(都城 王土)


十三組の十三人のラスボス的存在とも言える都城王土には、一人の付き人が存在していた。
名を名字なまえと言うその少女は、都城王土と同じく三年十三組ではあったが、しかし十三組の十三人には含まれていない。
というよりこの際、彼女が実際アブノーマルであるかなどと言ったことはどうでもいいことである。
彼女は都城王土がいるから十三組に在籍してるのであって、もし彼が――ありえないことではあるが――他のクラスに在籍していたとしたら、彼女もそれに付き従ったであろう。
彼女は彼の許可無く他人と会話をすることも触れ合うことも、彼以外を視界に入れることもしない。
あえて言うのならばそれがアブノーマルとでも言ったところだろうか。異常なまでに付き従う異常。『仰せのままに』。

「と、いうことでなまえ。寒いのならばこの偉大なる俺の上着でも着て構わなんぞ」

「……………………」

「おっとそういえば発言を許可していなかったな。今から30分、どんな発言でも許可するぞ。なまえ」

「かしこまりました」

「うむ。全くもって可愛げの無い返事だ。そこをどうにかしてもらいたいものだ」

「……………………」

「どうした?発言は許可したぞ」

「…………いえ。別に」

何も思うところが無かったとでもいうように、なまえは王土を見つめたままそう呟いてから口を閉ざした。
時計塔の地下十三階で、都城の上着を羽織ったなまえは数え切れない数のコンピュータを操作する都城をただ見守るためだけにここにいる。
たまに暇になった都城の話し相手になったりもするが、それも都城の気まぐれであった。

「しかしだな、俺の上着を貸してしまうと俺が寒い」

「ではお返しします」

「いや。そうではなく、俺に正面から抱きついてくれればなまえも俺も温まって一石二鳥というやつだ」

「え、あ、あ……その、」

「どうした?」

意地悪そうに笑う都城の顔から目を逸らしたいなまえではあったが、その許可を貰っていないのでただじっと見つめることしか出来ない。
なまえの中で恥ずかしさが爆発しそうなその寸前。

「……………………」

都城がふと目を閉じ、力を使うのに集中する。
それを感じ取り、なまえも邪魔をしないように口を噤んだ。
なまえの"主人"ともいえる都城は、たまにこうしてなまえを困らせる提案をしてくる。
命令というより提案であるそれに対し、なまえは自分の意思での決定を促されているということを知っていた。
だが主人である都城の提案を無下に扱うことも出来ず、なまえはいつも答えをはぐらかすだけ。
というよりなまえが意思を決定するまでに悩む姿こそを都城が楽しんでいるのではないかと最近思い始めた。
箱庭学園へ来ては大量のコンピューターの操作をするという毎日の繰り返し。
恐らく変化や刺激が欲しいのだろうとなまえは都城の許可無く思考した。

「…………………………」

なまえは発言を許可されていたが、特に都城と話そうとは思っていなかった。
彼は自分をなまえと呼ぶけれど、自分と彼とは対等の関係ではない。
そう呼んだほうがそれらしいからという理由で彼はきっと自分をなまえと呼ぶのだろう。
眼前で繰り広げられる非日常に、いつもいつも感嘆の声が漏れそうになる。
だからこそ、あの行橋未造も都城の側にいるのだろう。
なまえは彼についてはどうも思っていなかったし、行橋も都城の許可無く他の事を考えないなまえの考えていることに興味は無かった。
しかし何故都城がなまえを側に付き従えているのか―――それを理解することに興味がないといったら嘘になるが、それは行橋が都城に聞いても答えなかった。というよりなまえのことを話題に出しただけで都城に一度『言葉の重み』を使われてしまった。
その事実を都城に「席を外せ」と命令されたなまえは知らないが、とにかく。
都城が本当になまえに抱きついてほしいのならば、命令をすれば容易いことであるのに、となまえは少しだけ表情を変えた。

「しかしあれだな、こういったときばかりは行橋の能力が羨ましく思えるな」

「……と言いますと?」

突然声を出した都城に驚くことなく、なまえは言葉を返す。

「なまえが今何を考えているのか、俺の異常ではわからないからな」

「なっ………そ、そんなの、ご命令さえあれば…」

「それでは意味が無いだろう」

「…………………?」

「ふむ。俺が行橋の能力を手に入れるよりもなまえが手に入れた方がいいのかもしれないな」

本当にわからないのか、とでも言うように都城は笑い、作業を止めてなまえへゆっくり足を進める。
その普段と少し違う深い笑みに後ろへ下がりたくなったなまえではあったが、許可がない。
どうしたものかと困惑している間にも、都城はなまえの目と鼻の先まで歩いて来ていた。
立ち止まり、なまえをじっと見下ろす。
そしてそのままなまえの顎を大きな手で触り、優しくなまえの顔を上に向かせた。

「俺はなまえ、お前を対等な関係として付き従えているつもりで、そして妻になるべきなのはお前だと考えている。だから今からキスでもしようと思うが、お前はどうしたい?」

その言葉に、なまえは許可されていないにも関わらず目を背けてしまう。
しかしそのことに都城が何も言わないのは、「対等な関係」という言葉が事実だからだとなまえは頭の隅で考える。
そしてそれがわかったところで、なまえは自分の顔がだんだんと赤くなっていくのを感じた。
慌てて視線を都城に戻し、楽しそうにこちらを見て笑う都城に口を開いた。

「は、発言許可時間が終了します」

「では30分延長だ」


提案とは素晴らしい事

(もう逃げ場はないが、さあどうする?)



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