(黒神真黒)(日之影空洞)


「え、みんなビックリしなかったの?」

「入学するにあたって書類には目を通したからな」

「僕も。暇だったしね」

「そ、そっか……」

教室で、三人はこの学園で初めて理事長に呼ばれたときの話をしていた。
なまえは十三組に登校義務がないということをそのとき知ったのでとても驚いたという話をしたのだが、二人には全く共感してくれない。
その理由を聞けば、どうやら書類に目を通していなかったのはなまえだけだったよう。
『十三組が書類に目を通してるとは思ってない』と言っていた理事長の言葉を思い出し、あの人の勘違いかとなまえはため息をついた。
なまえは知る由も無いが、この二人以外に同じ学年できちんと書類に目を通した十三組は多くない。
しかしきちんと登校義務が免除されていることはきちんと知っていたので、それを"知らなかった"という点ではなまえは少数派だろう。

「そのときに聞いたんだが、十三組は登校してきてないだけでかなりの人数が在籍しているらしいな」

「え、じゃあみんなが登校してきたらどうするつもりなんだろう?」

明らかに席が足りないとでもいうようになまえは自分の席から教室を見渡した。

「まあ今までに本来あるはずの出席日数ぶん登校してきた十三組はいないらしいからそんなことにはならないんだろうね」

「え、じゃあもしかして私たち三人が初?」

「まあ僕は無理だとしても日之影くんとなまえちゃんがそう簡単に休むとは思えないから君たち二人が初めてかもね」

「やったー!日之影くん、私たち教科書に載るかな?」

「いや無理だろ……」

なんという思考の飛躍だと呆れるが、確かに全員が登校してくることはないだろうなと日之影は席に座ったまま黒板を睨みつける。
担任の先生が初め自分達二人が居たことにとても驚いていたし、こうして毎日連続して登校してくる十三組など聞いたことがないのだろう。
自分だけが登校していればこの存在に気付かれることなく授業は自習になっていただろうが、なまえがいる。
生徒が一人でも登校してきていれば先生は授業をするし、そして何よりなまえが自分に気付くのだから先生だって自分のことに気付いてしまう。
別に自習でないことに不満を持っているのではないが(というかどちらかといえば授業がきちんと受けられる今の状況はかなり良い環境だ)、そうして目立つのは自分らしくないと考える。
まあ教室を出てしまえば担任の先生だろうが自分の存在を忘れてしまうのであるが。

「まあ特例クラスの生徒達は自分達が極めたい分野を学べてるんだし学校に来ることは苦ではないみたいだけど、普通科の生徒では月曜日は憂鬱らしいね」

「月曜日って……ああ、休み明けだからってこと?」

「今僕はなまえちゃんがちゃんとした答えを言ってきてくれたことに驚いてるよ」

「え、何今のバカにされたの?」

「名字も学ぶんだな」

「え、何今のバカにされたの?」

「二回言うな」

冗談だとでもいうようになまえは笑う。
確かにクラスのほぼ全員が毎日出席している他のクラスと比べればこの十三組は異常だろうが、それでもなまえは良かった。
こうして楽しく会話ができ、わからないところも教えあったりすることができる。
といっても二人がずば抜けて頭が良いせいでなまえが教えることなんてほとんどないが。

「僕もなまえちゃんや日之影くんがいなかったら別に登校してまで授業を受けには来てなかったと思うよ」

「安心してよ。私は風邪とか引いたら休んじゃうかもだけど日之影くんならきっと来るから!」

「どこから来るんだその自信は…」

「なまえちゃん、もしかして『なんとかは風邪引かないから!』とでも言うつもりかい?」

「黒神くん、日之影くんに失礼だよ」

「今のは流石に傷ついたな黒神」

「え、僕が悪いの!?」

確かに、真黒はこの二人が登校してきていなかったらここではなくフラスコ計画のために時計台へと行っていただろう。
それをしないのは、この二人の限界に興味があるからだといえる。
思考が読めないなまえに、存在が見えない日之影。
帰る頃にはすっかり日之影のことを忘れている真黒は、いつも朝、この十三組の教室で日之影の存在を認識し、昨日以前の会話を思い出しているのだ。
最初は確かに驚いたが、こうなってしまうともう慣れである。
一度腕やノートに日之影のことをメモしたが、家に帰ってなんだこれはとメモを消してしまってからはもうそのようなことはしていない。
真黒に解析の能力があるように、日之影にはそういう異常性が存在する。
そしてそれは勿論、綺麗な笑顔を浮かべているなまえにも。

「それじゃ、私スーパーで買い物して帰らなきゃいけないから帰るね!」

「俺も生徒会の仕事があることだし行くとするか」

「じゃあ僕も」

三人はバラバラに立ち上がるが、一番出口に近い真黒が当然一番最初に出ることになる。
日之影はいつも黒板を綺麗にしてから帰るため、そのまま黒板へと歩き出す。
なまえは鞄のチャックが開いていたのか、その場にノートを散乱させていた。

「……………………」

真黒は目の前で閉ざされた扉を見つめ、明けようと手を伸ばす。
この扉の向こうへ行けばこの会話は思い出せなくなってしまうけど。
また明日会えば、自分達は元気に笑うんだ。


さようならとまた明日


(おはよう。今日も元気だね)


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