(コラボ企画)


「今日も平和だねー」

なまえはゆっくりと両腕を上に伸ばし、息を吐く。
それを見ていた刹那は少し固まったものの勢いよく足を動かすとそのままなまえの頭を蹴り飛ばそうとした。

「え!びっくりした!初対面でそれはあんまりだよ!」

「初対面だってわかってんなら俺の家で平然と普通にくつろぐな!!」

刹那は焦ったように肩で息をし、その後気付いたように急いで部屋の中を見渡す。
しかしなまえの存在以外で変わったところはどこもなく、落ち着いてから再びなまえを睨むように見下ろした。

「で?何の用だいお嬢ちゃん」

「えっと、安心院さんに新しい力の実験台になってくれって言われてなったら、気付いたらここにいたんだ」

「なんだかよくわかんねーが、気軽になっていいもんなのかそれ……」

刹那はなまえに害が無いと判断したのか、机を挟んだ向かい側に静かに座る。向かい合わせで座る、端正な顔立ちの女二人。
静かなこの空間で先に話題を切り出したのは刹那の方だった。

「あー、必要最低限のものしか無いから水ぐらいしか出せないけど、飲むか?」

「普通の?」

「あ、ああ…残念ながら天然ミネラルウォーターだとかなんとか山の天然水だとかじゃくて極々普通の水道水だ」

「うん、飲む」

「ていうか、何で?」

「前に安心院さんに貰った水が味が7段階変わる水だったからちょっと敏感になってて」

「全然安心出来ないのな、その安心院って奴」

はは、と軽く笑いながら刹那は適当にあったコップに水を注ぎ、なまえの分だけを持って台所から戻ってくる。
刹那の部屋だという此処は本当に必要最低限の物しか揃っておらず、しかしそんな部屋でも―――というよりそんな部屋だからこそ、なまえは必要以上にくつろいでいた。

「それで?名前をまだ聞いてなかったなお嬢ちゃん」

「なまえだよ。あなたは?お姉さん」

「お姉さんって言うわりには敬語使わねーのな。ま、いいけど。俺は刹那だ。まあその安心院って奴に元の場所に戻してもらえるまでくつろいでけよ」

「いいの?さっき刹那ちゃん私のこと蹴り飛ばそうとしてたのに」

「あれはもう忘れてくれよ。若気の至りってやつだ。必要なら謝るさ」

「いいよいいよ。くつろがせてくれるお礼」

「そうかい。まあお前みたいな苦労してる人間は別に嫌いじゃねーし。まあ嫌いだったとしても、お前なら大歓迎だよなまえちゃん」

「わーい。ありがとう刹那ちゃん」

「だからと言ってソファに横になって良いとは言ってない」

「えーケチ」

なまえは刹那の言葉に笑いながらソファから起き上がり水を飲む。
普通の水道水ではあったが、何の警戒もなくそれを飲み干すなまえに刹那は多少なりとも驚いていた。
刹那に毒を入れるつもりなど微塵も無かったが、しかしそれでも微塵も戸惑わないその姿勢。
疑問という概念が無いが如くこちらを信用しきっているのか、毒が入っていようと関係が無いのか。
言葉にすれば異常。力にして最悪。

「なまえちゃん、夕飯は何がいい?」

「刹那ちゃんのオススメで!」

対するなまえも、刹那の対応には少しばかり驚きを隠せないでいた。
初対面での突然の蹴りは学園の生徒会長であるあの一年生と同じかそれを上回るものであったが、それ以上に驚いたのはなまえに対する態度の変化の早さである。
いくらなまえが害の無い対応をしていたからといって、ここまで知らない人間をすんなりくつろがせるということは。
それほどまでに自分の力に自信があるのだろう―――そしてなまえの考えが正しければ、その力は自信に比例しているかの如く凄まじいものだろう。
言葉にすれば最強。力にして最高。

「そうだ、熊鍋なんてどうだろう」

「私熊鍋って初めて!」

「この辺に熊がいるのかは知らないけどな」

「動物園は?」

「うーん、俺としては子供達の夢を奪わない為にも動物園は却下だ。今から何処か遠くの山にでも行こうと思うが、どうだ?」

「却下!」

「いい笑顔でキツイなーお前!」

楽しそうに笑う二人が何を食べたのかは、この二人しか知ることはない。


どうぞ召し上がれ

(明日は何を食べようか)



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