(雲仙 冥利)


「委員長!」

耳障り。

「委員長!!」

うるさい。

「雲仙委員長!」

違うんだもっと彼の名前は優しく生卵をスプーンに乗せて運ぶくらいの丁寧さで呼ばないと。

「名字さんどうかしました?」

「うるせぇお前に生卵が運べんのか鍵爪野朗」

スタスタと歩いていくなまえの背中を見送りながら、風紀委員は鍵爪をぶらんと下ろして落ち込んだように肩をおとした。

「どうかしたか?」

「俺……生卵が運べる手じゃないよ………」

「え?あ、ああ…そうだな……」

何故か室内で自転車をかついでいる男も、一緒になって隅っこで落ち込んでいた。

「………………………」

そんなことも知らず、なまえはただひたすらに廊下を歩いていく。
途中階段も上ったりしたが、特に誰かとすれ違うわけでもなく一人黙々と歩いていた。

「それでですね、雲仙委員長」

「でもでも、私はー」

「お前らいっぺんに喋んじゃねーよ」

そんな和気藹々とした声が中から聞える風紀委員会の部屋へと繋がる扉が、一瞬にして粉々に吹っ飛ぶ。
しかし不思議なことにその破片は中にいた彼らにぶつかることなく、逆に外側にいたなまえへとぶつかっていた。
その扉はかなり粉々に壊れたようで、ぶつかってもあまり痛くはないようである。

「あ、来ましたよ雲仙委員長」

「ほら、私達が教えた通りにおもてなしをして下さい」

「んなもんもう忘れたよ」

「あらあら。名字さんが来て動揺してるんですか?」

「んなわけ!ねえ!だろ!!」

そう若干顔を赤らめながら怒鳴る少年は、敬語を使われているわりにはとても幼く見える。
しかし。彼の人を見る目はとても歳相応とは思えなかった。
どうしたら人間が人間をそんな目で見ることができるのか。
心底人を見下すような目。
人に価値をまったく認めないような目。
しかしそんな目は、ただ一点―――扉を粉々に吹っ飛ばした張本人であるなまえへと向けられていた。

「冥利くん」

それだけ呟いて、なまえは雲仙を見つめたまま彼の元へと歩いていく。
彼の目で自分の価値を認めて欲しい。
見下されようが見下げられようが、認めてくれるならばなんでも良い。
私だけを見て私だけを思って私以外を排除して。

「ったくよ!」

紅茶が入ったティーカップ。

「お前なあ!」

美味しそうな洋菓子。

「さっさとこっちに来い!」

手を拭くための真白いナプキン。
それらが雲仙の言葉と共になまえの前に置かれ、先ほどまで雲仙の後ろにいた少女がなまえの背後から椅子を差し出した。

「え……?え?」

「今すぐそこに座るか俺の上に座るかどっちかにしろ」

「委員長はあなたとお話しがしたいそうですよ」

「んなこと言ってねえだろ。あ。あと風紀委員会はもう全員帰れ」

「承知いたしました」

戸惑うなまえをよそに、今まで嬉しそうに雲仙となまえを眺めていた彼女達はぞろぞろと部屋を出て行く。
椅子に着席したものの、目の前に置かれたお菓子と紅茶を眺めるだけでどうしようかと悩んでいるようだった。
「ったく…来るのがおせえよお前それでもヤンデレ属性か」

「え、ご、ごめんそうだよね私冥利くんのこと大好きなのに冥利くんが望んでるときにすぐ会いにこれないし私がちゃんとしないから冥利くんの周りに変な女が沸くしクラス違うから隣同士で授業一緒に受けたり教科書見せあったり出来ないし本当にごめんねでもそんな私を好きでいてくれる冥利くんが私も好きだよ?」

「おう。俺も愛してるぜ」

「う、うふ…ふふ……」

「そうそう。お前は笑ってた方が可愛いって。さっきも呼子がよ、」

今度は、なまえが使っていた椅子の背もたれが破壊された。
その破片も何故かなまえの方にぶつかったものの、破片が細かくて怪我はない。
それを見て、雲仙が「悪かったな」とだけ呟いた。

「う、ううん。冥利くんは悪く無いよ。冥利くんに名前を出させたあの女が悪いの。でもあの女を排除しようとはしたんだよ?したんだけど、1日限定3個の限定ケーキをくれるっていうからつい……」

「ああ。甘いものにはめがないもんな」

「す、凄く美味しかったんだけど、その、冥利くん以外から貰ったものを口にしちゃった罪悪感が……その」

「いいぜなまえ。そうやって俺に嫉妬させようとしてくれたんだろ?そーゆーとこも俺ってば大好き」

「ほ、ほんと!?あ、あのね実はあの人にアップルパイとかマカロンとかアイスとかももらってたりして、」

「いや引っかかりすぎだろ…」

呆れたように笑みをこぼす雲仙だったが、嬉しそうに目の前にあるケーキを口に運んでいる様子を見て、一層笑みを深くした。

「そうそう。俺から理事長に話してたんだけどさ、明日から俺と同じクラスだぜ、なまえ」

「へえー……って、え!!?!?」

驚きのあまり、カチャン、と紅茶を置く手が滑り紅茶が零れてしまう。
ごめんと謝りながら机を拭くなまえだが、雲仙は別にそのことは気にしていないらしい。
ふんぞりかえったままの姿勢で言葉を続けた。

「つうか今までお前が普通科に普通に居たのが信じられねーよ。最初っから能力隠さずにいれば俺と教室で先生の目も気にせずイチャイチャできたのにさ」

「十三組って変人の集まりってきくから…私変人好きじゃないんだもん」

「お前が言うなよ」

真顔でそういうなまえに雲仙は的確なツッコミを入れた。
なまえは零した紅茶を拭き終わったのか、新しくティーポットから紅茶を注いでいる。

「だって冥利くんと仲良いあの目隠ししてる子は良いとしても包帯巻いてる子とか仮面ライダーの良さを語ってくる改造人間とかなんなの不気味すぎるよ!」

「ああ確かにあいつらは不気味だな。特に包帯巻いてる奴なんて目つきが悪過ぎて見てらんねえよ」

お前がいうなというツッコミを彼に出来る人物がここにいないのが残念だ。

「ま、とりあえず明日からお前は俺と同じクラスで教室も一緒で隣の席で教科書見せ合いっこしたり俺が望んでるときにいつも隣にいれるだろ?」

「うん……!」

「ていうかよ、俺はいつもなまえを望んでるからずっと側にいれば問題ないんじゃねえの?」

「…そういうこと言うと、私本気にしちゃうからやめた方が良いと思うんだけど」

「俺は嘘言わない素直な子ってことで通ってるからな。なまえがその発言を後悔するくらいに愛してやる」

「私も他人を容赦無く傷つけられるあなたが大好き」

「俺は他人に傷1つつけられないおまえを愛してる」

「あー、なんかもう」


殺したいくらい大好きなので今にも手が滑りそうだ


(ちなみにそのケーキも呼子が用意したやつだ)
(あ、また…あの女……!)


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