(零崎一賊)


「いい加減起きるっちゃ」

「うーん……」

「これだから子供は嫌いっちゃね」

静かに走る車の中で、三列シートの一番後ろに座っていた軋識が眉間に皺を寄せる。
自身の肩に寄りかかって満足そうに寝ていたなまえの頭をその肩を動かし跳ねさせ、その反動でなまえは不機嫌そうに目を覚ました。

「私だって麦わら帽子かぶってタンクトップ着てて語尾に変な言葉つけてる人なんて嫌い」

「おや。釘バットはいいのか?」

「釘バットは素敵だから好き」

そんななまえの隣で静かに座っていた曲識が無表情のままなまえへ問う。
自身の武器を好きと言われた軋識は喜ぶどろこか嫌そうに眉間の皺を深くした。

「おいおいアス。いくら妹が可愛いからって苛めるのはよくないぞ」

「変態兄貴がよくゆーよ」

「つまり苛められない私は可愛くないってことですかー!」

「いやいや舞織ちゃん。君も十分可愛いよ」

「そーゆう台詞はなまえちゃんの口から聞きたかったです」

「舞織ちゃんは可愛いよ。バカなところとか」

「ガビーン!なまえちゃんに貶された!!」

運転していた双識が鏡でチラリと後ろを確認し、微笑む。
その微笑みが気に喰わなかったのか、軋識は顔ごと双識から顔を逸らす。
次いで助手席に座っていた人識が呆れたようにナイフを回しながらため息をつくが、そんな人識にお構い無しに二列目に座っていた舞織が頭をぶつけない程度に身を乗り出した。
そんな舞織に笑顔で可愛いと言うが、双識の変態さを身をもって知っている舞織は嫌そうに横を向き、そんな舞織を後ろから見ながらなまえは嬉しそうに微笑む。
ちなみに舞織の隣にいると走行中ずっと絡まれるので二列目に座っているのは舞織だけであった。

「そういえばリルがなまえにあげたい物があると言っていたな」

「常識兄さんが?」

「あ、それ俺も聞いたぜ曲識の兄ちゃん」

曲識の言葉に、人識が反応する。
舞織は先ほど暴れたせいで車に酔ったのか、口元を抑えながら静かにしていた。

「あの人からのプレゼントってろくなもの無かった気がするんだけど…」

思い出し、諦めたようにため息をつきながらなまえは背もたれへと体を預ける。
山道を走っているにしては揺れが激しくない車に、再び寝てしまいそうだった。

「あー、多分新しい爆弾じゃねーの?高笑いがいつもより激しかったし」

「リルもなまえちゃんのことが好きなんだね。うんうん、仲良きことは美しきかな」

「前もらった爆弾なんて私の顔が描いてあったんだよ?木っ端微塵に爆発するのに…」

「あははは!そいつは傑作っちゃ」

「常識兄さんに頼んで軋識のも作ってもらお」

「……不愉快極まりないっちゃ…」

なまえの顔が描いてある爆弾を想像したのか、それが軋識のツボに入ったようで盛大に笑い始める。
その行為がなまえを更に不機嫌にしたようで、拗ねたように呟いた。
その呟きに冗談じゃないとでもいうように笑みを消し、軋識は頭を抱える。
対し、双識はずっと笑みを浮かべていた。

「にしても、こんな零崎オールスターズで行かなくても良かったんじゃねーの?」

「オールスターズとは言うね人識。リル達がいないのだから零崎総出の戦力の半分にも満たないよ」

「零崎三天王が揃ってんのに何言ってんだか」

「もう一人くらいなんとかならなかったの」

運転席と助手席で話す人識に、なまえが呆れたようにため息をつく。
しかし三天王である曲識・軋識・双識は別にそのことについてはどうとも思っていなかった。
かといって、他の零崎が四人目に名乗り出るわけもなく。
『自殺志願』『愚神礼賛』『少女趣味』。その三人と同じくくりにされる殺人鬼が未だにいないということだろうか。
なまえは初め常識が四人目になれば良いのではと考えていたが、一賊で最も有名な零崎であるあの人が入ってしまえば他の三人の影が薄くなってしまうし、あれは"1人"であるべきなのだろう。

「あ、じゃあ、私と人識くんとなまえちゃんで、新・零崎三天王を組むってのはどうでしょう!」

「そんな新ユニット組むみたいなノリで言われても…」

「それに三天王だなんて別に私達が言い始めたわけじゃないしね」

酔って元気を無くしていたはずの舞織の突然の提案に、前に居た人識と双識が苦笑いを浮かべた。
後ろの三人はどっから出てくるのかわからない舞織の発想にはもう反応することをやめたのか、曲識と軋識は黙って外を眺めている。

「むー、じゃあなまえちゃんと私で零崎美女コンビ!とか」

「お願いだからやめて」

「そうだね。舞織ちゃんとなまえちゃんはどちらかというと美少女コンビだ」

「別の意味で関わりたくねえよ、それ……」

舞織と双識が組むと普段の二倍以上面倒なことになるので、なまえと人識は同時に盛大なため息をついた。
これには流石の軋識は同情したようになまえを見つめている。

「ま、とりあえずここらへんで良いか」

そう双識が車を止めると、何も言わずに彼らはドアから降りる。
その手に握られている武器達は綺麗ではあったが、どこか不気味な存在感を醸し出していた。

「へー。キャンプにはもってこいの場所だっちゃね」

「確かにドライブ気分ではあったが、キャンプをしに来たわけではない」

「じゃあ今度皆でキャンプでもするかい?」

「殺人鬼集団のキャンプとかどんなホラー映画だよ」

「どちらかというとスプラッタだね!」

「どっちにしろ誰も見ないよそんな映画」

持っている武器と不気味な森が不釣合いなほどに、和気藹々と6人は会話を続ける。
最後に双識が、並んだ5人の中央に立ったところで、6人とも暗闇に包まれかけた森を見つめた。

「キャンプとは違うがスプラッタというのはあながち間違ってはいないだろう」

「映画には興味無いっちゃよ」

「え、でも18禁だとしたら人識くんはお留守番しなきゃだよね?」

「美少女コンビもだろうが」

「その異名二度と使わないで」

「まあまあ、談笑は帰ってからまたすれば良いじゃないか」

双識の言葉に、5人は口を閉ざす。
そして太陽が沈んだ瞬間、一瞬だけ彼らの瞳が鋭く光った。

「それじゃあ、零崎を始めようか」


一家団欒


(開始の合図で未来は終了)


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