(スクアーロ)


「うお゙お゙お゙お゙い!フラン!!どこ行きやがった!!」

なにか爆発でもあったのかと、ビリビリと震えた空気になまえは振り返る。
少し遠くに、長い銀髪を風に靡かせて怒りに口元を引きつらせている到底日本人とは思えない男が立っていた。
それがボンゴレファミリーというとあるマフィアの暗殺部隊『ヴァリアー』の作戦隊長である幹部、スペルビ・スクアーロであることなどは勿論ただの高校三年生であるなまえは知らない。
故に、近づいて声をかけようとしてしまうのである。
とあるマフィアの時期ボスがここに居たら『よく近づこうと思ったね…』などと呆れるかもしれないが、ここにはスクアーロとなまえの二人だけ。
特に妨害が入ることもなく、なまえは容易くスクアーロに声をかけた。

「あの、どうかしましたか?」

「あ゙あ゙?」

声をかけられると思っていなかったのか、スクアーロは今の機嫌の悪さもあってなまえを睨みつけるように見下ろした。
しかしなまえはそんな視線をなんとも思わないのか、スクアーロの言葉を待つ。

「なんだ?お前」

「高校生です」

「なんか用か?」

「困ってる人を見捨てて登校を続行なんて出来ませんから」

なまえが一般人とわかり、スクアーロは少し考える。
自分のこの外見と目つきの悪さで人が寄ってくるとは思えなかったし、目撃情報などがあればフランの捜索は容易になると考えて。
スクアーロは出来るだけ静かに口を開いた。

「あーじゃあお前、変な奴見かけなかったか?」

「あなたのことですか?」

「殺すぞテメェ……」

「あら駄目よスクアーロ。その子、一般人でしょ?またボスに怒られるわよ」

「テメェは黙ってろ!!」

突如現れた女口調の男に、なまえは呆然とそのサングラスを見つめる。
しかしサングラスの男―――ルッスーリアはなまえのことなど気にせず笑っている。

「い、いました!変な人です!」

「まあ否定はしねぇが…」

「ちょっともう!失礼じゃないの!!」

「ししし。しょーがねぇんじゃね?オカマだし」

「おい。フランは」

「いねーし飽きたしもう帰りたい」

「ふざけんな!ボスに怒られんのは俺なんだぞ!!」

今度増えた金髪にはなまえは特に驚くことなく、その長い前髪に隠れている目を下から覗きこもうとしている。
そんななまえに気付き、金髪―――ベルフェゴールは「ししし」と短く笑った。

「なに?スクアーロってばナンパでもしてたわけ?」

「んなわけねぇだろぉぉぉお!」

キンッ、という金属音と共に、スクアーロの刀とベルフェゴールのナイフがぶつかり合う。
それは三人にとっては見慣れた光景であったが、ハッと気付いてルッスーリアは二人を制す。

「ちょっと!この子は一般人なんだから、そういうのは見せないの!!」

「え?でもそいつ、全然驚いてる様子ねーけど」

「え?」

まさか話を振られると思っていなかったのか、そのことに驚いたようになまえは目を見開く。
そんななまえの様子にはルッスーリアも、喧嘩しそうであったスクアーロも不思議そうになまえを見つめた。

「何もんだぁ?テメェ…」

「あ、えっと、普段から銃乱射したりバット振り回したり螺子刺したりコマ回したりしてる人とかいるんで…」

「あらあら。日本も随分と物騒になったのねぇ」

「つーか最後のはいらねぇだろ」

それは日本の文化じゃねぇのかと突っ込みたかったスクアーロではあったが、これ以上面倒なことになるのは避けたいと溜息を盛大にはく。
そんな様子のスクアーロを見て不思議そうにベルへと説明を求めたなまえであったが、「普段からあんなんだから気にすんな」と言われ頷くしかない。

「でも、レヴィが来る前にあんたはどっか行ったほうがいいかもな」

「レヴィ…?」

「ただの変態。多分あんた会ったら『妖艶だ』とか言われてお気に入りにされちゃうぜ。ししし」

「あ、あはは……」

なまえは箱庭学園で『変態』と呼ばれている彼を思い出し、苦笑いを浮かべる。
容姿が残念な分レヴィの方がキツイものがあるかもしれないが、どちらにしろベルの言う通りにした方が良さそうだ。

