(宗像形)


「で?お味の方はいかがでしょうか」

「先週のよりも味付けが上手くなったな。あとはこれに砂糖を入れてみるという方法もある」

「なるほど!やっぱり日之影くんは凄いなあ」

「い、いや、そんなことは決して……」

「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す」

「『まあまあ宗像くん。男の嫉妬は見苦しいぜ?』」

何か鈍い音を遠くで聞いたような気がして振り返ったなまえだったが、後ろには廊下へ続く扉があるだけで他には何も無い。
首を傾げた後、再び顔を前へ戻した。
そこには先ほどなまえが差し出した弁当を味わって食べている日之影の姿。
と、いつの間にいたのか黒神真黒がそこにいた。

「さっきそこで球磨川くんが死んでたんだけどなまえちゃん達何か知らない?」

「え……?さあ………また蛾ヶ丸くんにトランプで戦いそうとか言ったのかな」

「そうだとしたら沸点低いんだなアイツ」

「低いっていうかズレてるんじゃないのかな……。まあいいや。とりあえず日之影くんは殺されないよう気を付けてね」

「………?あ、ああ……」

置きっぱなしにしていた鞄を取りに来たのか、机の横にかけていた鞄を取ると颯爽と教室を後にする。
なまえも箸で掴んだウインナーを口に含むと味を確かめるようにしてから飲み込んだ。

「えっと、じゃあこの春巻きも味見して欲しいな」

「いいが…わざわざ作ったのか?」

「うん。日之影くんに食べてもらいたくて」

「僕が食べる」

「え?」

「僕が食べるって言ったら僕が食べるんだ。アンタはそこらへんで暴れてる生徒でも殴っていればいい」

いつの間に居たのか、日之影となまえが向かい合っている机の横側に椅子を持ってきて座っていた。
三年十三組。人呼んで『枯れた樹海』―――人を殺すことに長けた宗像形が。

「いや俺はもう生徒会では無いからな」

「返事が真面目か」

そんなことを言いながらも、宗像はなまえが差し出した春巻きを口に運ぶ。
あまりにも自然な流れになまえは唖然と箸を差し出したまま、春巻きを味わう宗像を見つめていた。

「あ、あまり食べているところを見られるのは…恥ずかしいというか」

「え、ご、ごめん」

何故か気まずそうに顔をそらした宗像にわけもわからず首を傾げて日之影を見るが、日之影は呆れたように宗像を見つめるだけ。
日之影は溜息を吐き、静かに口を開いた。

「あのなー宗像。俺は名字に料理を教えてて、これは味見してるだけだからな」

「………?なんでそれを僕に説明する?」

「はあ?」

「なんでキレられたんだ……」

なまえは弁当の中に残った料理を見つめながら2人の会話を聞く。
日之影は宗像の返答に呆れたように見つめるのに加え、盛大に溜息を吐いた。

「うん、じゃあ次は唐揚げね!」

「お前は空気を読むということを知らないのか」

はい、と箸で唐揚げを掴んで日之影に差し出すなまえに、頬杖をついたままツッコミを入れる。
再び宗像の殺気が強くなったのを受けて日之影は焦ったように手をひらひらと揺らした。

「もう腹いっぱいになったわ。悪いな」

「えー、日之影君に食べてもらう為に作ったのに」

「だからお前、そういう勘違いさせるような発言をだな…」

「なんかムカツクから殺す」

「おお、いつもより理由がそれっぽいな……じゃなくて!」

勢い良く立ち上がってみれば、なまえは勿論、宗像でさえも驚いたように日之影を見上げる。
日之影という巨体は、勢い良く立ち上がるだけで周りに圧力をかけるのに十分であったのだ。
しかしすぐに宗像の視線は鋭くなる。
それは、もし日之影がこちらへ攻撃してきても回避するよう警戒をするためである。
それが不要だということを知らない宗像は、警戒をとく様子はない。
対し、なまえは一瞬驚いただけでどうしたのだろうと日之影を見上げた。

「名字の料理はもう十分美味い。だから明日からは宗像にでも作ってやれ」

「え?でも宗像くんも自炊してるんじゃなかったっけ?」

「いや。僕はコンビニ弁当だ」

「人と関わることを避けてたんだから自炊だろお前……」

「何か言ったか元生徒会長」

「いーや何も」

宗像の殺気にたじろぎ、日之影は苦笑いをこぼす。
器用なもので、その殺気は日之影の目の前にいるなまえには届いていないようだった。
なまえに限っては殺気自体に気付いていないんじゃないかと考え、それがありうるから怖いな、と溜息をはきたくなった日之影であったが今はそんな場合じゃ無いと思考を停止させる。

「頼むから宗像に作ってやってくれ。そうじゃなきゃ俺の命が危ない」

「一応球磨川にでも生き返してもらうよう頼んでおくことだな」

「え、球磨川くんさっき死んでたんじゃなかったっけ」

「ああそういえば撲殺したんだった」

「そんな気はしてたけどな……」

はあ、と本日何度目かわからない溜息を吐いて、日之影は自身の机の向きを直す。
なまえはまだ自身の弁当を食べ終わっていなかったので会話を聞きながら食材を口に運んでいた。

「じゃあなまえ。明日から僕に弁当を作ってきてくれ。ついでに食べさせてくれたらなんだかとても嬉しい気がする」

「宗像くん、手怪我したの?」

「いや…ああ、じゃあそういうことにしておいてくれ」

そういう宗像の両手は、しっかりとなまえの手を握り絞めていた。



命と料理のやり取り

(『ねえ、僕殺された意味あった?』)
(さあ……あ。そうだ球磨川。もし俺が宗像に殺されてたら生き返らせてくれ)
(『別にいいけど、忘れてなかったらね』)


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