(安心院なじみ)


「やっほーなまえちゃん!全然会いに来てくれないから、僕から遊びに来ちゃったよ」

「えっとー……誰ですか?」

「ああそうだった。君とは本当に初対面だった」

誰もいない教室に自分が立っていることに、なまえは誰かに声をかけられてから気がついた。
そしてこれは恐らく夢の中か、と自身が着ている中学生のときの制服を見下ろす。
それから後ろの棚に腰掛けている自分とは違う制服を着た少女を再び見た。

「初めまして。僕はただの人外である安心院なじみ。僕のことは親しみをこめて安心院さんと呼びなさい」

「初めまして…えーっと、ただの女子高校生の名字なまえです。安心院さん」

「僕も今まで相当長い年月を『死延足』によって生きてきたけど、そういう自己紹介をしてきたのは君が初めてかもしれない」

「?」

「実際よく覚えてないだけなんだけどさ」

安心院が笑う度、彼女のまとまった黒い髪が揺れる。
なまえは教室をじっくりと見渡した。
確かにここは教室ではあったが、十三組の教室ではない。かといって、中学生だった頃に使っていた教室でもなさそうである。勿論、小学生のときのものですらない。
まあ夢の中なんだしそういうこともあるか、と再びなまえは安心院へと視線を戻した。

「で、安心院さんは人の夢の中で何を?」

「ああ、まあ僕は『腑罪証明』というささやかなスキルでいつでも好きなときに好きな場所にいられるのさ。それがたとえ君の夢の中でもね」

「はた迷惑なスキルですね」

「…君もなかなかに言うじゃないか」

なまえの言葉に呆れたような表情を浮かべる安心院だったが、棚の上に立ち上がるとその場でジャンプして天井へと足をつけてしゃがみこんでしまった。
スカートが重力に反しているが、それも彼女の能力の何かなのだろう。
というよりもこれは夢の中なので何でも有りなのかもしれない。
正直そこまで彼女のスキルというものに興味が無いなまえは安心院から目線をそらし背中を向け、教卓へと歩いて行った。
そのまま先生が普段座っているローラー付きの椅子へ座ると再び安心院を見上げる。

「でも、人の夢の中にまで来るだなんて相当暇なんですね」

「何を言ってるんだ。夢の中で色々と暴れれば、現実での精神状態にも異常をきたすことだって出来るんだぜ?」

「え、じゃあ今私結構ヤバイ状況ですか?」

「いや。別にそんなことをするつもりはないからね。君の言うとおり暇だったからこうして遊びに来ただけなんだ」

重力に逆らうことなくぶらぶらと揺れる髪を目で追いながらなまえは安心院の話を聞いていた。
つまり暇人ということらしい。

「今失礼なことを考えなかったかい?」

「え、事実しか考えてませんけど…」

「君は思ったことを口にしちゃうタイプなんだね」

しかし特になんとも思っていないのか、クスリと笑っただけで安心院は今度は机の上へと立ち上がる。
行儀が悪いと言おうとしたが、別に夢の中なのだから何をしたって許されるだろうとただその行動を見ていた。

「そうだ。僕の暇つぶし相手になってくれたお礼に何でも好きなスキルを1つ作ってあげようか」

「スキルを作る…?」

「といっても作るのは僕じゃないんだけどね。まあ細かいことは気にしないべきだ」

えへ、と可愛らしく笑う安心院に可愛いと感心したなまえではあったが、安心院はそのあざとさはわざとだとでも言うように床に降り立ち立っていた机を蹴っ飛ばした。
すると、その机は壁に穴を開けて外へ飛んで行く。

「こんな見た目の僕がこんな力を出せるのもスキルのおかげさ。まあ遠慮せずに考えてくれ。勿論テーマそのものが矛盾してたり破綻してたりしたら無理だけど、基本的にどんなスキルだっていくらでもいくつでも作ってくれるよ。『時間を止めるスキル』だとか……あ、あと『頭が良くなるスキル』とか」

「えーっと、バカにされたんですかね?」

「『バカにされたことがわかるスキル』とか」

「バカにされたのか……」

はあ、となまえはため息をつくが、安心院は笑みを浮かべたままなまえを見つめるだけ。
しかしなまえは安心院に目線を向けるでもなく、教室に開いた穴をじっと見つめた。
自然、安心院もその穴へと視線を向ける。
すると、みるみるうちにその穴は塞がり、どこかへ飛んでいったはずの机もいつの間にか元に戻っていた。

「別に必要ないですよ。夢の中なら、こんなことだって出来ちゃいますし」

「ふーん。いいのかい?せっかくの機会なのに」

「その好意だけ受け取っておきます」

「別に謙遜したからって金の斧の話みたく得するわけじゃないのにおかしな奴だなあ、君は」

「金の斧は正直者の話だったと思いますけど」

今度はきちんと椅子に座り、頬杖をつく。
その目は何かを考えているような目でなまえを見つめていたが、すぐに元に戻って笑みを浮かべた。
なまえもその笑みに応えるように笑い、安心院はゆっくりと口を開いた。

「ていうか敬語じゃなくていいんだぜ?僕たちの仲じゃないか」

「え、でも安心院さんって年上でしょう?………かなり」

「それはもしかして喧嘩を売ってるのかな」


夢の中


(一体いくつなんですか?)
(ピチピチの18歳だよ)
(そう言うところが年寄りくさいです)
(え、もしかしてなまえちゃん僕のこと嫌い?)
(別に人の夢に勝手に現れたくらいで嫌いになりませんよ)
((根に持ってないかこれ……))



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