「で?テメェは変なかぶりものした奴は見たのか?見てねぇのか?」

「変なかぶりもの…?」

「あー!いたですー」

と、どこからともなくやる気のない声が聞こえてくる。
なまえが後ろを振り返れば、視線の先には蛙のかぶりものをした少年がだるそうにこちらへ歩いてきていた。

「フラン!テメェどこ行ってやがった!!」

再び、爆発音かと思うくらい大きな声でスクアーロが叫ぶ。
慣れているルッスーリアやベルと違い、なまえは心臓が止まるかと思った、と自分の胸に手を当てた。

「先輩たちこそ迷子にならないでくださいよー。探すの大変だったんですからねー」

「それはこっちの台詞だぁああ!!」

今度は耳を塞ぐのが間に合ったなまえであったが、それでもスクアーロの声は大きい。
近所の人が驚いて外に出てこないだろうかとなまえは辺りを見渡したがこの時間には既に皆会社や学校へ行ってしまっているのだろう、誰も出てくる様子はない。
というよりそういえば遅刻だな、となまえは時間を諦めた。

「というか誰ですかーこの子…スクアーロ先輩の彼女ですかー?」

「だから違うっつってんだろ!!」

いい加減にしろと言わんばかりにスクアーロは怒鳴るが、耳をずっと塞いでいるなまえにフランの気だるそうな声は聞こえていない。
と、ベルがいいことを思いついたとでもいうように再び「ししし」と短く笑った。

「なー、コイツ連れて帰ろうぜ」

「はあ?」

「だって面白そうじゃん。王子の遊び相手にはピッタリだと思うんだけど」

「先輩それ誘拐っていうんですよ知ってますかー?」

「だからなんだよ。俺王子だし。昔から王子は姫を連れ去っていくもんなの。知らねーの?」

ししし、と笑うベルであったが、状況がイマイチ飲み込めていないなまえは耳を塞いでいた手を離して首を傾げるだけ。

「じゃあボスに電話して聞いてみましょうか」

「うお゙お゙お゙お゙い!意味わかんねぇこと言ってねぇでさっさと帰るぞ!」

大声にも関わらず、スクアーロの意見を無視してルッスーリアはボスであるザンザスへと電話をかける。
電話に出たのはザンザスの側にいるらしいレヴィであったが、とりあえず伝言を頼んだ。
電話口で何かが壊れる音やレヴィのうめき声が聞こえたものの、ルッスーリアはきちんとザンザスの言葉をレヴィから聞き、携帯をしまう。

「ダメだそうよ。あと、スクアーロはこの子をきちんと目的地まで送り届けろだって」

「はああ!?なんで俺が!!」

「元はと言えばテメーのせいだ、って。本当に言ったのかどうかはレヴィが言ってただけだからわからないけど」

「ちぇー。残念。な、お前名前なんていうんだ?」

「え、名字なまえですけど…」

「なまえね。俺まだ日本にいるから、また会いに行くことに決めたからちゃんと会えよ?」

強引すぎるベルの物言いに押され気味に頷いたなまえであったが、それでベルは満足したのか一番最初になまえへ背中を向けて歩き出してしまう。
次にフランが「じゃーまた」と言ってベルの後に続き、ルッスーリアは「きちんとエスコートするのよ」とスクアーロに伝え、キレそうなスクアーロから逃げるようにその場を立ち去った。
後に残されたスクアーロは怒りながらもなまえの横を通りすぎ、怒ったように振り返る。

「早くしろ!行くぞ!!」

「え、でも変な人について行くなって言われてるんで……」

「だから変な人じゃねぇっつってんだろ!!!」


変な人には気をつけろ


(この俺を変人扱いした借りは必ず返すから覚えておけよ)
(え、えーっと…聞こえませーん)
(うお゙お゙お゙お゙い!耳元で怒鳴ってやろうかああああ!?)
(ごめんなさい凄い聞こえてますうるさいです黙って下さい)
(さりげなく悪口言ってんじゃねぇ!!)



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