(アダルトリオ)

全く人が乗っていない電車内の、それぞれの長椅子に各一人ずつ―――合計四人の人間がそこに座っていた。
一人はぼんやりと外を眺め、一人は外を眺めている少女をじっと見つめ、一人は静かに本を読み続け、一人はトランプをいじってそれぞれ時間を潰しているよう。
しかし流石にその視線に耐え切れなくなったのか、少女は外を見るのをやめてこちらを見つめている青年へと視線を移した。

「………えーっと、何か言いたいことあるの?イルミ」

「ううん。ただ見てるだけだから気にしなくていいよ」

「…苦行だ……」

コロコロと表情が変わる少女に対し、イルミと呼ばれた青年は表情一つ崩さず少女を見つめるだけ。

「ククク…◆困った顔も素敵だね、なまえ」

「クロロは気が散らないの?」

「……ん?ああ、別に。ヒソカのこれは今に始まったことじゃないからな」

「慣れたんだ…」

なまえと呼ばれた少女へ微笑みかけるヒソカは、その手にしていたトランプの手札を向かい側で本を読んでいるクロロと呼ばれた青年へと投げつける。
クロロはそれを目線を本から動かさず、身体を少しだけ傾けて避けた。
なまえがチラリとそちらへ目線を向けてみれば、クロロの座っている座席の列には何枚ものトランプが刺さっていて、なまえは呆れに近い笑いを零す。
クロロは相変わらず冷静だったが、それすらも向かい側にいるヒソカを煽らせる要因でもあるのだろう。

「そういえば」

突然、なまえの向かい側に座るイルミが口を開いたのでヒソカもクロロも少しだけイルミへと意識を向けた。
相変わらず無表情であったが、なまえは黙って見ていられるよりはマシだろうとイルミを見る。

「なまえって、オレの携帯番号知ってたっけ?教えた記憶無いんだけど」

「電話帳で調べたんだ」

「そっか」

「載ってるのか……」

ロロが、呆れたように苦笑いを浮かべながら呟く。
いくらイルミの住んでいるゾルディック家が観光名所になっているとはいえ、それほどまでに情報をオープンしているものなのかとクロロは流石だなという溜息しか出てこなかった。

「ああ、なまえ。イルミが持ってきてた差し入れは美味しかった?僕たちも食べたかったのにイルミったらくれないんだもの◆」

「俺は食べたいなんて言ってないぞ」

イルミの話を皮切りに、ヒソカもトランプをシャッフルしながらなまえへ話し掛ける。
クロロは本を読みながらヒソカの発言を否定するが、しかし誰も聞いていない。

「オレからっていうより母さんからだけどね」

そこで初めてイルミはなまえから視線を逸らしたが、すぐに戻す。
なまえは先ほど食べたイルミの母が作ったというクッキーが入っていた袋を見下ろした。
それは座席に置いてあったが、中身は既にもう無いらしい。

「なんか新しい毒を見つけたらしいからぜひなまえに食べて欲しいって」

「毒はいいけど味付けが…」

「ミルキみたいなこと言うね」

「毒入りを差し入れるなよ」

推理小説かとでもツッコミたそうなクロロは、平然としているなまえへ少しだけ視線を移した。
大丈夫だとはわかっているが一応心配したのだろう、なまえもその視線の意味を悟り大丈夫だと笑みを零す。

「ていうか、なんで当然みたいに3人ともここにいるわけ?」

「なんでって…」

「面白そうだから」

「そういうこと◆」

なんだ知らなかったのかとでもいうように目を点にしたクロロに続き、イルミとヒソカが理由を答えた。

「なまえってそんな遠出とか自分からしたりしないだろ?だからな」

「『だからな』…って。クロロ、旅団の方はいいの?」

「あいつらもあいつらで好きにやってるだろ。それに、ヒソカやイルミとお前を二人にさせる方が心配だ」

「どういう意味だいクロロ」

「そのままの意味だろうよ。それに、オレもその意見には同意だ」

「………自覚があるのか?」

「?何言ってるんだよ。オレは心配されるような人間じゃない」

「致命的なほど自覚がないな」

クロロが呆れたように本を閉じながらそう呟くと同時、電車がスピードを落としていく。
外はまだ暗くなったばかりだというのに、4人以外の人影は見えない。気配も無い。
一番最初に立ち上がったのは、ゾルディック家の長男であるイルミ=ゾルディック。
電車の扉の前に立ち、開くのをただじっと待っている。
次いで、幻影旅団の団長であるクロロ=ルシルフルが立ち上がり、開かない側の扉へ背を預けた。
手に持っていた本はいつの間にか消えていて、ただじっと電車が止まるのを待っている。
そして電車が止まり、扉が開く。
イルミとクロロが開かれた扉から出て行き、ゆっくりとなまえは立ち上がった。
そのままヒソカの方を見ることもなく駅のホームへ足を踏み出す。
最後に、トランプを片付けたヒソカが電車から降り、その瞬間、ヒソカの背後で扉が閉まった。

致死量の個性


(さて、とりあえずホテルをとろうかなまえ)
(言ったそばから心配事が)
(僕はなまえと同じベッドで構わないよ)
(………嘘の駅名教えれば良かった)


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