止めるだろうから。
誰が悪いとか、何が正しいとか考えず、彼らは平気で止めに入るのだろう。
しかし自分には出来ない。
そんなこと、誰も望んでない。

「蜘蛛の頭を…連れて来いと、言ったはずだ。なまえ」

「嫌だよ。だって、クラピカに殺されちゃう」

自分はただの暗殺者で、ゴンは勿論レオリオもクラピカも自分とは違った。
だけどなまえは違う。
彼女はどうしようもなく殺人鬼だった。
そんなヒトゴロシに、"そんなもの"はないと思っていた―――思っていたかった。
しかし、あるはずのないものを、彼女は持っていた。
ヒトゴロシなのに、ヒトゴロシ同士なのに『仲間』だなんてものを彼女は持っていて、自分の生きてきた世界がただ単に不幸なだけだと思い知らされた。嫌というほどに。その現実を精一杯叩きつけられた。
世界にはちゃんとシアワセな世界があって、自分には手が届かないだけなのだと。
だから、必死にゴンに縋り付いていた。
自分もシアワセになれるのだと、トモダチが出来るのだと、必死だった。
そうじゃないと立っていられなかった。
そうでもしないと、せっかく手に入れたトモダチをも失ってしまいそうだったから。

「じゃあ―――貴様が代わりに殺されるとでもいうのか」

「うん……そうだね。でも、私はあなたに殺されるわけにはいかないから」

クラピカの綺麗な青色の瞳が、真っ赤に染まる。
それを見ても、なまえの笑みは崩れない。
チェーンが、ゆらりと暗闇から現れる。
それは、闇も、そしてなまえ自身をも貫くだろう。

「クラピカ」

「……!キルア…どうしてここに」

静かに、虚ろに、キルアはクラピカの前に姿を現す。
キルアの登場に驚いていなかったところを見ると、なまえはキルアの存在に気付いていたらしかった。
しかし、キルアの次の行動は予想していなかったらしい。
なまえも、驚いたようにキルアの名を零した。
その声を掻き消すように、クラピカは低い声で囁く。

「………どういうつもりだ、キルア」

「俺は――――」

キルアは、なまえを庇うように、クラピカの前に立ちふさがる。
キルアの目は酷く虚ろだった。
自分はヒトゴロシで、後ろにいるなまえもヒトゴロシで。
もしかしたらという期待が、足を進めていた。
なまえなら、自分の世界をシアワセにしてくれるのではないかと。
怖い。恐れている。
今、何かを失えば、自分はジブンを失くしてしまいそうだった。

「俺は、なまえに死んでほしくない。それはクラピカ、お前だって一緒だろう」

自分のことを見せないキルアは、人一倍、人の気持ちに敏感だった。
だからこそ、ゴンの真っ直ぐな気持ちはキルアにとって嬉しかった。
だけど、ゴンは自分とは違う。
キルアは欲しかったのだ。
自分に似た『仲間』や、どうやっても届かない世界が。

「さあな」

しかし、クラピカはキルアの言葉に首を振る。
それは想定内ではあったが、キルアはなんだか悲しい気持ちになった。
救えない。
救えないのだ。
自分のこのちっぽけな手では、友達の一人も救えない。

「キルア。ありがとう」

でもね、となまえはキルアの背中に声をかけた。
その言葉の続きをキルアは聞きたくなかった。

「私は彼らを守るために、クラピカを殺さなくちゃいけない」

「……都合の良い頭だな」

キルアの存在を無視して、クラピカがなまえへ悪態をつく。
なまえはキルアから視線をクラピカへとうつし、言葉の続きを待った。

「守ればいいというものではない。殺せばいいというものでもない。そういう考えが、いつか身を滅ぼすだろう。次は誰の世界を終わらすつもりだ、殺人鬼」

「"いつか"、ね……」

それが今かもしれないという可能性がある中、なまえは笑う。
殺人鬼と呼ばわった赤い目の少年に、そのナイフの切っ先を向けて。

「立ち止まるなら過去は過去のまま。それなら殺し続けて生き続けるよ。私、零崎愛織は、他人が掲げる世界のため、自分の世界を犠牲にして」

失うものはたったの二人


(きっと正解なんてどこにもない)


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -