(人吉善吉)


とある病院の託児室。
そこで一人で遊んでいたフードをかぶっていた善吉は、手にしたパズルが解けなくて四苦八苦していた。
ふう、と息をはいて時計を見上げる。
まだ時間は読めなかったが、長短の針がどの位置にくれば母親が迎えにきてくれるのかはわかっていた。
しかし、まだその時間には程遠い。
眉を八の字にしてそのパズルを解こうと再び目線を手元に戻した瞬間。
ガラッ、とうるさく後ろの扉が横に開いた。

「!?」

驚いて振り返れば、そこには誰もいない。
おかしいな、と首を傾げて目線を下げれば、そこには少し上の年くらいの女の子が立っていた。
こちらをじーっと見つめるそのショートヘアーの子に、善吉は驚いたように見つめることしか出来ない。
しかし女の子は善吉を見つめたあと、嬉しそうにこちらへ走ってきた。
そのせいで扉は閉じるが、女の子は気にしていないようだった。

「あ、あの!」

「…えっ、えっと、何かな?」

キラキラした目で女の子に間近で見つめられ、善吉は困惑したように笑みを浮かべる。

「あなた、まいご?」

「………多分、君が迷子だと思うよ」

「ええー!わたし、まいごとかなったことないから、ちがうよ!」

「じゃあ、初めての迷子だね」

「うーん…まいごなら、いっしょにいたほうがいいね!」

「もう一回言うけど、迷子は君だからね?」

しかし善吉の言葉を気にせず、なまえはパズルをどかして善吉の隣へと腰を下ろした。
そしてそこらへんに散らばっているパズルや玩具―――場所柄とても幼児向けのものとは思えないものもあったが―――を見渡し、適当に近くにあったものへ手を伸ばす。
それは善吉が遊んでいるものと同じ知恵の輪と呼ばれるものであったが、どう見ても善吉とは比べ物にならないほど難しそうなものである。
しかしそういったことは気にしていないのか、適当にカチャカチャと繋がった二つを掴んで遊んでいる。

「それ、解く気あるの……?」

「え?これ、カチャカチャするのたのしいよ!」

「遊び方が違うよ…」

「えー、じゃあちがうのやってみるね」

ポイ、と後ろに投げられた知恵の輪が壁にぶつかり、その衝撃で繋がった二つが外れたことは二人とも知らない。

「うーん…」

何で遊ぼうかと女の子がキョロキョロと見渡していると、善吉がポンポン、と女の子の肩を叩く。
「どうかした?」と訊く女の子に、善吉は先ほどまで解こうと頑張っていた知恵の輪を渡した。

「これ、やってくれない?僕じゃ解けないんだ」

「えっと、どうすればいいの?」

「この繋がってる二つを外せばいいんだよ!」

「わかった。むずかしいことはわからないけど、やってみるね!」

善吉に手渡された知恵の輪をカチャカチャと鳴らし適当に動かす。
善吉も期待した眼差しでじっとそれを見つめるが、しばらくしたあとで女の子は盛大に息を吐いた。

「むずかしいね、これ」

「そうみたいだね」

肩を落とす善吉を見て、なまえは自分が持つ知恵の輪と善吉を見比べる。
どうしたものかと首を傾げ、いいことを思いついたとでもいうように笑顔を浮かべた。

「わたし、むずかしいことわかるようにするから、わたしにまかせて!これ、ぜったいはずすよ!」

「本当!?」

「うん!」

「約束だよ!」

「うん!やくそく!」

「………………」

大きくなった小指を見下ろして、善吉は大きな学園を見上げる。
着こなしきれていない制服でその校庭を歩き校舎へ入り、階段をのぼっていく。
生徒で賑わう廊下を抜け、静かで人気の無い教室前で立ち止まった。

「失礼します!!」

そう大声を上げ、勢いよく扉を開ける。
教室はシン、としていて、椅子にも教室のどこにも人はいない。
しかし一箇所、窓際の一番後ろに、制服を来た少女の姿があった。
その女の子は驚いたように長い黒い髪を揺らして善吉を見上げる。
嬉しそうな表情を浮かべたあと、善吉は足早に少女へ駆け寄った。

「お久しぶりです。俺、人吉善吉って言います。また会えて嬉しいです」

「善吉、くん……?」

「あなたにまた会う為にこの学園へ入学しました」

にっこりと嬉しそうに笑みを浮かべる善吉に、少女も嬉しそうに笑った。
昔は難しくて無理だったパズルをポケットの中で握り締め、彼女へと差し出す。
約束を忘れていなかったのか、彼女は驚いたようにパズルを見下ろしてから俺を見た。

「なまえ先輩、このパズル、解いてくれますか?」


解けなかったパズル


(忘れなかった約束と共に)


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