(裏の六人)
「ああなまえさんあなたは今日も美しい……!その雰囲気から醸し出される異常性!ぜひとも俺とボーリングを」
「あなたのアベレージは70前後でしょう引っ込んでて下さい」
「何言ってんだ百町!お前は一人で車に乗りながら弓でも射っていれば良いじゃねぇか!」
「いくら僕でもそれは無理です」
スーツ姿の半身サイボーグな男子生徒がなまえの手をとったかと思えば、その背後から右目側の前髪だけを伸ばした眼鏡男子がゆっくりと歩いて来、なまえの後ろから一見和風のような洋風ちっくな服を着た男が笑顔を浮かべながら歩いてきた。
2年の鶴御崎山海と百町破魔矢、そしてなまえのクラスメイトである糸島軍規である。
「いつも思うんだけど皆どこから出てきてるの…」
「ほんとーストーカーかってんですよねー。気持ちわるーい。ねーせんぱーい」
「湯前ちゃんは出てくるっていうかはみ出そうだよね」
「きゃー。先輩下ネタですかー。そういうの恥ずかしいですー」
「いつにも増してあなたの棒読みに拍車がかかってるようですね」
「あ、上峰ちゃん」
前に無表情二人、後ろに笑顔一人と囲まれたなまえにかかった声の主は裸にオーバーオール一枚を身につけただけという一歩間違えば露出狂だと通報されそうな湯前音眼と、三つ編みで眼鏡をかけ重たそうな本を持っている上峰書子であった。
湯前は風船ガムを膨らませながら両頬に手をあてて恥ずかしがっているようなポーズを取るが、上峰が言うとおり大根役者もびっくりなくらいの棒読み。
だからなのか、『気持ち悪い』と罵られた男三人はなんとも思っていないようだった。
「ほらほら、困ってるからどいたどいた。あなた達の髪型、理事長みたいにするよ」
「ほとんど無いのと同じじゃないですか」
「賛成の反対の反対の反対だな」
「にひひひ。怖い怖い」
突如現れた筑前優鳥に、男三人はなまえから離れる。
三人とも理事長の頭を想像したのか、少し困惑した表情を浮かべていた。
「またプラスシックス全員集まっちゃったけど…みんなそんなに暇なの?」
「なまえさんの為なら用事など放り投げてくる」
「とか言ってるクラスメイトを止めるために来ました」
「と言っている後輩に困惑するなまえを見に来た」
軍規の笑顔に、そんなことだろうと思った、となまえは静かにため息をつく。
"普通"をカス呼ばわりする鶴御崎にとって十三組であるなまえと会話をするのは別におかしくないが、その執着の仕様を見て百町はなまえの迷惑になっていると判断したのだろう。
そして軍規はきっとそれに困っているなまえと、苦労している百町を見に来たに違いない。
なんという奴だ、とそれを理解した百町も静かにため息をついた。
「湯前ちゃんは?」
「さっき先輩をトイレで見かけたんでー、お話でもしようかとー」
「私トイレ入ったの三時間も前なんだけど……」
「ストーカーはあなたじゃないですか湯前」
「そういう上峰もどうせ名字のことを分析するために後をつけてたんだろ?」
「女の子って怖い」
笑みを浮かべたまま上峰に質問を投げかける筑前を見たまま、上峰は否定することなく目を閉じた。
湯前も白を切るように風船ガムを膨らませている。
「にひひひ。そういうお前はどうしてここに?」
「名字に借りてたノートを返そうと思っただけだよ。はいこれ」
「あ、うん」
「ちゃんちゃん♪これにてあたしの出番は終わり。じゃああとは頑張ってね名字」
「またねー」
軍規の質問に余裕の笑みで返答し、筑前は持っていたノートをなまえに手渡して姿を消した。
笑みを浮かべたのもつかの間、目の前に突然出てきた鶴御崎がなまえの両肩をがしっと掴む。
暖かい手と、冷たい手。
突然のことに驚き、なまえは目を見開く。
「では、なまえさん。俺と共にボーリングを」
「だからあなたのアベレージは…!」
「悪いが鶴御崎。なまえは俺と先約があるんでな。またにしてくれ」
「この前もそう言われた気がするが」
「そうか?まあ、次までにボーリング練習しとけよ」
無表情の鶴御崎に対し、軍規もその笑顔を絶やすことは無い。
百町はそんな二人を見て、帰ってしまった筑前を除く他のプラスシックスを観察するように見る。
上峰は必死にその巨大な本になにやらメモをしているし、湯前は相変わらず風船ガムを膨らましながらなまえを見ていた。
そんな中、ぽん、と肩におかれた手にふと横を見る。
「にひひひひ」
糸島軍規が、何かを見透かしたような笑みでこちらを見ていた。
その笑みを見て何故か気分がよくない百町は、少し不機嫌そうに口を開く。
「……なんでしょうか」
「んー?いや、そうだな…」
軍規は視線を百町から必死でなまえをボーリングに誘おうとしている鶴御崎を見ながら、その笑みを深くした。
「敵は多いな、百町」
「なっ……!」
「そして勿論譲る気もねえ」
にひひ、と笑う軍規に、百町は勢いよく軍規から視線を逸らす。
そして目の前で笑っているなまえを見て、今度は盛大にため息をついたのだった。
気にせずとも非日常
(にひひひひ)
(何その笑み)
(いや、これからも面白くなると思ってな)