(シュタイン)
「んじゃ、そういうことだからなまえちゃん一人だけだけど頑張ってね」
ちょっとそこの八百屋行ってきてね、とでもいうようなノリで死神に重要な任務を任されたなまえは思いっきり溜息を吐くと暗くなった空を見上げた。
「…………………」
頼まれた任務はリストに載っているメンバーの魂を狩るということだったが、その数はおよそ150人。
死武専の生徒はサボっているのだろうかとこの圧倒的な数に茫然としたが、なまえはそれらをものの見事に狩り終わっていた。
所要時間約数十分。
三つ星職人ですら苦戦するであろうこの任務を、なまえは八百屋で野菜を買ってくることよりも簡単に終わらせていたのだ。
勿論敵が弱かったというわけでもない。
ここまで死神が予想していたのかはわかりかねるが、とにかくなまえは面倒そうにその場にしゃがんだ。
「(足捻った………)」
やはり無傷とはいかないのか、なまえは右足を丁寧にさする。
良く見れば身体中の所々に切り傷などが目立つが、どれも致命傷ではないらしく、既に血は止まっていた。
「…………………」
ふと、なまえの動かしていた手が止まる。
後ろに感じた気配に顔をしかめた。
「何か用?」
そう、顔だけ振り返って声をかける。
「ああ……いや、散歩だけど」
そこには見覚えのある顔があった。
眼鏡に白衣、そして頭に刺さったネジと気だるそうな目。
死武専の先生であるシュタインが、何故かそこに立っていた。
「あっそ」
なまえはそれだけ言うと立ち上がる。
その際右足に激痛が走り顔を歪めるが、すぐに表情を戻し今度は身体ごとシュタインへと向く。
しかしシュタインはなまえから視線を逸らし、惨劇の跡が残っている地面や壁を眺めていた。
「もしかして全部終わった?」
「うん」
「腕は衰えてないんだ」
「人を年寄りみたいに言わないでくれる?」
「そういうつもりで言ったわけじゃないよ」
何故かいつもと雰囲気が少しだけ違うシュタインになまえは顔をしかめるが、歩こうとするたびに右足に走る激痛にそれを考えている暇などなかった。
足を痛めているのを悟られないよう顔に出さないようにするのが精一杯である。
しかし、シュタインは平然となまえへ歩み寄る。
「じゃあついでだし一緒に食事でも」
「毒でも盛るの?」
「お前は一体俺をなんだと思ってるんだ…」
呆れたように溜息をはき、不機嫌な表情を浮べているなまえを見た。
「私疲れてるから帰る」
「送ってくけど」
「絶対にやめて」
「疲れてるんだろ?」
「一人で帰れるくらいには元気」
「そうは見えないな」
「大丈夫って言ってるでしょ」
「…………………」
困ったな、とでもいうようにシュタインは自身の後頭部を触る。
なまえは歩き出そうと足を動かしたいが、痛みのためにそこに立っているしかなかった。
願わくばシュタインが早く去ってくれるよう。
「お前を背負う理由と保健室に連れ込む理由が無くなるな…」
「え?」
シュタインの声が小さすぎて聞えなかったのか、なまえは驚いたように聞き返す。
その際シュタインの方を見たが、シュタインは苛立ったように眉間に皺を寄せて目を瞑っていた。
そして目を開けると、勢いよく口を開く。
「だってあんな任務、数十分で終わってると思わないだろ普通」
「え、ちょっと、何の話を……」
「手伝うついでに会話でもしようかと思ったら終わってるとかなんなんだよお前…くそ、」
「なんで逆ギレしてんの…あ、もしかしてこの任務やりたかったとか?残念でしたー」
「むかつくな…。解体するぞ」
「出来るもんなら」
「わかった」
「え」、!?
なまえが驚きの声を上げる前に、シュタインはなまえのことを横抱きにした。
そのまま平然と歩き出すシュタインに、何が起きたかわからないなまえは唖然と連れ去られるだけ。
そして数秒後、何が起きたか気付いたなまえがシュタインの腕のなかでジタバタと暴れ始める。
「は、離して!」
「嫌だね」
「ノイズ!」
「睡眠中だろ?今は夜だ」
「だ、誰か!」
「お前が全部殺しただろうが」
「、ぐ……」
「それに離したってその右足の怪我じゃ上手く歩けないだろ?」
勝ち誇ったようなシュタインの笑みを見上げて、なまえは暴れるのをやめてシュタインを睨み付けた。
しかしそれすらもシュタインの気持ちを良くさせているだけなのか、満足気に軽い足取りでシュタインは歩き続ける。
「俺の好意に気付かないその頭、バラして俺好みに変えてやるから覚悟しろよなまえ」
気付かぬ好意の代償とは
(あー死神様!なまえはちゃんと回収したんでこれからちょっと何処か寄ってから帰りますね)
(し、死神、たすけ)
(もしかしたら帰るの2日後とかかもしれませんけどそれ迷子ってことですから)
(あー、まあ、あんまり無理しないでね)
(え、ちょ、待っ)
(さーてどこからバラそうかな)